第捌話「深まる村の謎」


「この子……どこかで」


「知り合いか須座井さん?」


「すいません、気のせいでした」


 だが見つかったのが子供で良かった。大人だったら完全にアウトだ。来週の正式な村への訪問も出来なくなる可能性も高かっただろう。


「アタシ、鴨下って言うんだ、ちゆちゃん?」


「カモお姉さん?」


「ぷっ、カモ呼びは久しぶりだな?」


 鴨川という苗字で鴨関係でイジらない奴は居ないだろう。偽名でも鴨は使ってるから逃れることは出来なかったらしい。


「も~、ハル……」


「そっちはハルお兄さん?」


「ああ、よろしく、えっと、ちゆちゃん……でいいかな?」


「うん……三人は何してるの?」


 まさか村を調査しているなんて言えないし困った。見た感じ小学生それも中学年くらいだろうか? とにかく下手に騒がれたらマズいし奥の手だ。


「散歩してて迷ってね、そうだ、ちゆちゃん、チョコは好きかな?」


「チョコレート……何年も食べてないです」


 それを聞いて俺だけじゃなく夏純も固まった。だが須座井さんだけは小さく「なるほど」と呟いていた。村の様子から察していたが物流は結構厳しそうで同情を禁じ得ない。そして俺は夏純を見た。


「ハル!!」


「分かった……」


 夏純は純粋にかわいそうと思ったらしいが俺は買収が出来ると踏んだ。この際どっちでも良いから俺は持って来たおやつのビニール袋を全て彼女に渡すことを決めた。


「こんなに、いいん……ですか?」


「その代わりアタシ達のこと大人には黙ってて欲しいんだけど、いい?」


「大人……はい、大丈夫……です」


 モグモグとチョコを食べながら言う少女の言葉には不安が残る。だが今回は仕方ないとバレない内に撤退しようと考えていた時だった。


「ち~~~~ゆ~~~~!!」


「あっ、ママだ……」


「ヤバっ……ちゆちゃん、アタシ達のこと」


「うん、ママに黙ってる……あと袋はここに置いてって下さい、回収します」


 そう言うと俺達の意図を理解し同時にお菓子も手に入れる算段をつけた少女ちゆちゃんは、森から出て声の主の方へ走って行った。


「ちゆ!! もう、どこに行ってたの!? 何も無い? 大丈夫なの?」


「大丈夫……ごめん、ママ」


「いいの……あなたが無事で、もう……千雪しか私には」


 それから二人の会話が聞こえなくなったのを確認し俺達はお菓子を置き村を後にした。その日から正式な村への来訪まで俺達は村内部の調査を控える事にした。




「それで今日は旧市街の分析……ですか?」


「ああ、あの謎セキュリティについても調べたい」


 今日も須座井さんと合流し三人で今回は俺達の宿で推理が始まった。この森、いや村の入口の通報システム、これの仕組みを解く必要が有ると考えたからだ。


「周辺にカメラが有るって話なんじゃないの?」


「そうなんですけど……色々と変なんです夏純さん」


 須座井さんの話や今まで調査した者達の話を総合すると複数の疑問点が浮かび上がる。その中で特に異常なのが通報から捕縛までの時間の短さだ。


「えっと……常に見張ってるから?」


「夏純、カメラに写って村に潜入してから通報……なら分かるがカメラに補足され村に入る前に捕まり外に追い出されるまで数分なんて早過ぎるだろ?」


「たしかに……早い」


 監視カメラは村の入口になっている場所以外には設置されてない。だが当然ながら入口以外から入った者も多数いた。だから本来カメラで見られる可能性も低く通報されるリスクが低いルートだ。


「にも関わらず通報され、カメラに映らないルートを選んで潜入しようとしたのにバレて逃げ帰った者も多い」


 須座井さんの案内が無ければ俺達も村へ潜入は出来なかっただろう。山奥の古い謎の村の調査……まるで昔の探偵小説だ。これで頭に懐中電灯を付け刀を持って暴れる狂人でもいたら完璧だ。


「そっか……でも昨日の、ちゆちゃん可愛かったね?」


「ああ、だが村の子にしては随分と現代風だった」


「ええ……あの子もしかしたら村の有力者の子かもしれません」


 そこで判明しているだけの情報で俺達は岩古村の分析を始める。岩古家という一族が頂点で先日、七海会長から追加で渡された情報で他に三つの有力な家が有るのが判明している。


「それぞれの家が、滝沢家と遠野家そして……山田家!?」


「山田がどしたのハル? どこにでもいるよ?」


「夏純さんの言う通り教科書にも高確率で載ってますし……」


「ああ、そうだな……」


 二人は気付いていない。いや須座井さんは知らないのだろうが夏純は忘れている。俺達の依頼主は…… 鋼志郎。あのオッサンと同じ苗字。もっとも二人が言うように山田はどこにでもいるから偶然の可能性が高い。


「村長さんが滝沢さんなんだ、じゃあ遠野さんと山田さんは何してるんだろ?」


「副村長とか? そういう系でしょうか?」


 二人の話を聞きながら俺は今夜にでも山田のオッサンに連絡してみようと思った。思えばオッサン自身も謎が多い。




『ああ、そりゃ俺の実家だ』


 だが俺の疑問は宿に戻って数分で解決した。


「やっぱそうか!! あんた田舎の坊ちゃんかよ!!」


『そんなんじゃねえ、それで村はどうだった?』


 せっかくだから報告だ。だがオッサンには言えない部分も有る。それは魔力やそれに関する全ての異世界についての話だ。オッサンは依頼人だが、ただの金持ちの一般人だ。異世界の話に安易に巻き込む訳にはいかない。


「ザ・田舎って感じを越えてた……あれいつの時代だ、何人か現代風はいたけど」


『あ~、まあ甚平とか着物が多かったろ?』


 実は村人の恰好はバブルより少し前の昭和の日本、それも高度経済成長期前後のような絶妙に古い恰好で古臭い服装だった。それこそタイムスリップとまで言わないが違和感が凄くて、ちゆちゃんと会うまで気付かなかったレベルだ。

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