ここは異世界!!そして僕はマーモット!?〜げっ歯類異世界探訪記〜

への字口狸子

矮小なその身を以って

ちゅーとりある

ちゃぷたー1 始まりは…

どうしてこうなった――


「……」


 暖かな木漏れ日が降り注ぐ静かな森、その湖畔にそれはたたずんでいた。

 体長およそ50cm前後、ずんぐりとした体型で手足が短く、赤褐色せきかっしょくの毛に覆われた体に短い尻尾。


 後脚で立って水面を覗き、己の姿をしばらく放心して見ていたそれは、


「マーモットやん……」


水面に映る自身をそう表現した。


どうしてこうなった———


 その獣が何度目かの自問をしながら自分の頭を両手で抱え悩みながら考える。


「(え?ちょい待って…、なんで?ミス?バグってんの?)」


 ちょ、ちょい整理…とその獣はここに来た経緯を思い返す――





 そこは現代の地球。とある場所に一人の男がいた。


「明日もはよ起きなあかんしな、もう寝よ」


 その男はいつものように日付が変わる前に布団に入った。


そして夢を見る―――


 夢の中でその男は何もない空間に漂っていた。


「えっ何ここ…?」


 男は焦りながら辺りを見渡した。何も無い空間がずっと広がっている。


「あっ夢か…なんか意識はっきりした夢やな…」


 上下も自分が立っているのか座っているの寝転がっているのかもわからない真っ黒な空間、そこに男の声だけが響く。


……――――――


…―――――


「え?なんやこれ、なんか怖くなってきた…せめてなんか起きて!はよ!」


 何も無く真っ暗な空間に置かれ男は早々に正気を失いかけていた、気が弱い男であった。


「マジではよ!あかん!ヤバイッて!気狂ってまうーーー!!」


 男が根を上げ虚無に向かって叫んだそのとき―――

 突如として男の目の前に光が発生、収束していく。


「ちょ!なに!?なんやこれ!?怖!待って待って何?マジ怖い!」


 それは徐々に人の形を形成していった。


「たすけてーーー!!」


 いよいよ正気を保てなくなった男、しかしそのとき美しい女性の声が男の耳に届いてきた。


――落ち着きなさい。


 光が収まっていく、


「お?」


するとそこには美しい女性の姿があった。


――私は女神イオ。貴方を導くため此処に来ました。


「(なんかめっちゃ美人出て来はった!)」


 女神と名乗ったそれは顔もスタイルもとても美しかった、男が思わず心の中でそう叫んでしまうほどに。


「ん?今なんて…」


 そして先ほどその女神とやらが発した言葉を思い返し、導く?と首を傾げる。

 女神はその男の疑問に”はい”とその美しい声は頷き。


――貴方は死にました。


「脈絡無さ過ぎる!」


 男が叫ぶ。


「え?なに?人ってそんなヌルっと死ぬもんなん?」


 男は持病も無く健康そのもの、予兆が無さすぎて信じられなかった。

 ちなみに死因とかは?と男が女神に聞く。


――独り腹上死です。


「独り腹上死!…って、んなわけあるか!」


 健康なやつがそんなことで急死するか!と騒ぐ男。


――ですのでこれから私の力で異世界に転生させて頂きます。


 え?死んだことに対する説明は終わり??と言う男を無視し女神は続ける。


――私の変わりにその世界を見てきてほしいのです。


「おお、つまり死んでもうたから異世界にご案内~、ちゅうわけですか」


 異世界転生――

 昨今よく耳にする単語だ男も勿論知っていた。

 漫画も小説もゲームもその男の趣味だ。

つまるところ、と男が続けて話す。


「女神?さんは僕にチャンスをくれるっちゅうわけですね!新しい世界でなにさすん?なにしたらええんですの?」


――貴方の思うまま生きてください。


「なにそれ、素敵やん。女神さんは女神様ってことですな」


 感激する男に女神が付け加えて言う。


――キャラクターに全て委ねるゲームですので。


 うきうきしていた男はその言葉に、は?、と止まる。


――これは神の間で流行っているゲーム、神一柱につき一人死んだ者を異世界に転生させ、モンスターやあらゆる脅威が蔓延るその世界でどのように生きるか…


「なに他人ひとの命 もてあそんどんねん!」


 女神が続ける言葉に男が反射的にツッコむ、そしてその内容を反芻し狼狽する。


「え?え?てか、モンスター?あらゆる脅威?」


――時に神はその転生者らをペットとして愛でたりバトルさせたり研究したり。


「〇〇モン!?」


――まぁつまりそんな感じです。


「まとめがざっくり!!」


 あの~ちなみに、辞退できたりは~、と男が訊く。


――分かりましたでは地獄へご案内しますね

「待って!嘘うそ!ちょい聞いただけ!ごめんなさい!やります!やらせて下さい!」


 さらっと怖いことを言う女神に男が食い気味に早口で訂正と謝罪をする。


――では早速諸々の初期設定を済ませましょう。


 初期設定…、と呟く男はもう流されるしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る