第30話「進化する力――セカンダリースキル――」


 俺の絶叫で周りが一斉に気付いて動き出す。


「信矢!!」


「分かってます!! クソっ!!」


「ぐおっ!?」


 仁人さんと信矢さんの叫びが響いた。そして信矢さんはスキンヘッドの顔面に拳を叩き込み奴を昏倒させたが俺にはどうでも良かった。


「か……すみ? 夏純ぃ!!」


「ハル……どこ? 見え……ない」


 俺は体を無理やり起こし夏純のそばに駆け寄り抱き起こす。遠くで信矢さんと仁人さんが「救急車を!!」と叫んでいるが血が凄い……たぶん間に合わない。


「ここだ!! なんだお前、目が?」


「チカチカ……したから、ああ、それで……ごほっ……あれ? 血、出てる?」


 抱き起した夏純の服は破れ下着が見えているが問題はそこじゃない。腹が貫通し穴が開いて向こうが見えている。


「す、少し……血が出てるだけ……だ!! 喋るな!!」


「あはは、ハル、アタシ、ヤバい……んだ?」


「ぜんぜん余裕だ、だから、喋んな!!」


 血が止まらない。それに腹に穴が開いてるとか絶対助からない。傷口抑えないとダメだ……何で体が動かない? どうして?


「ハル……アタシ、最後まで……好き、だから」


「知ってる……バカ!! もうお前は、お前だけは……」


 とっくに許してる。そもそも俺はお前に騙された時だって偽カレシが居た時だって……ずっとお前を忘れられなくて、でも告白できなくて許すとか許さないとかじゃない。なのに意地張って……こんな事ならもっと素直に……。


「よか、た……私、ハルの役に……」


「バカ野郎!! 役に立つとかじゃないんだよ!! お前は!!」


「ハ、ハル……を騙してた、罰、かな……」


「……いや、それは!?」


 脳裏に究極に嫌な予感が過ぎった。もし俺のスキルが今発動していたのなら夏純に不幸が起きる。他の人間も命を奪われる規模で不幸が起きていたのなら夏純も……同様に死ぬ?


「じょ、う……だ……ん、だから、泣かな、いで……ハル」


「俺が、俺が夏純を、拒絶して……不幸に……した?」


「ちが……う、から……ハル」


 痛みに耐え必死に笑顔を向ける夏純に俺の心はグチャグチャになって混乱し同時に強く願った。


「あ、ああああああああああああ!! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 夏純が居なくなるなんて、絶対に、絶対に認めない!! こんな結果は認めない!!」


 その時、何かよく分からないが頭の奥で何かがカチリとハマった気がした。


『特殊スキル『概念回帰』の発動を確認……術者の要望により第二への移行を承認……発動します』


 何かがバングルから聞こえた。でも、どうでもいい……夏純が無事ならと俺はそれだけを強く願った。そして周囲が青い光で染まる。


「なっ!? これは……」


神気エーテルの奔流!? だが桁違い、これじゃ快利くんと同規模だ!?」


「返せ、夏純を!! 戻せ俺の元に!!」


 まるで逆再生のように夏純の傷が塞がって行くように見えた。だが次の瞬間には傷口が再び広がる……それが繰り返される。どうすればいい? 何で傷口が? どうすれば夏純を助けられるんだ?


「それはお前のコントロールが不安定だからだ……あとは任せろ春満」


 その声に振り返るとそこには白銀の鎧をまとい緑色の刀を持った人がいた。




「え? カイ……さん?」


「悪い、遅れたな……今治す、お前はスキルを止めろ春満」


「え? でも……はい」


 カイさんの秋山快利の勇者モードに気圧された俺は言われた通りスキルを止めた。違和感を感じたけど今はスキルのコントロールに集中する。


「大丈夫だ、ここまでよく頑張った」


「で、でも……夏純が!? カイさん!!」


 夏純は今にも死にそうで……だから俺はカイさんを見て願った。ただ助けて欲しいと懇願した時にカイさんの表情が一瞬だけ変化した。


「お前……ふぅ、大丈夫だ虫の息でも瀕死でも生きていれば俺は誰でも救ってみせる『全ての医療は過去になる癒せない傷など何も無い』のだから……」


 そう言った瞬間、カイさんの体から膨大な赤い光、魔力オドがあふれ出す。それを手の平に集め放出し魔力の渦が夏純を包む。


「まさか!? 例の三技の一つ勇者系複合医療魔術!?」


「仁人さん今回は特別に見せます……弟子の恋人の命がかかってるんでね……」


「カイさん、でも何で? たしか別件で動けないのでは?」


 カイさんは今は別な件で動いていて、こちらを俺に任せてくれたはずなのに何で? そういう疑問から出た言葉だった。


「ああ、だから急いで転移魔術ワープで来た。向こうのは那結果なゆかに任せても問題無いと思ってな」


「そうだったんですか……」


「もう少し早く来たかったが他にも面倒事が有ってな、遅れたな」


 本当は昨日の内に解決したそうだが他にも寄る所が有ったから遅れたそうだ。そして今、俺の神気の高まりを感じ慌てて転移魔術を使い来てくれた。


「いえ、それより……夏純は?」


「もう大丈夫だよ、あとハル以外は私の裸見ないで下さい、穢れるんで」


「おまっ、夏純!?」


 いきなり赤い光の渦を突き破って出て来たのは半裸の夏純だった。上半身は服を着ているというよりも引っかかっているだけな感じで危険だ。


「なんか元気になったよハル~!!」


「だからって抱き着くな!! いや、隠すには仕方ないか?」


 混乱している間に夏純が抱き着いて離れないでいたらカイさんがいつの間にか取り出したパーカーを俺に放り投げた。だからそれを慌てて夏純に着せた。


「では信矢さん……三人を頼みます俺は――――」


「死ねええええええ!! 勇者あああああ!!」


 その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで後ろから不意打ちの魔法が放たれた。完全な不意打ちで俺も信矢さんも反応できなかった。




「カイさん!?」


「はぁ、気絶してればよかったものを……」


 だが炎の魔法を叩きつけられたカイさんは埃でも払うかのように手をひらひらさせ爆炎の中から何事も無かったかのように出て来た。見間違いじゃなければ今カイさんに当たる直前に結界が発動していた。


「死ね!! 死ねえ勇者あああああああ!!」


 不意打ちを仕掛けたのは信矢さんと夏純に倒されたと思われたザラムだった。今度は氷さらに雷の魔法を連続で叩きつける。しかし全てカイさんの眼前で阻まれ俺達の方の流れ弾も同様にカイさんが防いだ。圧倒的だった。


「……お前ら程度の攻撃じゃ俺には傷一つ付けられないのは分かってるだろ? ん? その装備……お前、時空戦争の生き残りか?」


「覚えていたか勇者!! なら我が特性をもって貴様を――――ぐおっ!?」


 ザラムが後ろに下がり構えた瞬間、その腹から剣が生えていた。緑の刀身が背後から貫通していた。


「動きが遅い……では消えろ純血派の魔族よ……グロウ・ブレイズ」


 次の瞬間、背後に回りこんでいたカイさんの刀から緑色の炎が放出されザラムの全身に炎が広がった。


「ぐわあああああ!? 聖炎だと……おのれ、勇者……め、おの……れ」


「消えろ……平和の前にお前らのような魔族は不要だ」


「ああああ、ああ……イベド、様、ばんざああああああああああい!!」


 そして断末魔の叫びを上げながら完全に燃え尽き魔族の男ザラムは塵となって消えた。それを見るカイさんの表情は物悲しそうだった。

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