第伍話「謎の少女との邂逅」
『先輩、でも……俺は……先輩が!!』
『自分を見てくれない男なんて私には価値無いから』
そう言われて当時は固まった。何で分かってくれないと振られた理由も分からなかった。でも今なら俺は失礼な事をしていたと少し理解できた。
『でも、俺は……』
『ま、話すだけの関係なら楽だし、あんたは……じゃあね』
『はい……先輩』
『最後まで先輩呼び、か……じゃあね春満、ううん鷹野」
その直後、俺の夢の世界は一瞬で崩れた。目を開けると目の前には夏純がいた。
◇
「ハル!! ハル!! 起きて!!」
「うっ……か、すみ?」
「うなされてたよ? 大丈夫?」
俺は夏純に揺り起こされた。まだ陽の光は一切無く夜中だと思う。悪夢で目を覚ますというより過去のトラウマの一種だ。
「夏純……俺」
「ハルにはアタシがいるんだし大丈夫、何か怖い夢でも見た?」
「ああ、怖いというより嫌な……夢を」
例のストフリ事件の被害者でもあった秋楽そして夢の中の冬花先輩は俺が過去に付き合った女性達で俺は彼女らに都合よく利用されていた。そんな二人に振られた後に俺の元に戻って来たのが夏純だった。
「そっか……ゴメンねハル……アタシが」
だが実は夏純こそ俺を一番裏切っていたと後で分かったのだが高校時代の俺は夏純と結ばれる事を望んだ。それから二年前の事件を通し互いにわだかまりは残っていない。でも俺は他人を……夏純以外の他人を本質的には信じられずにいた。
「それはもういい……それより夏純がいれば俺は……」
「うん、じゃあ眠れるおまじないしてア・ゲ・ル」
そう言って夏純は俺に覆いかぶさってキスしてきた。だからそのまま抱き締め返すと俺もキスを返す。そこから俺達は止まらなかった。
「ハル……今日、絶対に寝不足確定だよ? 考えてエッチしてね?」
「わりい……我慢できなかった、反省はしてる」
数時間後、風呂から上がって水をがぶ飲みしてから出た言葉がこれだった。
「ふふっ、やっぱりハルにはアタシがいないとダメだね~」
「ああ、もう完全に依存してるな……俺」
根性が無くて勝手に振られた気持ちになって、やっと付き合えるようになったら今度は拒絶して最後はこれだ。ほんとに俺は夏純がいないとダメな男だ。
「大丈夫だよ~」
「何が?」
だから能天気な声で冷蔵庫から牛乳を取り出す夏純が何を言うのか気になった。
「アタシはもっと昔からハルに依存してるから~、共依存~♪」
それはいい言葉じゃないと言って夏純を後ろから抱きしめた。
「夏純……俺、やっぱダメだ」
「アタシもだよ、時々は二人でダメになっちゃえばいいんだよ」
それから少し話して仲居の北上さんが起こしに来るまで爆睡した。夏純に抱き締められただけで俺は眠る事が出来た。
◇
「じゃあ調査二日目だな」
「お仕事は五日目だけどね~」
だが俺達は昨日のことも有って村の調査から少し離れ今回は町の方の調査を再開した。とは言っても岩下町は平和で文字通りの田舎町で特に目立った所は無い。
「ショッピングモールも三回目だけど向こうと変わらないね」
「ああ、ご当地限定か……なるほど」
特産はじゃがいもとほうれん草を使ったイタリアンを食べながら俺達は午後の予定を話し合っていた。
「旧市街地は……どうしよっか?」
「ああ、村よりまずそっちだよな……」
この岩下町は昨日までは俺達の中で岩古村への入口程度に思っていた。実際オッサンは村の情報を欲しがっていて本命はこっちなはずだった。
「だよね……私も何となく分かるレベルだし」
「旧市街一帯には魔力が存在していた。さらに村に続く山道や山林は魔力が溢れていた……あんなの島以外だと異世界でしかありえない」
夏純のような一般人つまり魔力の無いこの世界の人間でも違和感を感じるような状態だ。田舎だからというのが大きいのだろう。
「そういえばハルって異世界行った事あるんだよね?」
「一回だけな……
「いいな~」
「今度……仕事終わったらカイさんに聞いてみるか?」
「うんっ!!」
ただ、あちらの世界に渡るには幾つか手続きが必要だ。何より現在はカイさんの転移魔術くらいでしか行き来ができない。
「じゃあ、そろそろ行くか午後から……旧市街だ」
「分かったよ」
しかし午後から始まった旧市街の調査は難航した。新市街と違い店が少なく飲食店は居酒屋と喫茶店それに駄菓子屋くらいでコンビニが一件も無い。
「新市街の連中かい、お断りよ」
「えっ……あの、お水だけでも」
「都会人に売るもんなんて無いからね!!」
想像以上の都会アレルギーだ。俺の革ジャンとジーンズ姿と夏純の髪の色と下半身のラインがハッキリ出るパンツルックを見ての発言だ。
「あの~」
「なんて破廉恥な!! 出ておいき!!」
厚着をし汗をかいていたのも有るが夏純はナチュラルにエロかった。そして美人だ。夏純の胸の揺れと谷間は男の視線だけでなく女の嫉妬まで吸い寄せてしまった。
「困った……調査が進まない」
「ふふっ、お困りですか、お兄さん、お姉さん?」
店にすら入れてもらえない俺達がベンチに座っていると声をかけて来たのは制服姿の……少女のような少年のような不思議な相手だった。
「えっとぉ……イケメンがスカート履いてる?」
「あはは、お恥ずかしい、これでも僕は一応は女なんです」
中性的というよりも美男子だが、よく見ると美女で驚かされる。これで男の恰好をしていたら麗人というやつに違いない。
「そうでしたか……俺は高本ハル……」
「大丈夫です事情は分かってます。私は須座井
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