第16話:全属性石化
おそらく、この三人の冒険者が戦っている途中に見つけられなかったのは、『レッド・ドラゴン』が空を飛んでいたからだろう。
強烈なダウンフォースもかなり接近しないと感じることはできないからな。
まあ、姿を現してくれたおかげで、説明の手間が省けた。
「ミリア、倒そう」
「はい!」
ミリアが剣を握り、『レッド・ドラゴン』と対峙しようとしたその時。
「君たちは下がっていろ! リーン、シーア、新人と一緒に逃げろ!」
「ちょ、シオンは⁉︎」
「こんなの戦って勝てる相手じゃないよ!」
「いいから、俺の言うことを聞け‼︎」
どうやら、シオンという剣士は、自分が犠牲になることで皆を逃がそうとしているらしい。
そして、『レッド・ドラゴン』が地上に降り立ったと同時、シオンは剣を持って飛び込んで行ったのだった。
「ちょ、早まるな……っ!」
という俺の声は、届かなかった。
……さすがに、目の前で人が死ぬ姿は見たくない。
「ミリア、まずはあの人を回収してくれ。俺が時間を稼ぐから、安全な場所に避難させてから予定通り倒してくれればいい」
「わかりました!」
頷いた後、ミリアはシオンの後ろを追いかけた。
しかし——
ザク——ッ‼︎
助けが入るより先に、シオンは『レッド・ドラゴン』の攻撃を喰らってしまったのだった。
鋭い爪により、肩を大きく抉られてしまっている。腕が千切れてしまったことにより、傷口からは鮮血が吹き出してしまっていた。
幸いにも即死ではないが、早めに治療しないと生死に関わる。
「なっ……!」
「シオン——‼︎」
シオンの仲間二人が叫ぶ。
そんな中、追いついたミリアが回収に成功。
大怪我を負ったシオンを非難させようと戻ってくるミリアと入れ替わる形で、俺は『レッド・ドラゴン』の背後に回り込んだ。
「こっちだ」
一旦注意を引きつけるため、『精霊球』をぶつけた。
ドゴオオオオおおおおおおおおおオオオオンンンンッッ‼︎
大爆発が起こるが、さすがにエリアボス相手だと大ダメージにはならなかった。
まあ、想定通りだ。
いくら全属性を駆使することで5.5倍になるとはいえ、今の俺はレベルが低すぎる。基礎攻撃力が低ければ、倍率の高さによる効果は限定的。
俺の狙いは、あくまでもミリアが戻ってくるまでの時間稼ぎである。
『レッド・ドラゴン』が巨体をこちらに向けたところで、シオンを安全な場所に避難させたミリアが戻ってこようとしていた。
さて、今は『レッド・ドラゴン』は俺に注目している。ミリアの攻撃が届くまでに、一撃か二撃くらいは攻撃を受けることになるだろう。
グギャアアアアアアアアアアア——‼︎
『レッド・ドラゴン』が咆哮を上げながら、爪による攻撃を繰り出してくる。
「ゲームで見たやつそのままだな」
こいつの動きはゲームでしっかり予習済みなので、この程度なら避けられる。
レベルが低い現状では敏捷性が足りていない俺だが、知識を駆使することでギリギリ避けることができた。
——厄介なのは、この後だ。
攻撃が当たらないことを悟った『レッド・ドラゴン』は大きく口を開けた。
口から赤い炎が見えた。ブレス発射前の演出だ。
『レッド・ドラゴン』のブレスは即死級の攻撃力を持つと同時に、破壊範囲が広く、発射速度もとんでもなく速い。避けるのは不可能だろう。
フッと俺は笑う。
『Sieg』では攻撃的なステータスが他の職業に劣る回復術師がプレイヤー同士の戦闘——対人戦では最強の職業だったことを思い出す。
なぜか回復術師が最強なのか?
魔法の発動速度に優れ、回復魔法を使って自分を回復できることも大きい。これに加えて、回復術師はステータスをカバーするための特別な防御魔法が使えるのが答えだ。
「レ、レイン————‼︎」
俺の危機を感じたミリアが叫ぶ。
その声と同時に、俺は件の防御魔法を発動した。
『
火・水・地・風・聖・闇の六属性が合わさった白いオーラが俺の身体を包み込む。
身体が石のように硬くなり、三分間だけ防御力が通常の十倍になる魔法だ。
加えて、攻撃時には5.5倍の威力になる全属性魔法だが、防御魔法を使った時には、5.5倍の防御力になる。
『全属性石化』は各属性の防御力が十倍になり、有利属性に対する防御力は二倍の補正がかかるため、計算すると七十倍の防御力ということになる。
このくらいの防御力があれば——
ドゴオオオオおおおおおオオオオオンンンッッ‼︎
至近距離から『レッド・ドラゴン』の超高火力ブレスを喰らっても無傷でいられるということだ。
グギャアア……⁉︎
まったく攻撃が効かなかったことに困惑する『レッド・ドラゴン』。
その隙をついて、背後を取ったミリアの剣技が炸裂する。
ザアアアアアアアアアアアアアンンンンッッ‼︎
元々の攻撃力が高く、優れた剣技を持つミリアからの不意打ち。さすがのエリアボスとはいっても、ひとたまりもなかったようだ。
『レッド・ドラゴン』の瞳から光が消え、脱力してその場に崩れたのだった。
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