第3話 恋の火花
太郎は気絶した女性を前にして、事態の把握ができずにオドオドしていた。
この人は何者?自分に何の用があったのか?
いや、そもそも何で気絶したの?
俺、何か悪いことしたのかな??
色々な思考が頭をグルグルと回り、結局解答までは結びつかず悶々と思い悩んでしまうループに入ってしまうのだ。
「ふぅ〜」と太郎の鼻から白い蒸気がユラユラと立ち登る。
「この女性は何者なんだろう。」
太郎は眼下の女性の姿を眺めた。普段であれば、気絶した女性をジロジロと眺めるなどというハレンチな行為は、太郎の倫理観がストップするのだが、事情が事情である。倒れた時に頭でも打っていたら大変だ。この世界には救急車も病院もあるかどうかも分からないのだし。まぁ、RPGの世界にそんなものがあったら興醒めするが…
「それにしても…本当にキレイだなぁ〜。」
太郎の世界にもし彼女がいればモデルや女優にでも即スカウトされるんだろうなと思った。そういえば人気急上昇中の人気モデルにも何だか似ているような気がするぞ…異世界であっても人の秀美って共通しているのかな?…あのモデルの名前は何だったっけな?おっと、思考が逸れてしまった。
瞳を閉じ倒れている姿も、まるで彫像のように凛として美しい。
彼女の顔立ちは、細やかで均整が取れていた。高い頬骨、滑らかな額、そして細くしなやかな眉。
彼女の唇は、柔らかそうで、微笑むときには、その笑顔が周囲に温かな光を放ち、太郎の心を安らぎで満たしそうであった。
彼女の肌は、月明かりに照らされた雪のように白く、滑らかで…もし触れたなら柔らかな絹のような…感触がありそうだった。
そもそも女性の顔をマジマジと間近で見る機会は、彼の人生に一度として無かった…でも彼女を見ていると初めて会った感覚がしない…もしや…これが運命というやつなのだろうか!?
「今まで…こんなに美しい人に出会ったことないし…話しかけられたこともないし…この人は美しい…本当に」
今まで女性にモテたことのない人生。
いや、モテないだけならまだしも、相手にすらされなかった人生。
女性の視界に存在すらしない生命体…それが太郎の恋愛人生であったのだ。
「ドキン!」とドラゴンの心臓が力強く鼓動するのを感じた。
長らく感じなかったこの感覚。
かつて、何度か感じたことのある感覚。
心臓の鼓動がさらに激しく高鳴っていくのを感じる。
そうだ、幼稚園や小学校、中学校…憧れの女性を前にして感じたことのある感覚。
激しい恋の火花が脳内を駆け巡る。
「俺は、俺は…この人を好きになってしまった…」
太郎は異世界に来てはじめて好きな女性と出会ったと内心喜んだが、同時に思った。
このままじゃ意思疎通できないぞ…
太郎は心の中で強く念じた。
(この娘と仲良くなりたい!この人を…あんな…)
その瞬間、太郎の周囲の地面に突如、光の輪が出現した。その輪は彼を中心に二重三重に等間隔に広がる。更に複雑な紋様や文字のような図形が、輪の中に明滅する。
「これって魔法陣ってヤツかな?!これ俺がやったの??」
太郎はアワアワしたが、現れた魔法陣は更に複雑な模様を描き出した。
そして、そこから現れた光が女性と太郎を包み込み……太郎は意識が遠のく。
太郎は、自分が何をしたのかもわからずに薄れゆく意識の中で呆然としていた。
(俺……一体なにをしたの?)
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