第50話 ああ、大臣室での行為はやめておいた方がいいですよ

「ジン君、誕生日おめでとう。」

「お兄ちゃん、ハッピーバースデー。」

「ありがとう。」

「やっと18才……っていうか、信じられないわね。」

「なにが?」

「あのね、世間の18才は中等部のお子ちゃまよ。」

「ああ、俺の甘酸っぱい青春はどこに行っちゃったんだ。」

「やっと解禁ね。」

「何が?」

「子作り。我慢してたんだからね。」


 そう。俺たちは入籍するまで子供は控えようといって避妊してきた。

 行為はしていたが……。


 朝の散歩を兼ねて俺たちは琉球本島の役場へ行き、入籍の手続きを行った。

 戸籍謄本は取り寄せてあった。

 新しい戸籍は、竜宮で行った。

 真藤仁、紗香、ハイジの3人で作る戸籍だった。

 ちなみに、日本国籍を取得する際、ハイジで登録してあるのでこれが本名だ。


 手続きを終えた直後に大臣から連絡が入る。


「ジン君、緊急事態だ!」

「いや、俺特別休暇中なので一週間後にしてください。」

「待ってくれ!切らないでくれ!」


 俺はスマホの電源を切ってバッグにしまった。

 サヤカとハイジも同じように行動する。


「桜、何があった?例のやつか?」

『はい。情報通り、シベリアとシンとイラソとチューバが隣接国に対して宣戦布告を行いました。』

「やれやれ、チューバもかよ。懲りねえな……。」

『大和に対しては、シベリアとシンから宣戦布告を受けています。いかがなさいますか?』

「4か国にある発射可能な核ミサイルを全て、太陽に向けて発射。」

『システム……セット完了しました。カウントダウン省略、発射します。』

「4か国の全発電所と変電所をシステムダウン。非常用発電機ロック。医療機関以外の補助電源を全て遮断。」

 

 桜との会話は、サヤカとハイジもモニターしている。


「シベリアとシンの潜水艦を含む全艦船の電源オフ。バッテリーだけは残して経過観察。」

『承知いたしました。全艦船の電源を順次オフにします。』

「シンの飛行艇3機、船内の全システムを消去し、ダミーデータで上書き。シベリアとイラソに出荷された模倣機も同様の処置。」


 シンには共同開発した飛行艇が3機存在する。

 システムのコア部分はプロテクトがかかっているが、念のために全て使用できなくする。

 

 俺たちはこれから1週間、西表島に作った別荘で過ごすのだ。

 誰にも邪魔はさせない。


「4国の軍属魔法士のナビを初期化しろ。」

『初期化開始します。』


「えっ、そんなものまで把握してるんだ。」

「世界中のスパコンを連動させているからね。」


 そこに海軍のSUVがやってきた。


「真藤隊長!休暇中のところ申し訳ございませんが、緊急事態のため基地までご足労いただきますようお願いします!」

「嫌です。」

「そんな事言わないでくださいよ。」

「僕たちは今、婚姻届けを出して、家族で余韻を楽しんでいるところなんだ。邪魔しないでください。」

「そんな状況じゃないんですよ。」

「シベリアとシンから宣戦布告を受けた事なら、個人的に対処してありますから問題ありません。」

「えっ?」

「心配要りませんから、鈴木さんも基地に帰ってください。」

「そんなわけいきませんよ。お願いしますから基地まで来てください。」

「じゃあ、1時間だけ同行しますから、その分、1日追加して休みますからね。」

「はい。それでいいですから。」

「その日の調整は鈴木さんがやってくださいね。」

「私が真藤隊長の調整なんてできるわけないでしょ!」

「じゃ、同行は拒否します。」

「ちょ、ちょっと待ってください。基地に確認しますから……。」


 そういって海軍の鈴木中尉は車に戻り、再びやってきた。


「基地司令が責任をもって対応するそうです。」

「榊原指令が確約っと。動画で残しましたから、言い逃れはできませんよ。」


 俺たちは基地に連行され、対策本部とのTV会議に同席させられた。


「おお、ジン君、休暇中のところ申し訳ない。」

「あと48分だけお付き合いします。状況は全て把握していますから、説明は不要です。」

「助かる。最新情報だが、シン国およびシベリアから発射されたミサイルは、全て太陽に向かっている事が判明した。」

「総理、それはどういう事ですか?」

「理由も動機も一切不明だ。」

「大気圏外から、急に反転する可能性はないんですか?」

「それは不明だ。」

「反転はありません。」

「ジン君、まさか君が……。」

「これは個人的に対処した事なので、国は関与しないほうがいいです。」

「馬鹿なことを言うな!国の防衛に関する会議なんだぞ!」

「あの人誰?」

「ああ、今回就任した陸上幕僚長の石上君だよ。」

「石上さーん。他国の核ミサイルに干渉するなんて、国として判断できるわけないでしょ。よく考えて発言してください。」

「なっなっ……。」

「陸上幕僚長、発言は控えるように!それで、ジン君。シベリアとシンが、現在沈黙しているんだが。」

「詳細は知らないほうがいいです。ともかく、僕の生活に影響しないようにコントロールしていますからご心配なく。」

「貴様、その言いぐさ……。」


 面倒なので、陸上幕僚長の参加してる端末をダウンさせた。


「時間の無駄なので退席してもらいました。」

「ジン君、まさか君……、大和のシステムも……。」

「首相、知らないほうがいいですよ。少なくとも皆さんが裏切らない限り、僕は大和と敵対はしないし、見捨てたりしませんからね。」


 少しの間沈黙してから、防衛大臣が発言した。


「ジン君。今回の対応は信用していいんだな。」

「今回の蜂起に関して、最初のアクションは4か月前のプーチソ大統領がイラソを訪問した際の会談から始まっています。」

「そ、その内容まで知っているというのかね。」

「国の首脳が動けば、記録は必ず残りますからね。その時に、飛行艇の有用性を確認した2か国がシンを取り込んだ事で事態は活発化します。

その後、チューバに出現したシステムをそのままコピーできる能力者が飛行艇の全システムをセキュリティー毎コピーして模倣機を増産していったことで準備完了といったところです。」

「で、では、飛行艇の模造品が量産されていると……。」

「それも対応済みですからご安心ください。」

「だ、だが何でその情報を報告しないのだね。」

「総務大臣。それを報告して、大和は対策をうてるんですか?」

「少なくとも、その情報を持っていれば……。」

「その情報を持っている事が、あなたの部下の種市補佐官からシンに伝わり、大和は追及されたでしょう。」

「た、種市がスパイだと!」

「これから順番にスパイ行為をしている人のスマホを鳴らしていきますから、確実に拘束してくださいね。」


 各省庁にいた内通者は46人に及んだ。

 

「証拠も提示できますので、必要があれば8日後に連絡ください。」

「8日後?」

「ええ。6分後から僕は結婚休暇に入りますので、絶対に邪魔しないでください。」

「世界がこんな状況なのに……。」

「あなたがたと違って、僕は24時間動いているんだ。あなたみたいに、愛人を作っている暇もないくらいにね。」

「なにぃ!」

「ああ、大臣室での行為はやめておいた方がいいですよ、経済産業大臣。政策秘書の北島涼子さんでしたっけ。」


 時間になったので、俺はTV会議から退席した。

 これでやっと休暇に入れる。



【あとがき】

 まさかの世界大戦勃発。

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