事件簿① 二本の矢盗難事件
とにかくヒマなんだわ!
画面と睨めっこを続ける皓矢の傍で、青い鳥がうだうだと転がっていた。
「あー……ひまだわー」
チラッ。
「……」
皓矢の返答はない。
「あーあ、ひまですわー」
チラチラッ。
「……」
まだ皓矢の返答がない。
「ちょっとこーや!」
「わあ!」
辛抱たまらずルリカは皓矢の顔の横でバッサバッサ羽ばたいた。
「あたちがひまだって言ってるでしょーが!」
「どうしたんだい、ルリカ。ご機嫌ナナメだね」
呑気な主人の言葉はルリカの苛立ちを煽った。
「ご機嫌はナナメどころか直角なんだよ!刺すよ!刺さるよ!」
怒ったルリカは嘴で皓矢を攻撃する。得意の嘴ビームである。ビームと言っても何か波動が出る訳ではなく、ただつっつくだけだ。ビームの様に鋭くがモットーだ。
「い、痛い痛い!勘弁してくれよ」
「こーや、最近また研究ばっかりであたちを使ってくれないじゃん!」
「ああ、そうだねえ。一応彼らとは和解しちゃったからねえ」
のほほんとしている皓矢に、ルリカはペッと唾を吐く真似をした。
「仲良しごっことかまぢキモいわ!あいつらは鵺なんだよ!?」
「まあ……悪かったのはこちらだからねえ」
「あたちはそんなの関係ないもん!」
「そんなこと言わずに……」
宥めようとする皓矢の言葉はルリカの耳には入らない。思い出すのはあの日、鵺と対峙した時の高揚感。
「ああ、また鵺と戦いたい!この前のあたちを見たでしょ?かっこいくこーやを助けるとこ!」
「うん、そうだね。かっこよかったよ……」
また視線をパソコン画面に移した皓矢に、ルリカは今度こそぶち切れた。
「ながらで返事してんじゃないよ!刺すよ!」
「痛い!ごめんなさい!」
嘴ビームからちょっと波動が出た。
「こーやがそんなんだからさあ、見てよあたちの体。こんなに太っちゃってさ」
ルリカはずんぐりむっくりの体でぐるぐる回って嘆く。
「丸くて可愛いよ」
「そうじゃないでしょ!あたちはあの鵺と戦った時のスマートなあたちでいたいのっ!」
「うーん、困ったな。僕は急いでやらないといけないことが山積みで……」
「こーやは陰陽師と研究のどっちが大事なの!」
鳥がこんなに面倒くさいのは前代未聞だろう。だが皓矢にとってはいつものこと。ヘラヘラ笑って最悪な答えを言う。
「いやあ、それは両方だよ」
「ああん!?フタマタ男はちね!」
ルリカのキンキン声に目を細めながら、皓矢はなんとかわかってもらおうと状況説明した。
「極論だなあ。とにかくね、今はこの
「やじりなんてどこにあんのよ?」
皓矢が「この」と指差した先には何もなかった。
「え?おかしいな、この辺りに置いておいたんだけど……」
とっ散らかった机の上をかき分けて見ても、鏃などは出てこなかった。
「おかしいな……」
皓矢が首を捻っていると、ルリカは急にニヤっと笑った。
「もしかして盗まれたんじゃない?」
「まさかあ。この部屋には僕と君しか入っていないんだよ」
冗談だと取り合わない皓矢に、ルリカはまた繰り返した。
「でもないってことは盗まれたんじゃない?」
「いやあ、ちゃんと探せば出てくると──」
皓矢の見解は関係ない。ルリカは鳥のくせに口角を上げてにんまり笑った。
「あたちの出番じゃない!?」
「え?」
「こーや、あたちの本来の役目忘れてるでしょ!鵺の妖気探索特化型式神なんだよ!」
そう。ルリカは銀騎家伝来の高性能式神・
「ああ、そうか」
「ほんとに忘れてるんじゃないよ!刺すよ!」
「痛いって……」
困っている皓矢をほっといて、ルリカは鳩でもないのに鳩胸を張った。
「むっふっふー。あたちの本領を発揮する時がきたね!」
「名探偵ルリカの出番なんだよ!」
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お読みいただきありがとうございます
もし良かったら本編「転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ」も読んでみてください!
続編二部「転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔」は5月21日から公開です!
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