第三章

第24話 生活するって大変なんだとわかった

「お嬢さんをいただきにまいりました。」


 俺は、同じセリフを繰り返した。


「あの時私は、娘に手を出してくれてもいいと君に言った。」

「な、何を言ってるのよお父さん!」

「君になら娘を任せられるとも言った。」

「そうでしたね。」

「入籍なしの事実婚でいいとも言った。」

「はい。」

「だがな、いざ直面すると躊躇してしまうんだ。」


「僕の父と母は、海軍の呉基地に所属していました。」

「ああ、知っている。」

「僕が2才の時に二人は亡くなり、僕は父の知人に育てていただきました。」

「確か赤坂君だったな。退役後に事業を始めたと聞いているよ。」

「父と母の乗った艦は、佐世保から呉に帰る途中で、コークリの奇襲を受けて大破。奇襲となってしまった原因は、政府が応戦の許可を出さなかったから。」

「ああ。」

「おかしいですよね。大勢の隊員が救助されたのに、父と母は最後まで隊員の避難のために艦に残っていた。」

「ああ。」

「4日間の任務で、僕を母方の祖母に預けて出航していった。おかしいですよね、子供を残してきているのに、一人だけでも生きて帰ろうとは思わなかったんですかね。」

「……。」

「祖母もそのあとすぐに他界し、ほかに身寄りのなかった僕は赤坂さんに引き取っていただきました。」

「……。」

「こんな、親の愛情を知らない僕が、家庭を持っていいんですか?教えてくださいよ、神宮寺一郎さん!」

「……、弟のしたこととはいえ、申し訳なかった。」

「えっ?」

「僕の父に避難誘導の指示を出したのは、当時魔法小隊長だった神宮寺三郎。亡くなってしまったが、君の叔父さんだよ。」

「まさか……。」

「母は、逃げる選択をせずに、父の傍にいることを選んだ。噂では、神宮寺三郎が母にフラれたのを根に持っていたとか聞いたけど、もうどうでもいいんだ。」

「そんな……あの叔父様が……。」

「俺は、それでも君が望んでくれるなら、嫁に迎えたいと思った。君に好意を感じていたからだ。」

「ジン君……。」

「神宮寺司令、あなたは全て知っていたはずだ。そのうえで、本当に娘を俺の嫁にできるんですか?」


 俺は司令室を出た。

 感情的にはなっていない。ただ、事実を述べただけだ。

 サヤカさんに隠しておいていいことではない。

 もし、全てを知ったうえで嫁に来るというのなら受け入れる。これは本心だ。


 俺は魔法小隊長の茶髪イケメン三枝さんと黒縁メガネの鳥海さんを探した。


「あっ、鳥海さん。」

「おっ、ジン君じゃないか、どうしたんだい?」

「司令のところに行って、お嬢さんをくださいってやってきました。」

「あははっ、それは……10才違いだったよな?」

「ええ。だから二人で悩んでいるみたいですよ。」

「まあ、ジン君はそこいらの子供と違うからな。アリっちゃあアリだろう。」


 俺は、鳥海さんにフライト魔法を教え、ナビとスマホにシステムをインストールしてあげた。


「なんだよこれ!」

「ああそうだ、新しいシールドも入れてありますから使ってください。風とか冷気とか加重を防いでくれますよ。」

「うひゃー!すごいなこれ。もう戦闘機じゃねえのオレ!」

「システムにはプロテクトをかけてありますけど、標準の魔法式も入れてありますから、使いたい人がいたらどうぞ。」


 途中で三枝さんも合流したので、システムを入れてあげた。


「なんで、こんな短期間で魔法を開発できるんだよ。」

「このフライトの開発には、サヤカさんも協力してくれましたからね。優秀な助手がいるとやる気が出てくるんですよ。」

「くそう、結婚を早まったか、オレ!」


 そこにサヤカさんがやってきた。

 泣きはらした目をしている。


「本当に……私でよろしいんですか?」


 俺は小さく頷いた。

 真っ赤な目から大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。


「おいおい、マジかよ。サヤカの涙なんて初めて見たぜ。」

「お嬢、幸せになるんだぞ。」


「司令は?」

「あそこにいますけど、お別れは済ませました。」

「そうか。」


 俺は建物の入口に佇む司令に小さく頭を下げた。


「じゃ、三枝さん、鳥海さん、また。」

「ああ、元気でな。」

「お嬢を泣かすんじゃ……もう、泣いてるな……。」


 俺たち二人は岩国から飛び立った。


「16才でも、子供の認知はできるらしいよ。」

「あ、あの、わたくし、初めてではございませんわよ……。」

「その歳で処女だって言われたら、ちょっと引くかもしれない。」

「うふふっ、夜の生活はお姉さんに任せなさい。」

「広い風呂のある部屋がいいな。」

「お風呂掃除は旦那様の分担ということでお願いします。」

「俺、料理とか全くだから。」

「花嫁修業は一通り叩き込まれていますからご安心を。」


 その日から俺たち二人は不動産を訪れ、部屋を探した。

 一戸建てでもマンションでもいいし、分譲でも賃貸でもよかった。

 部屋は簡単に見つかった。職場から10分。高層マンションの12階で南向きの部屋だった。

 価格は1億円。

 安くはないが、購入可能な範囲だった。


 俺の荷物はほとんどが衣類だった。

 部屋に家具らしい家具はなく、サヤカの部屋から運んだ荷物しかない。

 必要なものは買い足していけばいい。


 だが、流石に1億円払うと、残金は寂しかった。


 俺は新たな魔法を開発し、サクラさんに売り込んだ。


「サクラさん、新しい魔法を開発して、魔道具の案を持ってきました。」

「今度はなに?」

「高深度地中探査です。電波による探査機はあるんですが、オプションで温度の検知も可能です。」

「何に使うの?」

「既存の探査装置は、埋設物や空洞を発見するために使われていますけど、これは深度を指定することができるので、例えば10cm単位で地中を探査してやれば、生き埋めになった被災者を探すことが可能です。」

「災害対策ね。」

「これを魔道具で探査して、タブレットでマッピングしてやれば生存者の体温を検知できますし、姿勢なんかもわかります。金属探知にも使えるので、地雷を探したりすることも可能です。」


 魔法の著作権どと譲渡したので、500万円で買ってもらえた。

 一式100万円で売りさばけば、すぐにペイできる金額である。


「それで、神宮司さんと事実婚だって聞いたけど?」

「ええ、一緒に暮らしてます。僕がまだ16才なので入籍できないんですよ。」

「それでお金が必要ってわけね。いいわ700万で買ってあげる。」

「すみません。ありがとうございます。」


 さて、これが普及される前に、埋蔵金でも探してみるかな。

 実は、金属の種類を指定して探査することもできるのだ。


 実は、金の鉱脈を発見したのだが、土地の所有者問題や、売却するルートなど課題が多く、あきらめざるを得なかった。

 それならば意味である。

 外海なら問題はないだろう。


 俺は海底の金脈を発見し、採掘した。

 これは結構大変な作業だった。

 シールドで水や水圧は防ぐことができるのだが、酸素を確保しなくてはいけない。

 浅いところなら、50mの範囲で海底まで凍らせて、氷を削った方が早かった。

 あとになって、酸素ボンベを背負ってシールドを使うことで簡単にはなったのだが……。

 とりあえず、俺は30㎏の金塊を手に入れた。

 これを売りさばき、俺は3億弱のお金を手に入れた。

 まあ、当面の活動資金は確保できた。



【あとがき】

 トレジャーハンター誕生。

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