28 酷なことを言うようだけど
僕の目の前では、
「本当にごめんね。鼻の頭を叩かれるのは嫌だったよね……無意識に当てちゃったんだよ」
「グゥゥゥ……」
「悪かったって。ほら、この居住区には食料もいろいろなものがあるから。これを食べて元気をだして。本当にごめん」
そう言って、火炎竜に
竜鱗国の人たちの移住も一段落ついて、僕は保護した火炎竜をつれて、レムリア島までやってきていた。瘴気の薄い場所は暮らしにくいだろうし、とりあえずこの島にいてもらうのが一番だろうと思ったんだ。
それで、魔族の居住区につれて来たんだけど。火炎竜はその場にいた大黒狼に対して激しく威嚇を始めてね。
そんなわけで、すっかり落ち込んでしまった火炎竜の機嫌を取っていると、そこに現れたのは魔族のダヴァだった。
「……クロウ……火炎竜……配下?」
「まぁ、うん。なんかそんな感じになっちゃってね。とりあえず、火炎竜にもこの島で暮らしてもらおうと思ってるんだ」
この島の奥には、溶岩スライムが生息している岩山がある。火炎竜はそういった環境を好むっていう話を聞いたから、ちょうどいいと思って。
そのまま様子を伺っていると、しょぼくれている火炎竜の頭に、大黒狼がポンと前足を乗せていた。なんか分からないけど通じ合うものがあったらしい。とりあえず、そこそこ仲良くはやっていけそうかなと思うよ。
◆ ◆ ◆
竜鱗区――つまり
現状で人口は約五十万。竜鱗国は民族連合の中でも特に人数の少ない国だから、これで国民の四割くらいは移り住んだ計算になるかな。もちろん、これからも移住希望者の受け入れは続けるつもりだ。
竜鱗区の区長邸にやってくると、そこでは二人の男が僕を待ち構えていた。
「お疲れ様、ヴァルム。あとザイツ」
「兄貴。ご苦労さんです」
「賢者クロウ殿。この度は世話になりました」
元外交官のザイツ。
そもそも僕とヴァルムが民族連合に来ることになったきっかけは、ザイツがアトランティス島までヴァルムを連れ戻しに来たことだったからね。彼が竜鱗国の運命を変えた、と言っても過言ではない。
僕は二人と同じテーブルにつく。
「さて、二人とも。改めて状況を整理しよう。竜鱗国はディモルクを首長として、精霊神殿と融和する道を歩み始めた。残念ながら、その現状は今も変えられていない」
僕の言葉に、ヴァルムは大きく息を吐いた。
「えぇ。俺が国に帰った時点で、竜鱗国は既に手遅れでした。ですが……
「みんなで頑張ったおかげだよ。ここは妖精国ティル・ナ・ノーグの領土だから、
レムリア島を賢導卿の自治領にする旨は、既に世界中の国に情報が伝わって、公のものとなっている。もちろん、精霊神殿の本拠地であるナナリア精霊国にも伝わっているから、そう遠からず向こうも動きを見せると思う。
「レムリア島の本島には魔族や魔物が暮らしていて、周囲の人工居住区には少数民族各国からの移住を受け入れる。そうなると、精霊神殿も僕らの存在を無視できないはずだ」
「へい。奴らがこの島を侵攻目標にするのは時間の問題かと」
「そうだね。それこそが僕の狙いだから」
そうして僕は、民族連合周辺の地図を広げ、駒を置いていく。
「少数民族国家連合は、各国それぞれが精霊神殿に対抗していた。ようは防衛力を分散させられていたんだ。そんな中、精霊神殿は今回、明確に竜鱗国に戦力を集中させてきた。戦略的に、民族連合は負けるべくして負けている」
酷なことを言うようだけど、これは紛れもない事実だからね。
地力を考えれば、本来なら民族連合が団結して精霊神殿に反旗を翻せば、勝てない戦いではないはずだ。だからこそ、神殿は各国を内部から分裂させ、団結を阻止してきたんだから。
「でも、これからは違う。民族連合の人々はこのレムリア島に移住し、妖精女王の臣民となった。同じ国の仲間として手を取り合い、一緒に戦えるようになったんだ」
「そうして精霊神殿の思惑を外す、と」
「そうだね。敵の狙いをこのレムリア島に絞れば、こちらも防衛力を集中させられる。これで、前よりはまともに戦えると思うんだよ」
防衛設備を作り込み、各国の軍を一つにまとめ、奴らの侵攻に備える。
それに、補給の目処もついてるからね。魔境の瘴気を使った生産設備を増やしていき、島内には鉄道を張り巡らせてそれらを運ぶ計画だ。
「竜鱗国の鉱山から、大量の資材を運んできたから、取り急ぎ僕は他の少数民族の居住区を整えるのを最優先にするよ。あぁ、ちなみにドラクロは――つまり
そうして、僕は目の前にいるザイツを見る。
「元外交官ザイツ」
「はっ」
「君を竜鱗区の区長に任命する」
僕が告げると、ザイツは深々と頭を下げる。
もちろん、民衆の中にはヴァルムを区長にと望む声は多かったんだけど。でも、ヴァルムはいずれオーリスのもとに帰る必要がある。
それに、ザイツは優秀な男だ。首都ウノスト市では前首長を助けるために活動をしていて、その後は避難民を取りまとめてトレサード市に避難させた。その先見性と行動力は、目を見張るものがあるから。
「しかし、私は竜化魔法を持っていません」
「うん。だけど、ここはもう竜鱗国じゃなくて妖精国だ。妖精女王の定めた憲法には、魔法によって人の上下を決めないと書かれているから。僕ら国民は、それを遵守しないと」
僕の言葉に、ザイツは一瞬目を見開いた後で、気が抜けたように笑い始めた。
「くくく……なるほど。他でもない女王陛下のお言葉には、臣民として従わねばならぬでしょう。分かりました、区長をお引き受けします」
うん、ザイツならきっと上手くやれるだろう。
「ヴァルムには将軍として、妖精国軍のレムリア島師団を率いてもらうよ。もちろん、これからやってくる他の種族の戦士たちも、みんなヴァルムに取りまとめてもらうつもりだ」
「へい。謹んでお受けします」
「苦労をかけるけど、よろしくね」
もちろん、種族間で文化の違いもあるし、難しい部分も出てくるだろうけど。そこはみんなで協力して、良いやり方を模索していくしかないだろうね。
僕もこれから、まだまだ忙しくなるだろう。ゆっくりと魔境スローライフを楽しみたい気持ちはあるけど、それはもう少し状況が落ち着いた後のことになりそうだ。
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