第65話 アキト、ひまり、雪希――三本の矢

 僕とひまりちゃんはかなり早めに登校すると、まっすぐに1年1組の教室へと向かう。

 するとそこには既に、雪希の姿があった。


「ラインでは聞いていましたけど、暁斗くん、すっかり元気そうですね。無事に治ったみたいで良かったです」


「それもこれも、雪希とひまりちゃんのおかげだよ。2人になら遠足のしおり作りを任せても大丈夫って思えたら、そこからはすごくよく眠れたんだ」


「信頼してもらえるのは嬉しいです」


「もうほんと、すごく信頼してる。ありがとね、雪希」

 しんどい時に助けてくれた雪希に、僕が心からのお礼を述べると。


「困った時はお互い様ですから。入学式の日にナンパに困っていた私を、暁斗くんが助けてくれたみたいに」

 雪希は天使のような微笑みを返してくれた。


「ちなみに原本はこれだよ、雪希ちゃん。昨日、雪希ちゃんが帰ってから最後のチェックをしてから印刷したんだ」


 家のプリンターで出力した遠足のしおりの原本を、ひまりちゃんが通学カバンから取り出して雪希に見せる。


「改めて見ても、すごくいい感じですね。少し見ただけでどこに何があって、どう行けばいいのかが分かります」


「僕も朝、家で見せてもらったんだけど、僕がこうしたいっていうのが完全に再現されててさ。たった1日でこんなにも完璧に仕上げるなんて、ひまりちゃんと雪希には本当に感謝しかないよ」


 これならクラスの皆も見てくれる――実際に参考にするかどうかは別にして――という確信が、既に僕の中にはあった。


「別にー、アキトくんの作ったテンプレートがあったから、わたしたちはそれに合わせただけだしー」


「ですよね、ひまりさん。私たちはそれに落とし込んだだけですから」


「いやいや、これは間違いなく2人のおかげだよ。こんなにも僕の考えを再現してくれてさ。そもそも僕一人じゃここまでの物はできなかっただろうし」


「そんなことないってー。テンプレートとまとめられた情報があれば、これくらいは余裕だしー」

「逆にそれがなければ、1日でこんな風に綺麗にはまとめられなかったと思います」


「いやいや、2人のおかげだって。アウトプットの段階は、僕はずっと寝込んでいたわけだし」


「ううん、アキト君のテンプレと集めてくれた情報のおかげだって」

「そうですよ」


「いやいや2人の仕事が良かったんだよ」

「だからアキトくんの事前準備のおかげだってばー」

「そうです、暁斗くんのおかげです」


 僕たちはまだ朝早くて、僕たち3人以外には誰もいない教室で、どうぞどうぞの遠慮合戦を繰り広げた。


 最終的に、


「じゃあ3人の力が合わさって、上手くできたってことで」

「異議なーし!」

「毛利元就の三本の矢の教えのごとし、ですね。3人の力が結集して完成させられたんです」


 という結論に落ち着いた。


 話がまとまったところで、3人で一緒に、職員室にいた担任の鈴木先生のところに原本を持っていく。


 鈴木先生は真剣な顔で、最初から最後までじっくりと目を通すと、


「これはまた、すごいものを作ったわね。下手な情報サイトよりも分かりやすいわよ? 特に観光名所の解説よりも、効率的な移動に重点を置いているのが素晴らしいわ」


 これでもかとべた褒めしてくれた。

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