第25話:実演
「まあ、ちょっとした工夫でな」
「ちょっとってレベルじゃないって⁉︎ レインは回復術師だったわよね? 本職の私より魔法が強いなんて……」
やれやれ。どうしても説明が長くなってしまうので少し面倒なのだが……話さざるを得ないか。これから仲間としてやっていくのに、共有できていないのもそれはそれで面倒だからな。
「実は、俺は全属性魔法を使えるんだ」
俺は、リーシャに詳しく説明したのだった。
「なるほど。5..5倍……そりゃ強いわけだわ。納得した。でも、ちょっとショックだわ。レインはこれからもレベルが上がるたびにどんどん強くなっていく。私は……」
自らの将来性を悟ったのか、顔に暗い影を落とすリーシャ。
確かにここまでの説明だと、俺は生まれながらにして才能に恵まれており、理不尽にも本職の魔法師であるリーシャが一生をかけても叶わないと思わせてしまったかもしれない。
ここからは、そうではないことを伝えておこう。
「リーシャ、俺は戦力として必要のない冒険者を仲間にすることはない。どう言えばいいのかわからないが……ちょっと見ていてくれるか?」
俺はリーシャにそう言った後、ミリアのもとへ。
「ミリア、少しだけ剣を貸してくれないか?」
「……? 構いませんが、突然どうしたのですか」
「リーシャ……いや、二人にちょっと見せたいものがあってな」
俺はミリアから剣を借りて、魔力を込めた。
すると、俺の魔力が通った剣が白い光を帯びる。
『魔力』は、魔法師や回復術師などのいわゆる魔法系の冒険者以外にも関係する。そもそも、剣士や魔法師などの職業に本質的な違いはそれほどないのだ。
剣士なら剣を通して魔力をいかに魔物に伝えるか。魔法師なら魔力をいかに素早く正確に魔法に変換するか。方法論が違うだけで、やるべきことはほとんど同じ。
要するにだ。本来は攻撃を得意としない回復術師である俺であっても、全属性を活かした強い魔力を剣に伝えることさえできれば——
ザアアアアアアアアアアアンンンンッッ‼︎
このように、ゴーレムを簡単に倒すことができるというわけだ。
「す、すごいです……! レインは、魔法のみならず剣もお得意なのですね!」
「す、すごい……。さっきのミリアよりも強いんじゃ⁉︎」
ミリアよりも……か。ふっ、狙い通りの言葉が出てきたな。
俺が剣も扱えることを二人に見せたのは、ある意味、自分の力を誇示した方が説明をするに当たって楽だと思ったからである。
「冒険者をやる上では、現状俺一人でも問題なく戦える。俺はここから更に成長するし、力にどんどん差が開いていくならリーシャどころかミリアも必要ない」
ビクッと身体を揺らすミリア。
少し怖がらせてしまったな。反省しつつ、俺は言葉を続ける。
「……というのは冗談だ。そもそも、さすがに『ミリアより強い』は買い被りすぎだよ」
「私もレインに勝てる気がしませんよ?」
「……単純な攻撃力では優っていても、昨日の『レッド・ドラゴン』とか、敏捷性が高い強敵の場合には経験や剣技そのものの習熟度といった側面もかなり大きく影響するんだ」
そう言いながら、俺はミリアに剣を返した。
実際、昨日の戦いでミリアに攻撃を任せたのは俺では倒せないと悟ったからだ。
現状で俺が魔法師のリーシャよりも攻撃魔法を得意なのは、回復魔法と攻撃魔法の共通点が他の職業に比べて少し多いから程度の理由にすぎない。
「なるほど。じゃあ、レインは攻撃力以外の部分に期待してくれてるってこと?」
「半分は正解だな。それに加えて、全属性っていうのは、先天的な素養がなくても特定の条件を達成することで後天的にも得られるものなんだ」
「そ、そうだったのですか⁉︎」
「じゃ、じゃあ私もいつか使えるようになるってこと⁉︎」
俺の言葉に驚愕する二人。
そもそも『Sieg』における二週目キャラ——俺は、ストーリー攻略を楽にするためのチートキャラだ。最後には一週目の最強キャラと同じくらいの強さに落ち着く。
条件達成による全属性解放の方がむしろ王道なのだ。
「その通りだ。回復術師として誰にも負けるつもりはないけど、剣や魔法はそのうち二人とも俺を超えていく。当然それを見込んでミリアとリーシャには期待してるんだ」
チラっと先ほど怖がらせてしまったミリアを見ると、いつものように戻っていた。
「でも、全属性を解放するにはどうすればいいの?」
「レベル50への到達と、一定の職業技術の習熟度を達成した上で、とある隠しダンジョンをクリアすれば達成できるんだが……まあ、もう少し先の話になる。まずは今の状態でより強くなれるように頑張ってくれ。属性解放してからも絶対に役立つ」
「なるほど……分かったわ」
よし、これで説明完了。
やっぱり、最初に実演して見せたおかげで説明が楽になった。
「じゃあ、残りの魔物をさっさと倒して街に戻ろう」
俺たちは淡々と依頼をこなして、帰路についたのだった。
◇
レインたちがゴーレムの討伐を終え、王都に戻る途中。
『黒霧の刃』の幹部の二人——レイヴンとルーガスが一キロほど離れた位置から双眼鏡で三人の様子を覗き見ていた。
「おっと、森から出てきたな。さすがはリーシャ、仕事が早い」
リーシャたちの位置を把握したルーガスは双眼鏡を下ろし、バッグにしまう。
監視を悟られないよう離れた場所から観察していた二人だが、位置関係的に森の中の様子までは見られていない。
レインとミリアの情報はランク程度しか持っていないため、このスピードでの依頼達成はリーシャの貢献によるものだと判断していた。
「にしても、ジルド様の命とはいえ、元仲間を殺るってのは気が引けるな。……それに、パーティ組んでる男はお前が目をかけてた学生だろ? レイヴン」
「レイン・シャドウ。どうしてよりによってリーシャと……」
「お前の気持ちもわかるが仕方ねえ。一人でも生かせば、俺たちの仕業ってことはバレる。バレたらクランに迷惑をかける。わかるな?」
「分かってる。……行こう」
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