第7話「潜入開始――スタート――」
「で?」
「改めて俺は三年の吉田だ」
「鷹野です……先輩」
「下の名前は春満……くん、で良いんだよな?」
下の名前まで調べて来ているのか特に俺は何もしてないのだが狙いは何だ? まさか、また八岐さん関係か? だが大学生がヤクザと知り合いなのは俺並みにレアだから違うはずだ……なら一体?
「それで吉田先輩? 俺に何の用ですか?」
「君のお爺さんって
「は? はぁ……確かに祖父ですが……」
爺ちゃんのフルネームを突然言い出して一体なんだこの人?
「やっぱ鷹野フーズの代表のっ――――「静かに!!」
俺が大声を出したから学食中が注目するが構わない。マズい、すっかり油断していた。よりにもよって実家の話だ。
「知り合いに聞いて調べ――――「静かに!! 吉田先輩!!」
俺の実家は日本海に面した県で魚介関係の会社を経営しているのだが父はそこの代表取締役つまり社長で先代は俺の祖父。つまり、この人の狙いは……。
「ぜひ、俺のサークルに――――「入っても就職の口は聞けませんよ?」
「頼むぅ~、四年になる前に就職決めて親を安心させたいんだ、コンパ設定するし、女の子とか呼べるコネあんだよ、可愛い子も知ってるぞ?」
「すいませんが興味は有りません……」
女、繋がり、全部が鬱陶しいだけで……一瞬あいつの泣き顔がチラ付いて余計にイライラした。だが俺の予想に反しイラつきを止める単語を先輩は言い放った。
「この間ストフリとも話を通して涼学で初めての公認サークルになれそうなんだ」
「え? 今……なんて?」
「お? やっぱり興味有る? 今一番勢いのあるストライド・フリー、略してストフリ!! ここ数年でインカレサークルでは急成長で~」
涼月総合のサークルにまで手を伸ばしているのか……この状況に上は気付いてるのか? 『ストライド・フリー』は、あの犯罪サークル『ストリーム・フリー』と同存在なのはほぼ確定している。
「……興味、有ります」
「お? おおっ!! いやね別に就活だけじゃなくて君が飲みとか、そういうの出ないって聞いてね学生生活、サークル活動を楽しまないと損でしょ? だからどうかなって、な? な? 良い話だろ?」
就活のために目の前の先輩は必死だが俺も必死だ。なんせ今の俺はスポンサーに仕事を回してもらって生活している飼い殺し状態。だが、ここで手柄を上げ裏の世界で覚えが良くなれば情報屋として独り立ちが出来る。俺にもチャンスなんだ。
「今日は少し忙しいので明日以降で……もちろん先輩の聞きたい父や会社の話も出来ると思いますよ?」
「おおっ!! 本当かよ!? ストフリ様々だ!!」
ああ、俺も同じ思いだ……鴨が葱を背負ってやって来たんだからな。
◆
「それマジか?」
「はい、吉田 覚という男です繋がりを全て調べました」
そう言って俺は調べ上げた資料を八岐さんに渡した。今、八岐さんは俺の作った資料をザッと目を通していたがイライラして言った。
「舐めたマネしてくれたな、涼月総合が聖域だって気付いてねえのか?」
「分かった上で手を出しているのでは?」
「挑発だと? だとしたら本当のアホだ、上に俺まで叱られそうだ」
「それは涼月総合の出資者?」
「ああ、そうだ……知ってても口に出すなよ?」
「分かりました……それで、どうします?」
俺が言うと驚いた顔をした後に八岐さんが俺の狙いを看破して言った。
「まさか、探偵ごっこでもすんのか?」
「はい、その予定です」
つまり俺は直接ストフリのパーティー会場に潜入し情報を持ち帰ると言っているのだ。危険度は今までの比じゃないが得られるリターンも大きい。
「誰か組のもん貸すか?」
「学生だとバレない方います?」
その問に無理だと八岐さんは言った。だから結局は単独で潜入する事になった。そもそも騒ぎを起こさないで実態を見てくればいいだけだ。それなら俺でも出来るし問題は無い。
「……まあ無理すんな、お前んとこの雇い主も俺の上も心配すんぜ?」
「それも俺に利用価値が有る間は……ですよね?」
「そうだ……じゃあ日取りが決まったら教えろ道具は用意してやる」
それに感謝を伝え俺は家に戻って準備を始め決行日を伝えると、その翌朝には玄関前に段ボール箱が置かれていた。少し不用心だと思いながら箱を開けると中には盗聴器と盗撮用のカメラなどが満載だった。
「変装用のサングラス……隠しカメラ付きか……でも八岐さん、パーティーは夜だし会場は薄暗いと思うんですけど……」
中身を確認しながらチェックを終えるとPCを起動させ受け取りのメールを送る。そしてスマホを確認すると例の吉田先輩から通知が有った。ストリーム・フリーの集まりは予定通り三日後と決まったと確認のメッセージだった。
◆
それから全ての準備を整え俺は待ち合わせ場所に向かった。あくまで今回は情報収集が目的だ。可能なら現物の入手をしたいが難しいと思う。潜入は何回かに分けてする予定だ。
(今回は見るだけだ……)
俺はサングラスも装着すると録画の準備も完了した。バッテリーは三時間は持つらしい。服装は事前に先輩から聞いた話で私服で大丈夫だと聞いたから地味目な恰好で行く事にした。
「おっ、来た来た!! 鷹野く~ん!!」
「どうも吉田先輩」
集合場所に着くと男女合わせて七名。全員が同じ大学の学生だと紹介された。俺とは違って派手な恰好だ。
「ほんとだ~!! てか有名人じゃ~ん」
「有名人? 実は興味は有ったけど田舎者で怖くてね……」
なんだ……有名人って一体何の話なんだ?
「あ~、そ~いう感じだったんだ~、大丈夫、大丈夫!!」
何が大丈夫か分からないが明らかにチャラそうな同級生らは俺を知っているらしい。しかも先輩から聞いた訳では無いように感じた。まさか罠なのかと疑う。俺はこの間の春日井さんのトライアルの件から警戒感をより強めていた。
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