第3話 冒険者登録

 ヴェステル王国はフィーナ王国と共に大陸二大国家と言われる大国だ。

 両王家のルーツはいずれも、300年前に魔王を討伐した勇者の仲間にある。

 勇者と共に魔王と戦った戦士バルテルの直系であるヴェステル王家、魔王軍主力を単騎を以て押し留め魔王を孤立させた大聖女フィーナの直系たるフィーナ王家。

 当時は固い友好関係にあった両国だが国と国、利害の対立は避けがたい。今では互いに仮想敵国である。


 そんな隣国へ追放された俺は3日かけて荒野を踏破し、小さな村を見付けた。そこから更に道沿いに4日進み、俺は都市ストラーンに辿り着いた。

 ヴェステル王国の都市の中で8番目ぐらいの規模だった筈だ。人口は約3万人。

 大きく蛇行したバッサ川の西岸に作られ、交易の中継地となっている。


 よそ者が生きていく隙間があるのは基本的に都市だ。ここで何かしらで生計を立てていく。


 ひとまず宿を取り、俺は考える。ある程度の現金は持ち出すことを許されたので、当面の生活費はある。これが尽きるまでに収入を確保しなくてはならない。


「やはり、冒険者か」


 独り言を呟く。辺境伯家の魔術師部隊と切り離された今『統合魔術』は使えない。しかし、固有魔術なしでも俺は一流の魔術師だ。対モンスターとの戦闘なら自信はある。

 この街には冒険者ギルドもあるようだ。さっぱり勝手は分からないが、やるしかない。


 明日冒険者ギルドに行く、そう決めた俺は店で買ったパンを取り出し、かじる。わびしい夕食だが先の見えぬ状況だ。節約しなくてはならない。


 しかし、冒険者か。もしかしたら気楽で楽しいかもしれない。


 そうだといいな。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 翌日、宿の主人に場所を聞き、俺は冒険者ギルドにやって来た。2階建ての石造りの建物で思ったよりは小さい。


 中に入るとホールがあり、先輩冒険者らしき人々が話し合ったり雑談したり、色々している。


 受付と書かれた札が下がるカウンターを見付け、向かう。20歳ぐらいの女性が気だるげな表情で座っていた。青みがかった髪で、美人だが目が鋭い。


「あの、新しく冒険者になりたいのですが、どうすればいいでしょうか?」


 話し掛け難い空気を出しているが、逃げる訳にもいかない。俺はおずおずと尋ねた。


「字は書ける?」


「ええ、書けます」


「ならこれ。あと登録料銅貨5枚」


 すっと紙が差し出される。名前や出身地などを書く欄がある。

 なるほどこれを書いて登録するのか。


 偽名を使うことも考えたが、そのままドグラスとだけ書いた。出身地も素直にフィーナ王国レブロ辺境伯領と記載した。

 職業は……魔術師と書けばいいのかな。


「これでいいですか?」


 記載を終えた用紙を銅貨5枚と共に差し出す。


「綺麗な字だね。うん良いよ。ほらこれ」


 木製の札を渡される。細い縄が付いていて、首から下げられるようだ。札には数字が書かれている。


「それが識別票だよ。6648番、実績を積めば金属製に変わるよ」


 ふむふむ。新人冒険者は死亡率が高いと聞いた事がある。節約の為に木製なのだろう。


「なるほど。ならまずは金属の識別票を目標にする訳ですね」


「うん。ランクがあって真鍮、銅、鉄、銀、金って上がっていくよ。依頼は壁に貼ってあるけど、誰でも受けられるのはあっちの奥の壁だよ」


「ありがとうございます。ちなみに魔術での戦闘ならそれなりに経験があるのですが、どんな依頼を受けるといいですかね」


 俺は冒険者について超ド素人だ。聞きまくるしかない。辺境伯領には冒険者ギルドなんて無かったのだ。


「自分で考えなと言いたいところだけど、綺麗な字に免じて教えてあげよう。腕に覚えがあるならモンスター駆除かな。殺した証拠に死体の指定部位を持って帰ってくれば数に応じて報酬が出るよ。安いけどね」


 なるほど。モンスターの総個体数を減らす仕事か。辺境伯家の魔術師も見習いの頃に訓練と実益を兼ねてやらされる。俺自身も経験者だ。


「後は早いもの勝ち形式のモンスター討伐なら駆除よりは報酬が高い。誰かに先を越されたら無駄足だけどね」


「駆除と違ってどこそこの何を討てと指定されているという事ですか?」


「そうだよ。森にゴブリンの巣が出来たから潰してくれとか、そんなの」


 良いなと俺は思った。ゴブリンなら一捻りだ。奴らが何をしようと俺の防御魔術は崩せない。


「重ね重ねありがとうございます」


 俺は頭を下げ、チップとして小銀貨を1枚置いた。硬貨を見た受付さんがニッコリ笑う。現金な性格のようで好ましい。


 依頼の貼られた壁に向かう。

 ちょうどゴブリン討伐の依頼があった。よし、これだ。

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