うどんに転生したのである!

藍条森也

うどんに転生したのである!

 うどんに転生したのである。

 理由はわからないのである。

 トラックに轢かれたわけでもなければ、ダメッ娘女神に会ったわけでもないのである。それなのに、うどんになっていたのである。

 理由はわからないが、なってしまったものは仕方ないのである。うどんになったからには真のうどんとして、粘り強く生きるのである。

 『魁! うどん塾!』なのである。

 とにかく、会社に遅刻するわけにはいかないので、出勤したのである。

 うどんの身でえっちらおっちら歩いていったのである。うどんなので服は着ていないのである。真っ白なもち肌をさらして出歩くのは恥ずかしかったが、うどんだから仕方ないのである。途中、カラスに食われそうになったが、真のうどんとして粘り強く抵抗し、なんとか難を逃れたのである。そして、会社に着いたのである。

 ところが、上司はうどんになったわしを見るなり、思いきり顔をしかめたのである。

 「うどんになっちまって、いつもの建設作業をどうやってこなすんだよ」

 「大丈夫なのである。うどんは粘り強いのである。ロープがわりにどんな資材も持ちあげてみせるのである」

 わしは真のうどんとして粘り強く説得したが、上司はとうとう、うなずいてはくれなかったのである。

 このままではクビになってしまうのである。

 それは、困るのである。仕方がないから事務職に回してもらったのである。この細い体ならタイピングには向いているだろうと思ったのである。

 駄目だったのである。

 うどんの身では、一本打ちしかできないのである。タイピングに時間がかかりすぎて、仕事にならなかったのである。おまけに、うどんだからキーボードに張りついてしまい、よけい遅れてしまうのである。

 真のうどんも、こればかりはどうしようもなかったのである。

 わしは会社を辞め、病院に向かったのである。この細長い体ならカメラをもって人のなかに潜り込めば、胃カメラのかわりが務まるだろうと思ったのである。

 医者はわしの提案に対して、無情にもこう言ったのである。

 「うどんは胃のなかに入ると、消化されちゃうからねえ」

 もっともなのである。

 一言もないのである。

 わしはうなだれて病院をあとにしたのである。

 トボトボとうらぶれて、町のなかを歩いていたのである。すると突然、警報が鳴り響き、警告がなされたのである。

 「巨大隕石接近中! このままでは地球に激突し、世界は滅びてしまいます!」

 その声を聞いたとき――。

 わしはなぜ、自分がうどんに転生したかを悟ったのである。

 この危機を救うためだったのである。

 そうなのである。転生者になったからには、世界を救わなければならないのである。真のうどんとして、わしが世界を救うのである。

 わしは世界中のうどんに呼びかけたのである。

 「集え、うどんの勇者たち! うどんを愛する人類を、この地球を、うどんの手で守るのである!」

 そして、奇跡は起きたのである。

 わしの呼びかけに応じて、世界中でうどんが目覚めたのである。

 あるものは空を飛び、あるものを海を泳ぎ、またあるものは瞬間移動の能力を使って、世界中のうどんがわしのもとに集まったのである。

 「よく来てくれたのである! お前たちこそ真のうどんなのである! いまこそ、世界中のうどんがひとつになるのである!」

 わしのもとに集まった世界中のうどんがひとつになったのである。その身をつなげ、よじりあい、一本の巨大な蔦になったのである。巨大な蔦となったこの身で隕石を打ち返してやるのである!

 「うおりゃあっ!」

 わしは叫んだのである。

 立ちあがったのである。

 巨大な蔦となったうどんの体が一斉に起きあがり、宇宙目指して伸びあがったのである。が――。

 「ぬおっ!」

 わしは悲鳴をあげたのである。

 急に腰が折れたのである。

 やはり、柔らかいうどんの身に宇宙まで飛び出すことは無理だったのかである。

 巨大な蔦となったこの身が、地上めがけて真っ逆さまに落下していくのである。このまま地球も、人類も救えずに、空しく砕け散るのかである。

 否である!

 断じて否である!

 真のうどんは粘り強いのである!

 真のうどんは諦めないのである!

 真のうどんはいざというときこそ根性を見せるのである!

 「うおおおおりゃあああっ! うどんの命は! コシの強さ! なのであーる!」

 わしの叫びは真のうどんたちの魂を揺さぶったのである。

 そして、第二の奇跡は起きたのである。砕けた腰に力が入り、巨大な蔦となった身は再び、天を目指して屹立したのである。

 わしはその勢いに乗って宇宙空間にまで飛び出したのである!

 おおっ!

 見るのである。宇宙から真っ赤に燃えた隕石が降ってくるのである。

 「ぬおりゃああああっ!」

 わしは全力で巨大蔦となった身を振ると、隕石を打ち返したのである!

 おおっ。

 見るのである。隕石はもと来た道を通って、宇宙の彼方へと帰って行くのである。地球は、人類は救われたのである!

 しかし――。

 わしたちももう限界だったのである。隕石を打ち返した衝撃でその身はバラバラになり、地球の重力に引かれて落ちていくのである。大気との摩擦で燃えだし、消えていくのである。わしもまた、為す術なく地球の重力に引かれて落ちていくのである。

 わしは燃え尽きる仲間たちを見ながら最後の叫びを放ったのである。

 「焼きうどん、いっちょあがりぃ!」


 その頃、地上では――。

 人知れず世界を救ったうどんたちが大気圏に突入して燃え尽きる流星雨を見上げながら、幼い姉妹が話をしていた。

 「わあ、お姉ちゃん、見て! すごいきれいな流れ星!」

 「本当ね。あんなにたくさん。なにをお願いしたの?」

 「あのね。世界中の人がおいしいうどんをお腹いっぱい、食べられますようにって」

                  完

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