第30話 『ちんもくステーション』 その14


 ぼくは、寝られないほど、考えました。


 しかし、結局のところ、正しい結論は、ひとつしかないと思えたのです。


 『目を覚ます』


 そう、そろそろ、目を覚ますときです。


 たしかに、ぼくは、きつい夢をよく見るのです。


 しかし、目が覚めなかったことは、今のところありません。


 目を覚まそうとして、なかなか、上手く行かないこともありますが、最終的に失敗したことはありません。


 だから、『もう。起きよう。』と、思ったのです。


 しかし、どうにも、目を覚ませないのです。


 『うーん。おかしいな? そんなことはないだろうに?』


 ベッドに横になり、起き上がろうとしました。


 『わ、起きられない。』


 どうしても、起き上がれないのです。


 もがいてもがいたのに、ダメなわけです。


 ちょっと休憩して、もう一度挑戦です。


 『ぐぐぐぐぐ、ぐわ〰️〰️』


 はあー。どうしても、起きられません。


 ちら、と、何かの光が煌めいたような気はしたのですが、それまででした。


 『やはり、ホテルから出なくてはならないかな。』


 そう、思うと、不思議と、身体がふわりと起き上がりました。


 キオスクのおばさんに電話をしようとしましたが、なんと、電話機が動きません。


 ぼくは、かばんを首から肩にかけて、部屋を出ました。


 かぎをフロントに置きましたが、誰もいません。


 しかし、ふと目を離した瞬間に、カギはなくなり、かわりに、また、紙が張られていました。


 『ありがとうございました。会計は鉄道当局が行います。たのしい旅をお続けください。』


 考えてみれば、一晩も泊まっていませんような。


 しかし、こうなったら、出て行くしかないです。


 ぼくは、駅に下りました。


 なんと、おばさんがキオスクを開けていました。


 『出発するのかな?』


 『いやあ。そうなったゃいました。あんパン頂けますか?』


 『もちろんです。コーヒーとお弁当も付けましょう。みな、鉄道当局が払いますから。あ、この駅オリジナルのシールも付けましょう。』


 『ありがとう。さようなら。』


 『ありがとうございます。はい。さようなら。』


 ぼくは、お辞儀をして、出口に向かいました。


 ドアを開けると、そこは、漆黒の空間です。


 なにもない、空っぽな空間でした。


 『なむなむ。』といいなが、ぼくが、足を踏み出そうとした瞬間でした。


 駅で、突然、ベルが鳴りました。


 『やましんちステーション方面ゆき臨時列車が発車します。』


 『なに〰️〰️。まったまった。』


 ぼくは、慌てて駅に戻り、あの切符を探しました。


 『ぽ〰️〰️。』


 と、汽車の音がします。


 やっと切符を探しあてましたが、改札が閉じかけています。


 『まってください。のりまーす。』


 ぼくは、駆け込みました。


 しかし、無情にも、もう、客車のドアが閉じました。


 『あー❕』


 けれど、なんと、キオスクのおばさんが、ひとつのドアの前に陣取っています。そうして、無理やり押し開いたのです。  

   

 『はい、乗って!』


 ぼくは、客車の中に転がり込みました。



         🚋💨









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