第25話「不確定要素――アビリティ――」


「って、待って下さい!? ハルが戦うんですか!?」


「いや違う。戦うのは僕や他のメンバーだ、しかし魔力の残滓を追って敵を見つける能力は現状で彼しか居ない。それに何より……」


「何より?」


「大輪田や例の組織と因縁を結んだ君が縁を切れば……」


 信矢さんの言葉で納得した。俺のCOFと名付けられたスキルは関係を結んだ相手に幸運を呼び込み逆に縁を切った相手を不幸にする。正確なタイミングは不明だが一ヶ月前後に効果が出ると統計は出ていた。


「あいつらと会ってから大体、今日で一ヶ月弱……ですね」


「頼めるかな?」


 俺は自分のスキルを知らない。任意で発動させる事が出来るだけで自分でスキルを終わらせる方法が分からない。つまり発動させたら後はそのまま放置が基本だ。


「はい、でも信矢さん、俺のスキルは欠陥だらけで……確実に発動するかは……」


「それも彼から聞いてるから大丈夫……心配無用だ」


 俺の座敷童のような謎スキル。だが最近になって意外な事実が判明した。それは夏純が不幸になっていない話だ。ここから導き出されたのは完璧なスキルの発動条件が不明という『分からない事が分かった』という本末転倒な答えだった。


「本当に大丈夫なのか信矢くん?」


「さあ、どうでしょうかね?」


「さあって……さすがに俺でも庇える限界が……」


「でも俺は自分の弟分を……秋山快利を信じる。そして彼が信じたLBを信じますよ……それが兄貴分の役割なんでね?」


 そう言って信矢さんは俺と夏純を交互に見た。今思い出したが兄みたいな人だとカイさんも言っていたが本当だったようだ。


「……そうか分かった。だが鷹野春満いや情報屋、今回は君にかかっているのを忘れないでくれよ?」


「それは……」


「あのっ!! あくまで私達は情報屋ですから!!」


 大人達の圧それが俺に重くのしかかりそうになった時に割って入って来たのは夏純だった。




「夏純?」


「ハル、私達は情報屋で道案内がメイン……ですよね?」


 そう言って夏純は工藤警視を笑みを浮かべながら睨んだ。夏純は俺以外にはこういう張り付けた笑顔が多かった。最近は特に増えている気がする。


「それはそうだが……だがっ!!」


「ストップだ優人さん、彼女の言う通り俺を含めた三人は補助がメイン、むしろ市民をしっかり守ってくれ警察の仕事では?」


 そう言って仁人さんはウインクして俺達に言った。夏純が信頼しているし、あの七海総裁の旦那とはいえ仁人さんは常識は有りそうで安心する。何より今この場では一番信用が出来ると思えた。


「そういう事です警視、露払いと通路の確保を、俺はこの三人の護衛です」


「分かったよ信矢くん、いや春日井室長それに情報屋も改めて頼む」


「「はい」」


 俺は二人の言葉に頷くと目的のマンションに突入する事になった。俺がスキルを使い対象の魔力を探知し奴らの中枢メンバーをピンポイントで追う。実はこれは普段はPC越しでしている作業と同じで肉眼でするのは久しぶりだ。


「では行きます、『俺は皆と繋がっている俺を中心に』……反応有り。やはりマンションの最上階……その北東です」


「内部の図面はこれだ」


 俺のスキルを頼りに突入は開始された。目標は最上階の奥だ。エレベーターでホールに出ると既に警官隊と千堂グループの私設部隊がそれぞれ展開し突入を開始し怒号が溢れていた。


「ここまでは予定通り……じゃあ俺はここで指揮を執るよ」


「分かりました。三人は付いて来てくれ、他の先行している護衛と合流する!!」


 工藤警視と別れ俺達は破壊された扉から内部に入ると既にパーティー会場では大半は確保されていた。信矢さん達が装備している魔導具が少しオーバーに見える。


「まだ奥ですね……反応が有るのは」


「この赤いラインか、なるほど……確かに便利だな」


 信矢さんは魔力も神気も持っている数少ない人間だ。だから俺のスキルで生み出した魔力の流れが見えている。反対に魔力や神気など向こうの世界から流れて来た力の素養が無い人間は俺達が何を見てるのか分からないだろう。


「本当に見えるんだ……いいな~」


「ま、俺達は見えないから付いて行くしかないな」


 俺の後ろから付いて来ている仁人さんは見えてないようで魔力適正は無いらしい。夏純は言わずもがなだ。そして俺達は目的の場所に到着した。




「これは……」


 俺達が突入した最奥の部屋そこには四人の人影が有った。だが問題はそこではない。先行していた千堂グループの人間が五人倒れ伏していたのだ。恐らくは俺達の護衛になるはずだった人間だ。


「マダ、イタノカ?」


「またお前か鷹野!! 俺らに何の恨みあんだよ!!」


 叫んだのは大輪田だ。その隣にはホッケーマスクとスキンヘッドの男達もいる。以前、護衛だと教えられ片方には襲われた経験も有る相手だ。


「俺は無いんですけどね……雇われなんで」


「そうかよ!! じゃあTDやっから俺らに付けよ!!」


「すいませ~ん、クライアントがデカ過ぎて……学生の反グレサークルじゃ相手になりませんので、辞退させて頂きま~す」


 俺が言うと大輪田は舌打ちして俺を睨んだ。そして前に出て来たのは護衛と言われた二人だ。


「ザラムの旦那ぁ~、頼むぜ」


「マカセロ、行くぞ?」


「はっ……畏まりましたザラム様」


 今まで無言だったスキンヘッドが初めて喋った。そのまま俺達の方に一歩踏み出して来た。それに対応して前に出たのは夏純だった。


「私のハルは傷付けさせない!!」


「あの時の女……」


「おっと、俺もいるからな? 二対二でフェアプレーで行こう」


 その夏純の隣に信矢さんが並んだ。相手は特殊部隊員を五人も倒した手練れだ。いよいよ戦いが始まる。

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