第6話 流石四天王は別格の強さホ
その話し方から言って、目の前の少女はココと言う名前のようだ。彼女はリリスに憧れて軍に入り、そして裏切りによって心に深くダメージを負ったらしい。
そんな憧れと憎しみの対象と対峙する事によって、彼女の感情は爆発していく。
「ココは魔王軍四天王! 魔王様に誓ってリリス、あんたを倒すのよ!」
やはりと言うか当然と言うか、目の前の少女は四天王の1人だった。いきなりの幹部の登場にトリは目を丸くする。ただ、そもそも魔王軍幹部だったリリスが魔法少女に寝返ったのだ。いくら偽装工作をしたとしても、いずれ正体はバレていた事だろう。この展開はむしろ遅いとすら感じられた。
相手が四天王だと分かった所で、りりすは今までの流れを把握する。
「じゃあ、あんたが魔物をばらまいてたって訳?」
「そうなのよ。ふふ、見事にハマっちゃって大笑いなのよ」
ココはりりすを嘲笑しながら手をかざして魔法攻撃を始めた。魔法の源のステッキを奪われたりりすは防御魔法を展開する事が出来ず、体で身を守るしかない。
「いい気味ですわ! いつまで耐えられるのか見ものなのよ!」
「くっ……。ムカつく……」
魔法少女衣装は素の状態でも攻撃魔法に耐性がある。けれど、流石に魔王軍四天王の攻撃魔法はその防御力を上回っていた。攻撃の度に衣装がボロボロになっていく。
この状態を、サポートマスコットのトリは指をくわえて見ている事しか出来なかった。
「何も出来ないのが歯がゆいホ……」
「知ってますのよ。ステッキが壊れれば再生させる事が出来ても、こうして無事なままならそれが出来ないと言う事を。つまり、ステッキがココの手にある内はあんたは何も出が出せないのよ。ココの勝ち確定なのよ!」
彼女の言う事は正しかった。魔法少女のステッキは1人に付きひとつ。壊れない限りは新しいステッキを作り出す事は出来ないのだ。その事は秘密になっていたはずなのに、既に魔王軍にバレていた事にトリは愕然とする。
その頃、一方的にいたぶられ続けていたりりすは、この屈辱にどんどん心がささくれだっていく。
「何あいつ。私が何も出来ないと思って……。ムカつくムカつくムカつくムカつく」
りりすは必死に身を守る事でかろうじてダメージを最小限に抑えている。けれど、少しでも気を抜けば攻撃魔法が彼女に致命傷を与えてしまうだろう。それだけ四天王の攻撃は鋭く高出力だ。
常にその隙をこじ開けようとするココの悪意に、りりすのストレスは加速度的に高まっていった。
「結構しぶといのよ。じゃあ、もっともっと出力を上げるだけなのよ。早くココに倒されるのよ!」
「いい加減に……調子に乗って……あんたあ……」
ストレスが臨界点を突破したりりすはフッと表情を消す。そうして、表情を殺した状態でココの方に顔を向けた。雰囲気が変わった事で、流石の四天王も少し怯んで攻撃の手を緩める。
「そ、そんな顔をしたって無駄なのよ」
「隙あり!」
ココがビビった瞬間を狙って、謎の影が素早く動いてステッキを奪い取った。影はりりすに向かってステッキを投げる。
「受け取って!」
「あ、うん」
この急展開には流石のりりすも戸惑ったものの、放物線を描いて飛んでくる自分のステッキを難なくキャッチ。これでまた魔法が使えるようになり、彼女の暴走も発動する前に止まった。
そして、この急展開にココも動揺する。
「ココの邪魔をしたのは誰なのよ!」
「私は魔法少女ピーチ! この街の平和を脅かす魔族は許さない!」
「ピーチ? そんなの聞いてないのよ!」
そう、りりすのピンチを救ったのは新たな魔法少女だった。突然現れたこの頼もしい助っ人は、まだ状況を飲み込めていない四天王に向かって攻撃を繰り出す。
それは一般的な魔法少女のイメージとは違う、極めて物理的なものだった。
「とりあえずキーック!」
「痛いのよー!」
まさかのキックに全く対応出来なかったロリレオタード少女は、呆気なく宙を舞う。それを目にしたトリは思わず叫んだ。
「今ホ!」
「わーってる! マジカルエクスプロージョン!」
ピーチのキックで無防備状態のココに向かって、りりすは爆炎魔法をぶちかました。ステッキの先から放たれる圧縮された魔力の塊は、四天王に接触した瞬間に大爆発。空中で巨大な炎の花を咲かせる。
「お、覚えてなさいなのよー!」
お約束の捨て台詞を残し、丸焦げになったココはゲートを開いて魔界に逃げ帰る。こうして、街を狙った悪意は無事に追い払えたのだった。まぁ、今回のターゲットは街じゃなくてりりす本人だった訳だけれど。
四天王を退けた後、りりすはピンチを救ってくれたピーチとハイタッチ。
「助けてくれてサンキュ! マジ助かったから! 本当有難うね」
「本当、間に合って良かったよ。遅くなってごめんね」
ピーチは目を潤ませながら突然りりすを抱きしめる。この流れにりりすは戸惑いながらもながらも、同じように抱きしめ返した。
トリもまたこの状況にどう対応していいか困惑してしまう。そんな時、ピーチ側のサポートマスコットが物陰からするっと顔を出した。
「全く、情けない内容だったわね」
そのマスコットを見たトリとりりすは同時に目を丸くする。
「ま、マリルホ?」
「ええーっ?」
そう、ピーチのサポートをしていたのは少し前にりりすが助け出した元魔王軍四天王のマリルだったのだ。元々が白猫なので、魔法少女のマスコットになっても全く違和感がない。
「助けられたままなんて気持ち悪いから。あんたの仲間になってあげたのよ」
「私、昨日魔法少女になったばかりで。だから自信がなかったんだけど、マリルがあんまり急かすから」
ピーチがすかさず事情を話したため、マリルは懸命に顔を洗い始める。どうやら照れ隠しのようだ。そんな白猫を眺めながら、りりすは頬を緩ませる。
「素直じゃないのがかーいい」
「でもね、間に合って良かったって思ったのも本当だよ。だって最近のアリスちゃん、しんどそうだったし」
「え? あーしを知ってる?」
魔法少女同士でも、変身前の状態を知らないと認識阻害魔法は有効。なので、りりすはピーチの正体が分からない。この状態が不公平だと感じたピーチは、目の前で変身を解除した。
その正体を目にしたりりすは、また目を丸くする。
「ももち?! 嘘でしょ」
「えへへ。これからよろしくね!」
考えてみれば、正体を知っている同世代と言えば、同じクラスの誰か以外に考えられない訳で。種明かしをされるまでそれに気付かなかった事にショックを受けたりりすは、思わず額に手を当てる。
「そっかー。そうだよねー。ごめんね、気付かなくて」
「そんな。私こそすぐに打ち明けなくてごめんなさい」
ももは魔法少女になったばかりで、話すタイミングをうかがっていたらしい。それで今日こそと思っていた矢先にまた出撃したため、慌てて追いかけたのだとか。
「でも、アリスちゃんすごくて。出る幕ないなと思っていたらピンチになって……」
「そっか。じゃあこれからよろしくね」
ここでりりすも変身を解いて、ももとしっかり握手をする。こうして、舞鷹市を守る魔法少女は2人になったのだった。
その頃、魔王城では四天王達がこの状況について話し合っていた。
「ココがやられたようだな」
「ああ、だがヤツは我ら四天王の中でも最弱」
「次は我らが出向き、本物の強さを見せつけてやろう」
「クックックック……」
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