第71話 異人館
神戸を襲った過去の悲劇に思いを馳せた僕らは、次に北野異人館へと移動する。
震災遺構のあった場所のすぐ目の前で、白を基調とした洋風の建築物が多数立ち並ぶ、神戸を代表するオシャレ観光エリアだ。
「うわ~お! ここだけ日本じゃないみたい!」
「今日は天気がいいので、白壁の西洋建築と青い空のコントラストが見事ですよね」
異人館の日本ならざる街並を見て、ひまりちゃんと雪希が興奮した声を上げた。
「僕も同感。さっきまで普通の日本だったのに、急に別の世界に迷い込んだみたいだ」
「アメリカの西海岸って感じ?」
「ロサンゼルスとか? 僕はあんまりイメージが湧かない――というかそもそもアメリカ西海岸の雰囲気がピンとこないんだけど、ひまりちゃんって結構そういうの詳しいんだ?」
「えへへー、適当ー♪ ヨーロピアンかもー」
ひまりちゃんがにへらーと笑った。
「言わんとすることは、なんとなくわかるけどね。少なくとも日本的な街並とはかけ離れているのは間違いないし。っていうか、ほんと綺麗な街並だよね」
何を隠そう、僕はもうさっきからキョロキョロしっぱなしである。
「風見鶏の館だったり、ハンター坂だったり。名前もすごくおシャレですよね」
「ハンター坂を登ると、そこは異世界だった。なーんてね」
トンネルを抜けると雪国だった、的な表現をするひまりちゃん。
ちょっとオシャレが効きすぎている言い方だったけど、
「上手いこと言うね、さすがひまりちゃんだ」
でもそれがこの異人館というエリアにはとても似合っていると僕には思えた。
「異人館って明治時代にできたんでしょ? そりゃあ神戸の人は感性が洗練されるよね。あ、あの建物よくない? あの前で、みんなで写真撮ろうよー」
ひまりちゃんが僕の手を引っ張りながらズンズンと歩いていく。
「はいはい」
異人館の素敵な街並みに囲まれて、いつになくハイテンションなひまりちゃんに、僕は苦笑しながらついていった。
4人が全員入るように腕を伸ばして自撮りで撮影していたら、ちょうどクラスメイトの班が近くにいたので、声をかけて、真っ白な洋館を前に、お互いにスマホで撮影をしあう。
撮れた写真を見てみると、やっぱり不思議な気持ちになってきてしまった。
「真っ白の洋館。バックには青い空。とても日本で撮った物とは思えないなぁ」
「うんうん。どう見てもこれ、海外旅行中の写真だもんね」
「いい記念になりますね」
「じゃあ次はスタバいこっ♪ すっごく楽しみにしてたんだよねー」
「僕ら的には、異人館での一番の目的地だね」
「私もとても楽しみでした」
「席が空いてりゃいいんだけどなぁ。みんなの日頃の行いが試されるぜ」
というわけで、僕ら4人は「スターバックスコーヒー神戸北野異人館店」に向かった。
なぜ神戸まで来てスタバ? と知らない人は思うかもしれない。
実は異人館の各建物の中へと入るには、高校生にとってはまぁまぁでかいお金がかかる。
が、しかし!
スタバは普通の飲み物代しかかからないのだ。
高校生にとってこれはとてもありがたい。
しかもただのスタバではない。
登録有形文化財である洋館を利用した特殊な店舗なので、店の外も中もザ・異人館テイスト。
異人館の雰囲気をこれでもかと味わえると口コミで大人気の店舗だった。
むしろ異人館に来たら、とりあえずスタバに行けまであるのでは? というのが事前に調べたボクの結論である。
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