第10話 捕らわれのトリ
トリは鳥のぬいぐるみのような丸っこいゆるキャラのような妖精だ。外見上はどの鳥類にも似ていないものの、ベースになったモデルはいる。それはフクロウ。なので、性質的にはフクロウのそれに近いものを持っている。
つまり、どう言う事なのかと言えば、彼は夜行性なのだ。
そのため、トリは夜に散歩をするクセがある。そして、失踪した日の夜もまた、彼は1羽で夜の空を散歩飛行していたのだ。その生態を、アリス達は誰1人として知らなかった。
しかし、四天王キースはどこからか情報を把握して知っていた。トリを捕まえようと思ったなら、一番のチャンスはこの散歩の時だろう。
暗闇に暗いゲートが開いた時、それを避けるのは難しい。ゲートの存在に気付かない事すらある。トリは後者だった。
キースはトリの散歩コースを調べあげ、罠を仕掛けていたのだ。開いたゲートに気付かず、彼は吸い込まれるようにゲートの中に入る。そうして、魔族兵に捕まり、あれよあれよと言う間に牢に閉じ込められた。
様子を見に来たメガネをかけたイルカを目にしたトリは、この屈辱に声を荒げる。
「お前誰ホ? こっから出しやがれホ!」
「威勢がいいな。あたしの名はキース。こう見えて四天王の1人だよ。君は役目が終わるまでそこで大人しくしているがいい。あ、くれぐれも死のうとしてくれるなよ? 君は殺さないし、殺させない。君が死んだらリリスは他のマスコットに鞍替えしてしまうからね。それはまずい」
「僕を生かしているのはそのためホ?」
「ああ、あいつのマスコットはお前のままでなくてはな」
キースはヒレを器用に動かしてメガネをくいっと動かす。引っ掛けるところなんてないはずなのに、目の前のイルカはどうやってメガネをかけてるのだろうかとトリは首を傾げた。
それを言うなら、地上で平然と立って移動しているのも訳が分からないのだけれど。
「お前、イルカの形をした何かなのかホ?」
「あたしはただのイルカだよ。仲間より多少魔力が強いだけのね。そのおかげでこうして地上でも平気だし、空を泳ぐ事も出来る」
キースは得意げに自身の能力の自慢をする。そんなイルカの独り相撲を横目に、トリもまた目を細めて挑発した。
「でも僕を生かしておていいのかホ? りりすが僕を助けにくるホ」
「ああ、それはない」
「なんでホ?」
「何故なら、魔法少女はマスコットがいないとステッキを出せないからだ。魔法少女はステッキの力を借りなければ魔法が使えない、そうだろう?」
キースはトリの挑発を華麗にかわした。この時の彼女の言葉を聞いたトリは、頭の中に無数のはてなマークを生成させる。
「ステッキを出せない? そんな話は聞いた事がないホ」
「いや、本当だ。別次元にまで離れると、どんな魔法少女だって絆は切れる」
「ここ、別次元だったホ?」
「ああ、人間界でも魔界でも妖精界でもない狭間の世界だ」
そう得意げに話すキースのメガネは、光を反射してキラリと光っていた。
「お前の目的はりりすホ?」
「そうだ、今のあいつは魔法が使えない。よって、君を助けに来るどころか、そもそも変身する事すら出来ないんだよ。これはもう我々の勝確だ」
その時、トリの前にもう1人やってきた。そいつは筋骨隆々の鬼人。キースの側に来ても態度を変えなかったので、彼もまた四天王の1人なのだろう。
「何しに来たんだい、ディオス」
「作戦の成功を確認しに来たんだ。お前はトリを監視していな。俺様は打って出る」
「ああ、行ってくるがいい。今なら街は素人魔法少女しか出てこられない。君なら楽勝だよ」
「ついでに裏切り者のリリスも始末してやる」
最後に物騒な言葉を言い残して、ディオスは牢から去って行った。超絶パワータイプの鬼人の言葉に、トリは最悪のイメージを思い浮かべる。
「ヤバいホ……このままじゃアリスは殺されてしまうホ」
その頃、由香の家に変身を解いたももが合流。流れで昼食を取った後、アリスはトリが四天王に捕まった可能性を話す。
「それってヤバいじゃないですか」
「そーなんだよ。助けに行きたいけど、あーし、ステッキがないと魔法も使えないんだ。狭間の空間の座標も分かってんのに。ももは時空跳躍魔法まだ無理だし、先輩は引退してもう魔法使えないじゃん? 詰んだわこれ」
事情を話して自己完結したアリスの前に由香が現れる。そうして、腕を組みながら意味ありげに柱によりかかった。
「詰んだ? そうとも言えないわよん」
「え?」
「これを貸したげる。私の現役の時のやつ」
由香はアリスに向かって何かを投げる。この突然のアクションに驚きながらも、アリスは両手で何とかそれをキャッチした。何を投げたのかと彼女が視線をやると、それは魔法少女のステッキ。
この予想外の展開に、アリスは目が点になる。
「ステッキ? なんで?」
「引退した時にもらったんだ。それには魔力が充填してある。普通、ステッキは利用していた当人しか使えないけど、私のマスコットはトリの父親だ。アリスちゃんなら使えるだろう?」
確かにマスコットの親族なら、新しく魔力を補充する事は出来なくてもステッキ内に充填されたものなら使う事は理論上可能だ。
由香の意図を理解したところで、アリスはステッキのコアとのシンクロを試みる。
「あ、確かに使えそう」
「変身は出来ないから、魔法が使えるのは充填している分だけ。大事に使って」
「時空跳躍出来れば十分だから、無駄遣いはしないよ」
「じゃあ、健闘を祈る」
アリスが玄関で靴を履いていると、ももが心配そうな顔をしてついてきていた。靴を履き終わった彼女は、振り向いて優しく微笑む。
「ももちは街を守って。お願い」
「え? でも」
「あーしなら大丈夫だから。今街を守れるのはももちしかいないの」
「じゃあ、絶対に帰ってきてね!」
アリスはももにサムズアップをして、そのまま玄関を出る。そうして、ステッキの先を地面に落とした。大地の精霊を通してアリスは狭間の空間とのシンクロを図る。
静かな時間の流れる中、ももと由香は彼女が次元跳躍をする様子を見守っていた。
「異次元にも飛べるなんて、本当にすごいです」
「だって魔法だもの。信じれば何だって出来るよ」
やがて、手応えを掴んだアリスの足元に何重もの光の魔法陣が描かれ、それぞれが独自に回転を始める。その回転が目で追えなくなったところで、一瞬光量が爆発的に増加した。
「マジカルーラ!」
時空跳躍魔法の詳細を知っている由香は素早くサングラスをしたものの、何も知らないももはこの状況に軽くパニックになる。
「きゃっまぶしっ!」
この光は一瞬で収まり、普通の視界が2人に戻った時にはもうアリスはその場から消えていた。初めて体験したこの現象に、ももは目を大きくする。
「本当に……消えちゃった」
「魔法だかんね」
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