建国譚

不細工マスク

脱走編

第1話:はじまり

俺はタケル、高校一年の普通の男子だ。ごくごく普通で、なんの取り柄もなく、友人関係も至極普通だと思う。今の生活になんの不満も無い。人生をボーッと過ごすのがなんとなく好きだった。

いつも通り学校を終え、家の帰路に着いた。今日は特段楽しかったとか、特別だったとかもなくいつも通りな日だった。そんな風に考え事をしていたら、突然目の前に黒いスーツを着た白髪の外人が立っていた。ここら辺では見かけない人だなと思いつつ、肩がぶつかった事に対して謝った。

「きいがタケルだれ?」


一瞬戸惑ったが「タケル」という言葉に反応した。発音がぐちゃぐちゃだが、外人だからか?

「いえ、人違いです」


一応誤魔化しとこう。変質者に絡まれるにはゴメンだ。足早にその男を追い抜かし曲がり角を曲がる。


ふっと身体から力が抜け、倒れるのが見える。見える?なんで見えるんだ?自分の体が横たわっているのが、!?幽体離脱…!ってことは死んだのか俺?いやでも、外傷はない… それどころか血の一滴も垂れてない。心臓発作か?そんな予兆は人生の中で一度もなかった。なんだ、何が原因だ!?

そこにあの男が歩いて来た。


そう言うと青い空間が背後に現れ男はそこに入っていった。それと同時に俺の身体、いや幽体とでも言うべきか、を吸い込んだ。その後は分からない。長い間薄暗いどこかに閉じ込められてる感覚だけはあった。暖かく、薄暗く、心地よいどこかに、ずっとずっと、長い月日を過ごしたと思う。目が覚めたら、俺は赤ん坊になっていた。

目の前には白衣を着た男女が俺を母親から引き離していた、俺は丁重に籠の中に入れられた。体を拭かれたり、変な液体で塗ったくられたあとそいつは慌てて母親の方へ駆け寄っていった。何事かと、見てみると、もう一人の赤ん坊が産まれてきた。どうやら俺らは双子で、しかも俺はお兄ちゃんだ。


何年か月日が経ち、喋れるぐらいまでは成長した。読み書きも世話係的な人が教えてくれた。後から聞いた話だが、母親はあの日死んだらしい。それはそれだ。別に悲しいとか、寂しいとは思わない。なんせ俺にとっては赤の他人みたいなものだ。それとわかったことがもう一つ、ここは中世で、奴隷小屋だ。言語はどこの国にも属さない物、強いて言うなら、発音とかは英語に近い。地図の見せてもらったが、地球と近しいものは感じるが違った。これで断言ができる、俺は異世界に来たんだ。


10歳ぐらいになると、大人たちの目が変わり、それまで俺らは特別待遇だったのが、すぐに労働者へと変わった。毎朝朝早くに起き、森へ行き、木や岩などを掘って運ぶ作業を日が暮れるまでやっていた。俺の弟とは別のところで農作業をやっているらしい(見回りの人情報)。部屋の仕事場も違うのであまり会話もしたことがない。

「おい坊主」


仲のいい見回りの人、ザキさんだ。

「こんばんわ、ザキさん」


「そろそろ坊主ってぇ呼ぶのもなんだから、名前でも付けてやらねぇなぁと思ってよ」


「あ、それなら心配に及びません。俺はタケルって決めてるんで」


「そうかぁ?まぁそれならいいんだが。お前ら兄弟は揃って同じ事言うんだな」


「弟が?」


「あいつは『俺はヤマトってんだ』つってたよ」


ヤマト… いやまさかな。

「そうですか、弟… ヤマトにはよろしく伝えといてください」


「おうよ」


奴隷生活にも慣れてきた。歳は10になり、身体も仕上がってきたと思う。奴隷ということで自由は少ないけど、今はそこまで不便とは思わない、衣食住も提供されるし多少暴力的だけど基本無関心な大人たち。奴隷については少しわかったことがある。奴隷は敗戦国、犯罪者や借金漬けの人がなることが多い。今俺のいる場所は奴隷市場で、まだ買い手がつくまでは色んな過酷な労働環境に派遣されている。通りでたまに顔見知りがいなくなったりするのか、と納得した。あとはたまに裕福そうな人間が俺らを品選びするかのように観にくるのも納得がいく。

そんなある日、一人の東洋顔の男が護衛を二人連れてやってきた。この世界にも東洋人はいるのかと感心した。

「労働者をお探しでしたら、こちらの少年はいかがでしょうか?」


商人の一人が俺を指差して言った。

「この少年はまだまだ伸び代もありますし、長期の労働といった条件にぴったりですよ!」


「ふぅむ…」


俺の顔をまじまじと見る男。立派に生やした顎鬚をじょりじょりと触りながら彼は言った。

「おいガキ、歳は幾つだ?」


「今年で11です」


「その歳にしちゃあ受け答えがハッキリしてんなぁ。商人、このガキも頼む。あとこれぐらいのを一人や二人欲しいんだが、居るか?」


俺はこの男に買われたのだろう。聞けば俺以外にも10何人の男を買ったらしい。こんなに買って何をやらされるんだろう?明日にはこの奴隷小屋ともおさらばだな。最後だろうしザキさんにお別れを言っておこう。

「よう坊主、お前買い手がついたんだって?よかったじゃねぇか」


「ええ、最後になると思うんでお別れを言わせてください。今までおせわになりました、ありがとうございました」


「おいおいんな照れるこったぁしなくていいよ。それでもこれで最後かー」


「そうですね、長い間面倒も見てもらって」


毎晩話し相手になってくれたり、晩飯にパンを一つまけてくれたり、本当に良くしてもらった。何もお返しができないのが辛い。

「そういやお前の弟も同じ人が買ってったって聞いたぞ」


「ヤマトもですか?」


「おう、だから目的地で会えるかもしれねぇぞ。せっかくだから兄弟水入らずで喋ってみるのもいいんじゃねぇか?」


「そうですね。俺は寝ます、明日は早いので」


「おうよ、じゃあな坊主」


翌日の朝、僕らは港まで檻の形状の馬車で運ばれ、そこで巨大な船に乗せられた。俺らは最下部の檻に入れられ間も無くして出発した。何日で着くとか、どこへ向かってるかの情報は一切なく航海は始まった。

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