平常と日常③*

 東の空に滲むように広がった朝日が、柔らかな光で墓地を包み込む。朝露に濡れた芝生は光を受けきらめいていた。一定間隔で並べられた墓石の一部は風化し、表面には苔が生えている。いくつかの墓石には花が供えられ、墓地に彩を与えていた。


 早朝にも関わらず墓地の一箇所を囲うように人だかりが出来ている。その中心には恰幅の良い男が横たわっていた。


 恰幅の良い体の中心は十字の形をした墓石に貫かれていた。顔の上半分は潰され、割れた箇所から脳が零れる。白髪は血に濡れ赤色に染まっていた。遺体には烏が群がり、腹からはみ出た腸を啄ばんでいる。

 群集は口々に言葉を投げかける。


「殺人だって」

「酷い死に方」

「誰か医術師は呼んだのか?」

「何があったの?」

「朝からうるさいな」

「どんな恨みがあったらこんな風にできるんだろう」

「殺されたのは誰?」

「警備隊は何やってるんだ」

「どう見ても死んでるよ」

「酷い」

「犯人はまだ捕まってないの?」

「どんな殺され方なの?」

「大司教だって」

「怪しい奴を見た気がする」

「天罰が下るわ」


 人の波を掻き分け、紺色の警備服を着た中肉中背の男が中心に出た。


「見世物じゃないぞ! 家に戻るんだ!」


 警備員は警棒を振りかざしながら叫ぶ。男に捲くし立てられ、人々は後ろ髪を引かれながらも少しずつ散らばっていく。


 一人の婦人が振り返った。不安げな瞳には教会が写る。熱心な信徒である彼女は首から下げた十字架を強く握り締めた。


「聖誕祭は大丈夫なのかしら……」


 街に朝を告げる鐘が鳴り響く。死体に群がっていた鳥達が一斉に飛び立っていった。

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