2-20 珪の事業
「ハル様、藤生の家ではどんなお話を?」
「ああ、うん。話をしたと言えばしたんだけど……」
「なんか
「引っ掻き回す?」
「うん。蔵の泥棒は
それを聞くなり鈴心は憤慨しながら声を荒げた。
「銀騎は、お兄様はそんなことしません!」
「うん。だから僕も否定はした。でも僕らがここの所在を銀騎に教えてるんならわかんないだろってずっと疑ってて」
「んんん……」
鈴心は今回の転生では銀騎の身内に生まれたため、
永の話を聞いて腹に据えかねているようで、珍しくいつまでも唸っていた。
「終いには銀騎じゃないなら
「そんなに短絡的な方には見えなかったのに……」
蕾生の付け足しにも鈴心は意外な顔をして聞いていた。
「珪兄やんはな、今、コレなんや」
すると梢賢が鼻に拳を立てて口を挟んだ。
「天狗になってると?」
「そ。里にビジネスで大金を運んできてくれたからな」
鈴心に綺麗なハンカチを贈っていた珪の姿を永は思い出した。
「
「そうや。元々里は自給自足が基本の貧乏村やった。村の運営に係る費用は長年、藤生の莫大な貯金と
「いつまで?」
「いつまでも何も、ほぼ今もや。こんな現代にありえへんっちゅー思うかもしれんけど、事実や」
「えええー?」
さすがの永も薄笑いを浮かべずにはいられない。だが梢賢は真面目な顔で言う。
「ハル坊の疑問は当たり前や。珪兄やんもそう思ったんやろ。あの人は必死に勉強して一流大学に入った。それを卒業するとすぐ里に帰ってきてビジネスを始めたんや」
「もしかして、私がもらったハンカチですか?」
「そ。あれの繊維の正体は
そこまで聞いた永は不思議そうに首を傾げていた。
「そんな繊維があるなんて聞いたことないけど」
「そやろな。藤絹の歴史を遡ると、あれは藤生がこの里に落ち着く前──つまり
その製法は帝にすら教えられず、絹よりも美しく丈夫で当時の朝廷では争って買われていたらしいで。
成実が一度は朝廷の覇権をとったのも、その絹があったからとまで言われとる」
「製法が秘匿された不思議な繊維ってこと?植物性?それとも動物性?」
絹によく似た光沢を思い出しながら永が掘り下げようとすると、梢賢は肩を竦めて首を振る。
「ウチみたいな末端には知る由もないわ。藤生の他には眞瀬木しか知らんやろね」
「確かに、あのハンカチはとても綺麗です。市場に出たら人気が出るかも。お値段次第ですけど」
鈴心の一般的な評価に頷きながら梢賢は続けた。
「せやな。正絹よりははるかに安い値段を設定しとる。だから販路さえ確立すれば藤絹を大量生産して大儲け──っていうのが珪兄やんの計画や」
「それが村興しの正体ってこと?」
「そう。話を少し戻すけど、藤絹──って言うのは珪兄やんがつけた名前やから、里では単に絹って言うて藤生からわけてもらえる糸やった。
その糸の編み方を藤生から教わって、里のもんは自分らの衣服を作っとった。自給自足の村やからな」
一を聞いて十を知る永は、情報を正確に整理する。
「なるほど!
「ビンゴや。それまで藤生と眞瀬木の経済力で生かされとった里人が、絹の製法技術で自分で稼げるようになる。それを珪兄やんが確立するつもりなんや」
「え?どういうことだよ?」
永ほど的確に分析できない蕾生が聞くと、梢賢はゆっくりと分かりやすく説明する。
「順を追って言うとな、藤生から糸が精製されるやろ、その糸を里人が編んで布にする、珪兄やんがその布を売る。で、里人は報酬がもらえる。するとどうなると思う?」
「村人の自立が促せますね」
鈴心の答えに満足しながら梢賢は弾んだ声で結んだ。
「その通り!今まで藤生がいないと生きられなかった赤ん坊みたいな連中が、地に足つけて生きていけるようになんねん!」
「そりゃすごいな」
「もう、それは、ひとつの革命だね」
ようやく理解した蕾生も、永さえも感心しきりだった。
「言い得て妙やな。だもんで、今や珪兄やんは時の人。一部の里人の間ではそらもうヒーローやねん」
「ああ、やっとさっきの会議での彼の横柄な態度がわかったよ」
「お金という実にわかりやすい権力をあの人は持っているんですね」
「今の里で珪兄やんに逆らえるのは
梢賢は一種諦めたような顔で現在の状況を憂いていた。
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