第7話 独白/夢想/無双 双葉柴明さん執筆
☆筆者から☆
双葉さんは執筆後にカクヨムを退会されたため、文章をここに載せるしかありませんでした。
申し訳ありません。
私は響輝。五十嵐 響輝。かっこいい名前でしょ?
この中性的な名前のせいか、私はハスキーボイスにクールな立ち居振る舞いという、恋愛に於けるある種のバッドスキルを身につけてしまった。
LEVEL666くらいだろう。ネトゲ仲間うちでは自分を「我」と呼ぶから尚更か。
匠にデートプランの相談をされた。
偉そうに訳知りみたいに答えたけど、全部ゲームで推しが落ちた時の話だ。
現実の恋愛経験はゼロに等しい。匠は良い奴だ。
恋愛感情とかじゃなくて、好きだ。だからうまくいって欲しい。匠に頼られたら「経験が無いからわからない」なんて言えない。
それはゲームきっかけだからっていうのもあるけど、私の性格かもしれない。
大人っぽく見られるからつい大人ぶってしまう。それで心配になる。
匠はありのままできっと上手くいく。私が言った通りにしてダメだったら責任を感じてしまう。
素直にわからないと言えば良かった。自分のキャラより親友を大事に出来る様になりたい。ああ。
それに匠が順調に経験値を上げて行ったら今の関係性が崩れてしまう。
今のわたしの恋愛レベル LEVEL1 経験値0
デート後の匠の恋愛レベル LEVEL2 経験値999
もうすぐレベルアップだ。
恋愛にはさほど興味は無いんだけど、実際焦る。匠に頼ってもらえなくなるのは寂しい。
実は少しだけ気になってる人は居る。ゲームで匠と仲が良い「Yuto」さん。匠がさん付けしてるから、年上なんだと思ってる。私には年上が良い気がするし。
プレイでなんとなくその人の人格はわかる。匠はそのまんまだし。「Yuto」さんは、きっと優しくて世話好きだと感じる。
でもこれを恋と言って良いんだろうか?
ともかくあした、頑張れ、匠!
いよいよ明日デートか。わくわくして楽しみだけど、最近の俺はちょっと複雑なんだ。
たまには男友達と思いっきり遊びたい。贅沢と言われるかもだけど、そのうち誰も俺を誘ってくれなくなりそうで、怖い。
実際誘われなくなって来てるし。
女の居ない世界へ行きたい。
なんて、ふと思っちゃったりする。
だいたい許嫁なんて、勝手に親同士が決めた事。寝耳に水だよ。
そりゃあ凛は俺にはもったいないくらいの美人だけど。だいたい凛は良いのか?
俺たちお互いを何も知らない。こないだ出会ったばかりでもう一つ屋根の下。
凛なら好きに恋したらよりどりみどりだろうに。そんな風に考えるとナーバスになる。
それにフェアじゃない気がするんだ。お互いを選び合ってないっつうか。だから明日のデートは大事だ。
それでも最近ちょっと疲れてる。明日だって、本当に二人きりのデートなんか成立すんのかな?
そんな事考えながら、隠れる様に体育館裏から下校しようと歩くと、ドム、ドム、とドリブルの音。
「ああ、あいつら好きだなー」
クラスの奴ら、放課後いっつも3on3してる。ついこないだまでは俺もその中に居た。よし、勇気出そう。
「おーい!俺も混ぜてくれ」
一瞬場が凍ったみたいに感じた。
「おう!匠。待ってたよ」
田中。
「最近お前来ないからつまらなかったんだよ」
海陽。。
「早く来いよ!」
清。。。
「シューズねえだろ?裸足でいーよ」
りゅーえー。。。
「待ってたぜ」
トーカ!
「またよろしくな!」
まーくんっ!!
泣きそうだったけど、我慢した。
「あれ?双葉は?」
「あいつ、またバイトだってよ」
まーくんが早速ハイタッチして代わってくれた。
ああ、楽しい。そりゃ女にモテたい奴らは多いだろうし、俺だってそうだ。
だけど俺の青春はそれだけじゃない。こうやって、なんも考えず仲間達と一つのボールを追っかけて日が暮れる。それも大事なんだ。
よし来た!
ヘイ、パス!
ぷにゅ。
ぷにゅ?
チュンチュン チュンチュン
何だ、夢か。しかし俺も悩んでんだな。バスケットボールが「ぷにゅ、」なんてさ。有り得ない。
って、有り得てたあああああーっ!!!
目覚めた僕の目の前には凛が横たわり、パスを受け取る筈の僕の両手は彼女のたわわなボールを片手にひとつずつ鷲掴みしていた。
「匠、シャイだと思ってたら、案外気が早いのね」
かああーっと顔を赤く染めた凛が上目遣いで見つめる。
「ちがっ、あっ、おっぱ、なんで?ちがうんだちがうんだちがうんだああああーっ!!!」
「しぃーっ!」
人差し指を唇に当てた凛は目を伏せながら続けた。
「二人きりのデートは、もう始まってるのよ。先手必勝。このあとの手筈も整ってるわ。窓から抜け出しましょう」
「ちょ、待って!デートなんだから、顔洗って歯磨きくらいさせてくれよ?」
「ダメよ、彼女らに捕まるわ。それは私ん家ですればいいわ」
えー?いきなりお家デートですか?
「着替えだけ持って、ついてらっしゃい」
そう言うと凛は2階の窓から空に舞った。
白いフレアスカートがふわりと開いた。
「えええ?!」
おそるおそる階下を除くと、いつの間にか大きなマットが用意されて、凛はそこに仰向けで手招きしていた。
思わず僕も飛び込んで、凛の隣に横になり、ふたり顔を見合わせて笑った。
僕らがマットから降りると、数人の屈強そうな男達が速やかにマットをどこかに持ち去った。
「紹介するわ、執事の遠藤よ。遠藤、ありがとう。ご苦労さま」
逃走中のハンターそのままの執事は、無言で俺に頭を下げると停めてあったリムジンにふたりを誘った。
(なんという財力。いや、あんなにデートプランを考えたのに、完全にペースを狂わされてるじゃないか!そしてこのコ、無双過ぎる)
とりあえず身支度を整える為、凛の実家へ向かった。
「兵頭、車を出してちょうだい」
なんだコレ、漫画みたいだ。
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