2-22 糸
「根拠は──これや」
「!!」
「げっ!」
「なっ!」
なおも伸び続ける白い糸を、梢賢は五本まとめて右手に巻きつけてから揶揄うように言った。
「おお、こんなん見慣れてんだろうに、リアクションあんがとさん」
「見慣れてるわけねえだろ!」
蕾生は叫ばずにはいられなかった。
だが、梢賢のは全く油断していた。ちゃらんぽらんな大学生だとたかを括っていたからだ。
「これは、絹糸?」
梢賢の右手をしげしげと見つめて永は冷静に問うが、梢賢は首を傾げて笑っていた。
「さあなあ、見た目は似てるけど、オレの場合はこんなん一分も持たずに消えてまうよ」
「光沢があって、
鈴心もその掌に残されたものに注目していたが、件の物と見比べる隙もなく、白い糸はふっと消えた。
「な?姉ちゃんやったらこれで人一人ふん縛って十分は持たせるわ。オレは資質がないねん」
「うっそ、あの
「生まれつきの能力ですか?」
永も鈴心も、普通の女性だと思っていた優杞にまで超常的な能力があると聞いてますます驚いていた。
「せやな。ちっさい頃は所構わず糸出して遊んどったわ。すぐ消えるからおもろくてな!」
「雨都の人は皆できるのか?」
「いんや。出せるのは姉ちゃんとオレだけや。その意味はわかるな?」
「?」
蕾生が首を傾げていると、永は真面目な顔になって答えた。
「つまり、銀騎の呪いが解けた後に生まれた子だけが持つ力ってこと?」
「眞瀬木の見立てではな。だから姉ちゃんが初めて糸出した時は家中ひっくり返ったらしいで」
「眞瀬木に見せたってことは、
「そらもちろんや。藤生に隠し事なんてできんよ。眞瀬木に相談したらそのまま藤生に上がってくねん。
で、姉ちゃんの力を見た
梢賢の説明はやはりどこか他人事のような雰囲気だった。
この村では
「やっぱり当時から藤生の糸に似てるってなったんだ?」
「まあなあ。誰が見てもわかるよ、こんなん。でも藤生の糸と違って、姉ちゃんのはしばらくしたら消えてまった。この力の正体は今もわかってへん」
「──雨都には、でしょ?」
永が挑発するように言えば、梢賢もニヤリと笑って答える。
「勘繰るねえ。確かに、姉ちゃんもオレも年に一回、正月になると藤生に出向いてこの力を見せろって言われとる。あちらさんとしては逐一把握しておきたいんやろな」
「経過を見たがるということは、藤生ではその力の正体がわかっている可能性があるということですね」
鈴心がそう言っても、梢賢は曖昧な姿勢を崩さなかった。
「さあなあ。うちは命令に従うだけやねん。ただ、姉ちゃんの糸もオレの糸もすぐに消えるから、大目に見られてるんやないかなって思う」
「藤生はその糸を物質化できる力があるから、雨都に発現した方は取るに足らない下位のものってことか」
永が言っても梢賢は肯定も否定もしなかった。
「まあ、ウチみたいなもんには想像するだけしかできへんねん。くわばらくわばら」
しかしすっかり盛り上がっている永と鈴心は仮説を立てていく。
「ということは、
「そう考えれば、藤絹の原材料を明かせないのも納得だよね」
「君らが勝手にそう考えるのは自由や」
二人の想像を聞いてなおも、梢賢はのらりくらりとはぐらかしていた。
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