3-7 鵺の使徒
「使徒って何のことだよ!」
珍しく
「いやー、それがそのー」
その剣幕にすっかり怯んでしまった
しかし、
「まあ、その設定のこねくり回しは興味深いです。気分は最悪ですけど」
二人の態度よりは柔和だったが、
「
「えっ、何故それを!?」
「え?最初に
「おーっほほほぉー」
梢賢はますます目を忙しなく動かして、永から目を逸らす。
「多分、麓紫村では僕ら──鵺の呪いで転生している歴代の僕らをそう呼んで蔑んでるんでしょ」
「うっ!」
「まあ、それは百歩譲って仕方ないよ。
「まるで私達が鵺の手下みたいじゃないですか」
永に続く鈴心はさっきからずっと梢賢を睨んでいる。それにビビりながら梢賢は困った顔で言う。
「
「うーん、見方が変われば地位も変わるってことか。確かに興味深いけど……」
「それよりも、俺達の居場所を
考え始める永とは対照的に直情型の蕾生はまだぶすたっれて梢賢に訴えた。すると梢賢は手を合わせてペコペコしながら言い訳する。
「すまんって!本当はそれをいの一番に言うべきやった!でも雨辺も知らず、里の事情にも触れてない君らにいきなり言ってもわかってもらえないと思ってえ!」
だがそれはさらに鈴心の怒りを買った。
「ハル様が貴方ごときの考えも理解できないと、今言いましたか?」
「ひいいい、殺さんといて!」
まるで鷲に狙われた蛙。梢賢は部屋の隅に追いやられブルブル震え始めた。
「リン、リン。落ち着きな。梢賢くんの言い分はわかったよ」
「さすがハル坊……!」
慈悲深さを感じて手を合わせたのも束の間、梢賢は今日一番の命の危険を感じ取る。
「じゃあ、もう今すぐ説明できるよね?」
にっこり笑う永の目は氷点下。笑いながら人の命を摘み取る目だ。
「はひっ!」
その右横では蕾生が拳をボキボキ鳴らしている。蕾生の怪力加減がどの程度か梢賢はまだ知らないけれど、確実に骨の数本はもっていかれる予測はついた。
「えーっとな、あれは高三の秋頃やったかな。受験する気もなかったオレは毎日のように菫さんちに入り浸ってた。執拗にオレにうつろ神を説いてくるけど、受け流しながらな」
永の左に控えた鈴心の睨みをチラチラ気にしながら梢賢は続けた。早く言い訳を完遂させないと本当に危ない。
「けんど、良い加減業を煮やしたんやろな、ある日菫さんは切り口を変えてきた。使徒と呼ばれる存在の話や」
「それが俺達だって言うのか?」
蕾生が握ってた拳を開いたので、梢賢は少し落ち着いて語る。
「まあな。流石のオレもその話題には食いついてしもうた。聞けば聞くほど、
「それを信じたの?」
「そうや。オレ自身、君らに興味があったからな。けど菫さんも居場所の詳細はわからないって言うから、オレはすぐ都会の大学に行こうと思った。そこで君らを探そうと思ったんや」
「やっぱりすごい行動力だね……」
感心しながら聞く永の態度が柔らかくなったので、梢賢はやっと安心して少しおちゃらける。
「そっからがマジ地獄よ!勉強なんてしてこなかったツケが一気にきてなあ。思い出すと今でも吐きそうや」
「お前、頑張ったんだな……」
「馬鹿の一念、岩をも通すってやつですね」
勉強嫌いの蕾生も素直に敬意を表し、鈴心も睨むのをやめていた。
「で、なんとか大学に補欠合格できて、みっちり三ヶ月、君らを探してたんや。
「余裕綽々で現れたから、雨都には僕らの居場所を察知できるツールがあるんだと思ってたよ」
「あるわけ無いやろ、銀騎じゃあるまいし!まあ、あの時はオレもカッコつけたかってん。ミステリアスなイケメン登場ってな!」
すっかり元の調子に戻った梢賢の軽口に、鈴心も蕾生もきょとんとしていた。
「イケメン、とは?」
「格好良かったか?土下座が?」
「酷いっ!」
「しかし、そうなると
一人真面目に考え込んでいる永に、梢賢はあっさり言う。
「多分、例の伊藤やろな」
「伊藤の裏には
蕾生の質問に、梢賢は首を捻りながら答えた。
「いや、そこはオレも不思議でな。君らがここに来た日、一度足止めくったやろ?あの晩、
「私達の正体を隠して村に入れようとしてたんですか?」
「無謀だな……」
鈴心も蕾生も梢賢の言葉を遮ってまで呆れていた。
「んんん、まあそこはご愛嬌やで。その晩にきっちり説明したから、翌朝迎えにいけたやん。ただ、君らの正体を康乃様にバラしたのは珪兄やんなんよ」
珪の名前が出ると、永もさらに真面目な顔で眉を寄せていた。
「オレが都会の大学に入ったことを不審に思ったらしくて、オレを監視してたんやて。それでオレが君らと会ったのを知ったって言ってたな」
「それ、そのまま信じてるの?」
「いや、さすがにオレも疑ってるよ。けど、そしたら珪兄やんの何もかもを疑わないといけない。子どもの頃から兄貴みたいに慕ってた人を、オレはそこまでできん」
梢賢の言い分は鈴心には充分理解できた。鈴心も以前
「でも、君は僕に言ったよね?
「だからや。オレは身内を百パー疑える自信がない。だからオレの代わりにハル坊の冷静な視点で疑って欲しいんや」
その梢賢の言葉は今の彼の現状を的確に表現していた。村での梢賢の微妙な立ち位置が、実際に村に入って見ているから永にはすぐに理解できた。
「ああ、そういうことか。君が僕らを頼った本当の理由がわかった気がする」
村の事情、雨都の立場、それから梢賢自身の運命。それを永は思いやった。
「共に育った人を、故郷を疑わなければならなくなった……頭ではわかっていても心がついていきませんよね」
「あれは、そういうSOSだったんだな……」
鈴心も蕾生もここまで聞いてやっと慮ることができた。おちゃらけながら村を雨辺をと忙しなく三人に見せたのはその現状を感じて欲しかったのだと理解できた。
「梢賢くんは今まで孤独な戦いをしてたんだね、大変だったでしょう」
「ええ?いきなりの理解!」
真面目な雰囲気が苦手な梢賢は変わらずおちゃらけていた。
「戯けなくてはやってられなかったんですね」
「こそばゆい!」
「よし、わかった。これからは俺たちが力になる」
無条件で信じてくれたのは自分が雨都だからだろうか?梢賢は祖先達と彼らの絆を初めて実感した。
「ほんまに君らはもう、人が良すぎやで」
梢賢ははにかんでそう言うのが精一杯だった。けれど気持ちは伝わっている。
ほのぼのとした雰囲気の中を打ち消すように、けたたましいベルが鳴った。梢賢の電話だった。
「ピッ!なんやええところで──あ」
慌ててポケットから取り出して画面を確認したら梢賢はそのまま固まった。
「誰?」
「噂をすれば……菫さんや」
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