第14話 真冬のホラー大作戦☆


 イーディス・エミリィ・トラウトンのものとして偽造した墓。それを暴くつもりはない。

 だって、偽装とはいえ、そこには身代わりのご遺体があるからね。

 で、埋葬してからだいたい半年だから……ご遺体の状態はあんまり見たいものではない。

 オレンジ髪たちは、このお墓にたどり着く前に、怖がらせて、国に逃げ帰らせたい。

 だから……真冬のホラー大作戦。

 始めるよ!

「さあ、まいりましょうか」

 そう言って、オレンジ髪の殿下を会場の扉の方へと促していく。

 殿下は拒否もできずに、むっつりとしたまま、扉の方へと向かう。

 扉が開かれたと同時に、バサバサとしたなにかが、オレンジ髪の殿下の頭の上に、降ってきた。

「ひ……っ!」

「う、うあ……っ!」

 オレンジ髪が、頭に降りかかってきたそれを払いのけて……、そして、落ちてきたそれが、なにかわかった途端にぎょっとした顔になった。

「な、な、な……なんだ、これはっ!」

 黄色の髪の毛。

 しかも、イーディスが兵士の剣によって切られたような髪の長さ。

 オレンジ髪は気持ち悪そうに、頭や服を払いながら、廊下の方へと逃げる。

 逃げて、それを恥じたのか、廊下の方で足を止めたけど、顔色は青い。

「あら……髪の毛ね」

 わたしは、そう言って、床に落ちた髪をじっと見る。

「随分とまあ……念が籠っているわねぇ」

 オレンジ髪は、わたしのほうをぎっと睨んで来た。

 びっくりしているのか、怖がっているのか。

 それとも、思い出しているのかもしれないわね。イーディスの髪を切ったあの時を。同じくらいの長さで、同じ色の髪の毛だから、連想は容易いでしょう。

「こ、こここここれはお前の髪だろうっ!」

 オレンジ髪の声が震えている。同様が隠せない。

「わたしの髪?」

「そんな奇抜な帽子で頭を隠しているのは、こんな嫌がらせをするために、お前の髪を切ったことを隠しているからだろうにっ!」

「奇抜? 我が国ではこの帽子が魔導士の証です。騎士団の団服のようなものですわ。せっかくの誕生パーティですので、盛装してみただけですけど」

 言いながら、帽子を取り、それをアドウェール様にいったん持っていたもらう。

 帽子の下にあるのは、リボンで括っている長い髪。

 そのリボンを、わたしはすっと外した。ばさりと流れ落ちた髪。長さは腰のあたりまである。

「はい、これこの通り、わたしの髪は長いですよ。切ったりなんかしていません。魔導の力は髪に宿りますからね。魔導に携わる者は、髪を短くなんてしないんですよ」

「で、では……この髪はいったい……」

 オレンジ髪の膝が、がくがくと揺れ始めた。呼吸も早くなっている。何か怖いことでも想像しているのかしら……ね。

 こちらの騒ぎが会場に響かないように、そっとアドウェール様が扉を閉めさせた。

 廊下には、わたしとアドウェール様と、オレンジ髪と随行の一行だけがいる。

 窓の外は、冬の太陽。

 日はあるのに、夕方になろうとしている時刻のためか、廊下は暗い。

 実は、先にこっそり廊下に出てもらったロイたちから、南の離宮の侍女たちに、わたしが展開する魔導の邪魔になるから、日が完全に落ちるまで明かりはつけないでねって伝えておいたもらったの。

 だから、窓から夕方の日の光は入っては来ているけれど、なんとなく廊下全体は薄暗い。

「ねえ、殿下。知っています? わたしの国では夕方の、暗くなる時間帯のことを逢魔が時というんですよ。黄昏とも言いますが……」

「お、おうま……」

「ええ。逢魔が時というのは、魔物や幽鬼に出会うときのこと。黄昏時は、『誰そ彼時』……夕方、昼でも夜でもない時間。日が沈み、あたりが暗くなり……目の前の人の顔を見ても、誰なのかがわからない……。世界の輪郭がぼやけ、人ならざるものに出逢うかもしれない時間……というのですよ」

 わたしは敢えて、コツコツと足音を立てて、窓側まで歩く。そして、窓を背にして立つ。口角を上げて、笑う。

 まるで、狡猾な魔女のように。

「たれそかれ、たそがれ。あなたは、いったい誰ですか? 目の前にいるあなたは、本当にわたしの知っているあなたですか……?」

 バタンと、大きな音がして、ちょっと離れた場所にある窓が一つ開いた。

 音に、オレンジ髪たちは驚いて、あちこちきょろきょろと見回す。

 開いた窓から冬の冷たい空気が流れ込んでくる。

「……そうそう、せっかくですから一つ、わたしの故郷の物語を紹介いたしましょうか」

 囁くように、告げる。

「昔々あるところに、婚約者から川に突き飛ばされた娘がいた。冷たい川の水に流されて、すぐに溺れて、水底に沈む。そのとき、娘の前に、魔女が現れた」

 窓の外の夕日は、ゆっくりと沈んでいく。

 オレンジ色の光が、廊下を照らす。

 けれどその光は明るくはない。オレンジの光はだんだんと暗さを増す。

「『助けてほしいかね? 代価を払うなら、願いを叶えてやるよ』魔女は、言った」

 魔女のセリフは、しわがれた声を出してみた。

「『支払えるものなど、なにもありません』娘が言った。それに答えて魔女は言った。『お前の美しい顔、美しく長い髪。それを代価に寄越せばいい』と」

 考えさせるように、わたしは言葉を切った。

 オレンジ髪の目が、見開かれる。

 まさか……、その顔は……と、言葉を零したのは、オレンジ髪ではなく、随行の者たち。

「娘は言った。『差し上げます。ですから、わたくしの願いを叶えてください』」

 大人しい娘の、か細い声を出す。

「魔女は言った。『では、助けてやろう』 娘は言った。『いいえ、わたくしの願いは助かることではございません。わたくしの願いは……』」

 意味ありげに、じっと、わたしはオレンジ髪を見つめる。

 かつて、イーディスがそうしたであろうように。

「『……愛しい殿下。あなたともう一度、ダンスを踊りたいのです。あの娘とではなく、わたくしと、踊ってくださるのなら……』」

 イーディスが、生前、このオレンジ髪になにを願ったのかなど、わたしは知らない。

 だけど、婚約破棄ものの定番によくあるわよね。

 王子様と悪役令嬢とヒロイン。

 王子様は婚約者である悪役令嬢とダンスを踊らずに、ヒロインと何度も何度もダンスを踊る。悪役令嬢は壁の花となって、その二人を見ているだけっていう場面が。

「ま、まさか……お前の顔がイーディスに似ているのは……、まさか……」

 わたしは答えずに、物語の続きを話す。

 魔女の、しわがれた声で。

「『代価は確かに受け取った。お前の願い通り、愛しい男とは、死の国で、お前とダンスを踊らせてやろう』」

 一歩一歩、ゆっくりと、わたしはオレンジ髪に近寄っていく。

 優雅なしぐさで、オレンジ髪に向かって手を伸ばす。まるで、ダンスの申し込みをするように。

 そして、にたりと笑う。

「さあ、殿下、参りましょう……」

 オレンジ髪は、真っ青な顔になり、後ずさった。








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