第3章 少年Mの場合 第1節 It's a Long Way to Kisaragi(きさらぎは遙か彼方)

1970年、春。喧噪けんそうの春。


最初の異変は鳥たちが教えてくれた。どこからか、鳥の大群が移動してきて、今いる鳥たちとナワバリ争いを始めたの。鳥たちの興奮と不安、そしておそれが伝わってきた。「地をう者たちはくるい死にした。草木はれた。空飛ぶ者さえちて死んだ」と、遠来の鳥たちは鳴きさけんでいた。


その内、私にも異変が起き始めた。頭痛、イライラ、不安、下腹部の痛み。何十年ぶりかな、この感じ。私が今いる世界には、月のけがれをはらみ小屋も無い。(だって、ゆうたいには生理現象なんて、無いもの。)

とうとう頭にきた私は、れいかいでんしゃに飛び乗った。なんの考えもなしに、何回か乗りかえたら、田んぼの中の無人駅に着いた。


きさらぎ駅・・・。やっぱり、ここだったか。


ふくけんきさらぎ市は、日本の、どこにでもあるぎょうじょうまちだった。海があって山があって町があって工場があって団地がある。「きさらぎ銀座」にはデパートや映画館もあるし、お酒も飲める。パチンコも出来る。特急が停まるリアル「新きさらぎ」駅もあり、町はずれには遊園地だってあった。ここが草木も枯れるような土地だとは、とても思えなかった。


町の背後の小高いおかに、おいなさんのしゃ殿でんがあった。私はそこでお世話になることにした。「ここで待て」と、だれかが私に命じたから。

私はここで、海の方ばっかり、水平線ばっかりながめて過ごした。


もうあぶらげ、食べあきたんですけど。はたち前だから、お酒ダメだし。さすがにおさいせんには手をつけられないしぃ。

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