第58話 第4回ひまりタイム

 病院から帰った僕は、すぐに自室に引き上げてベッドに入ると、それから1日寝て過ごした。


 ひまりちゃんの作ってくれた梅干し入りの玉子おかゆでお腹を満たし、ゼリータイプの栄養補給飲料をチューチューし、病院でもらった風邪薬とビタミン剤を飲んで、ひたすら身体を休める。


 最初の数時間は疲れもあって普通に寝れたものの、その後は眠ったり眠れなかったりを繰り返した。


 眠れない時は自然と、今後のことをあれやこれや考えてしまう――って、ダメだダメだ!


「今はもう、うだうだ悩んでもしょうがない。お医者さんに言われた通り、まずはしっかりと休んで回復に務めないとだ」


 お医者さん曰く、過労の元となる疲労は、身体だけじゃなく「脳疲労」と言って脳にも蓄積しているらしい。

 だから寝れなくても何も考えずに横になっているだけで、疲労はどんどん回復するのだそうだ。


 逆に、考える=脳を使ってしまうと、脳の疲労回復が遅れて疲労感が抜けないらしい。


 僕は掛け布団を首もとまでしっかり引き上げた。


「ワンチャン、明日には良くなっているかもしれない。今は無心で寝て、明日の自分にかけよう。それしかない」


 僕は目をつむると、雨戸とカーテンを締め切った真っ暗な部屋で、頭と体を休めることに専念した――。



 そして迎えた翌日。日曜日の朝。


 しっかりと寝て過ごした僕は、身体が幾分かマシになっていることを感じていた。

 少なくとも昨日のように、身体がダルくて動かないってことはない。


「これなら無理しなければやれるか……?」


 そっとベッドを抜け出して、勉強机に置いてあるパソコンに向かう。


 電源を入れ、ワードを立ち上げ、遠足のしおりに載せるための文章を作り始めた。


 カタカタカタカタ。

 しかしキーボードを叩き始めてすぐに、


「はぁ、はぁ……」

 活動したことで熱が上がったのだろう。

 ダルさが一気にぶり返してきてしまった。


 身体が熱い。

 頭の中で考えが上手くまとまってくれない。

 キーボードを打つ手はもう完全に止まってしまっている。


 頭が岩になったみたいに重くて、椅子に座っているだけでも重労働に感じてしまう。


「ダメだ、とても作業なんてできない……でも、なんとか遠足のしおりを作らないと……」


 僕は机の上に僕は両腕を置くと、その上に頭を置いた。

 まだ始めて数分だけど、いったん休憩しよう。


 そうしたら、少しは落ちつくかもしれないから――



◇ ひまりタイム ◇


 高校生になって初めてのテストをなんなく終えて迎えた日曜日。

 わたしはお部屋でノートパソコンを使って、神戸の町の事前チェックをしていた。


「あ、駅前にマルイ発見! 夏物とか見たいけど、さすがに神戸まで行ってショッピングはマズイよねー。へぇ、中華街もあるんだ。場所的に商店街の中だよね? ってことは、ウインドウショッピングしながら観光もできるってこと? ここはマストでしょ~」


 過労で倒れたアキトくんのことはすごくすごく心配だけど、現状、わたしにできることはない。

 おかゆを作ったり身体を拭いてあげたりはできるけど、逆に言うとそれくらいだ。


 だったら当初の予定通りに神戸観光――ええっと一応校外学習なんだっけ?――の準備をしっかりとしておくべきだろう。


 わたしがお部屋で神戸の町を楽しく事前チェックしていると、隣のアキトくんの部屋からなにやらゴソゴソと小さな音が聞こえてきた。


「この音……アキトくん起きたんだ。でもあれ? 部屋で何かしてるよね? あ、椅子に座った。何してるんだろ? もう、ちゃんと寝てないとダメなのに」


 わたしは神戸のチェックを中断すると、立ち上がった。


「まったくもー。お医者さんの言いつけを守らないなんて、アキトくんはいけない子なんだから。ちゃんと寝てないとせっかくの神戸観光が台無しになっちゃうよ」


 それとも体調が良くなったのかな?


「でもでも、それなら治ったって、わたしに言いに来るはずだよね?」


 なのに来ないとは、これいかに?


 そのことを確認すべく――ついにでアキトくんの調子を見に行くために――わたしはアキトくんのお部屋へと向かった。


◇ ひまりタイム END◇

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