第参話「贅沢は敵か味方か?」
それから少し車を走らせ俺達は三田さんの務めている会社に到着した。さすがに自社ビルでは無いらしいが2階から4階まで全てオッサンの会社らしい。
「では改めて説明をさせて頂きます」
本来ただのアルバイトである俺達に普通ここまでしないがオッサンの関係者だから特別扱いなんだと思う。
「――――ですので今回は地域発展と都市開発の支援をしておりまして……その際の当社の目になっていただくのがお二人の仕事となります」
「はい、分かりました」
今回の俺と夏純は大学生バカップルでオッサンの親戚という設定だ。肝心のバイト内容だが町の商業施設の覆面調査という事になっている。
「基本的にはマニュアル通りの設問を店員の方やお客様に話を聞いて回って頂く形で行ってもらいます」
「バレちゃった場合、お仕事失敗なんですか?」
「いえ大丈夫です、この町自体そこまで大きくないのですが一応は新市街と旧市街に別れてまして、新市街の方は都会と同じく隣人をそこまで気にしません」
つまり俺達が調査をしていても基本的に言いふらすような事は無いという話だ。しかも今回は調査しやすいよう聞き込みも仕事内容だった。これはオッサンの方で動きやすいように手配してくれたらしい。そこで俺は本題に切り込んだ。
◇
「それで先ほどのお話ですか?」
「ええ、実は旧市街の奥に山林に囲まれた陸の孤島のような村へ唯一繋がる道が有ります。その村は非常に閉鎖的で敵愾心が強く……村の方も少し気難しくて……」
三田さんは言い辛そうだが俺達にとっては聞いていた通りの情報だ。だから他に情報が無いか夏純に動いてもらう事にした。
「え~!! それってぇ、秘境ですか? 温泉とかあったり?」
「ええ、実は過去何度か調査を出したのですが……山奥なので不慮の事故にあったり他にも村人が排除するような事態も、それで調査を中断している地域なんです」
だから調査はしない方がいいと三田さんは言った。だが俺はオッサンの事前の指示通りの言葉を思い出しながらバカっぽく喋り出す。
「じゃあ逆に~、やったらボーナスとか出たりします? もしかして?」
「ええ、実は社長も可能ならと……あくまで強制では有りませんが……」
三田さんも大変だな、行方不明者が出ている中で面倒なバイトを社長から押し付けられた。しかも当の社長が裏で糸を引いてるとは思うまい。
「おっけーです、じゃ時間が有ったらそっちにも行ってみます、な?」
「うん!! ハルと温泉行きたいし~」
こんな風に世間を舐めたバカップルが今回の俺達だ。そして三田さんは最後に駅から会社まで乗って来た社用車を自由に使っていいとキーを渡してくれた。
「車まで使って良いんですか?」
「ええ、社長からの指示ですので、それと最後に報告書を三日に一回はネットにアップロードを、そして週に一回はこちらに直接報告に来て下さいね?」
「はい、では二ヶ月お世話になりま~す」
「がんばりま~す!!」
こうしてバカな振りをした後は俺達は市内の中央にある老舗の旅館へ向かう。オッサンいわく常に閑古鳥が鳴いてるような宿と聞いていた。
「へ~、良いとこだな……普通に」
「うんうん……何か驚いたよ」
俺達はこう見えても社長の息子&令嬢だ。旅行も小さい頃からそれなりに行ってるし泊まる場所も割と高級なホテルや旅館だった。
「あら、良くお越し下さいましたお客様お名前を……」
「二名で予約した高本です」
「っ!? し、失礼致しました!! 山田社長から聞き及んでおりますので、すぐご案内いたします!! 南田さん、北上さんも離まで一緒に!!」
実はオッサンはこの岩下町に多大な援助をしている。明らかに採算は取れないだろう田舎に援助なんて金をドブに捨ててるように思う。だが、そういう訳でこの旅館は今回の調査の拠点として使わせてもらえるという話だ。
「では、こちらが先に送られていた、お荷物一式でございます。ご不備がございましたらお申しつけ下さい」
「はい、では奥の部屋を山田社長から頼まれた仕事関係の部屋にするので、そこへの立ち入り以外は通常通りでお願いします」
「かしこまりました、お風呂は本館とは別に、こちらの離では家族風呂がございますのでご自由にご利用下さいませ……では、お食事は19時にお運びします」
それだけ言うと女将さんと仲居さん二名は引き上げて行った。先に輸送しておいた簡単な機材……主にPC関係の物を設置し終わると夕食の時間はすぐ来た。初日は山菜の天ぷらと肉料理がメインで俺達は豪勢な食事に舌鼓を打った。
「ふぅ、美味かった、さて明日の準備はしておかないとな」
「うん!! でも家族風呂は入ろうねハル!!」
「お前な……借金無くなったとしても仕事は成功させないと」
「ハルは真面目だよね~、でも行こ?」
そう言って腕を掴まれれば抵抗は出来なかった。それから二人でゆったり風呂に浸かり満足して上がると既に布団が敷いてあった。そして俺たちは浴衣に着替えると夜遅くまで励んでしまった。
◇
「ハル~やっぱり贅沢は敵だよ~」
「そうだな……昼は質素にコンビニ飯にしよう」
これは昨晩から自堕落な生活をし、今朝は起きたら豪勢な朝食まで用意され上げ膳据え膳な生活に任された仕事まで放棄しそうになった末の決断だった。
「旅館とは本来そういうものですので気になさらずに……お二人とも」
「ですけど、俺達バイトに来たんですよ北上さん」
だから、この地での初仕事は俺達に食事を運んで来てくれた仲居の北上さんに聞こうと考えた。
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