第4章 

第44話 ゴールデンウィークは、ひまりタイムの到来

 球技大会が終わると、ほどなくしてゴールデンウィークに突入する。


 僕とひまりちゃんはどこか遠くに出かけるわけでもなく、近場のショッピングモールに遊びに行ったり、カラオケに行ったりと、普通の高校生な連休を満喫した。


 あとは店のお手伝い。


 うちは飲食業で連休はお客さんも増えるので、家族で出かけたりはできない。

 逆に家の手伝いも増えるのが、ずっと続く僕たちの連休の過ごし方だった。


 あとはひまりちゃんが「またバスケしようよ。アキトくんのカッコいいところ、また見てみたいな~」って軽く誘って来たけど、僕としてはバスケはもう全部出し切った感があったので遠慮しておいた。


 あんなシュートは二度と決まらないだろうし、あの最高の瞬間をしばらくは覚えておきたかったのだ。

 またバスケをやると、あの時の感覚を上書きして忘れちゃいそうなんだよね。


 ま、またしばらくしたら、ひまりちゃんと一緒にバスケをして遊ぶのもいいかもしれない。

 

 そんな僕とひまりちゃんは、連休最終日となった今日も絶賛、お店の手伝いに精を出していた。


 連休帰りの人たちや常連さん、大きな荷物を持った観光客、連休は家事を休みたいお母さんと子供連れ、祝日も出勤しないといけない勤労サラリーマンなどなど、お店は開店からずっと大盛況だ。


「お待たせしました。ラーメン定食2つ、お持ちしました~♪ ごゆっくりどうぞ~♪」


 ラーメン定食が乗ったお盆を2つ、片手持ちのテクニックを使って両手で器用に持ったひまりちゃんが、素敵な笑顔で配膳する。


 あれ、何気なくやってるけど、めちゃくちゃ難しいんだよな。


 肘から下&手の平にお盆を載せて運ぶんだけど、下げ膳の時に空の容器が乗っているだけならまだしも、お盆に熱々のラーメンセットが所狭しと乗った不安定なお盆を、片手でキープするのはものすごいバランス感覚が必要だ。


 それをひまりちゃんは、2つ同時になんなく運んでしまうから、本当にすごい。


 伊達にひまりタイムと呼ばれてはいない。

 ひまりちゃんは、ただ可愛いだけの客寄せパンダではないのだ。


 ちなみに僕はいまだにこれができなかった。

 2回に分けて運ぶせいで、配膳効率はひまりちゃんの文字通り半分だ。


 などと厨房の奥で、次から次へと運ばれる食器洗いに精を出しながら、ひまりちゃんの活躍を遠目に見ていると、


「ねぇねぇ、君めっちゃ可愛いじゃん。終わったら俺らと遊ばない?」


「外から見ただけでも可愛かったけど、近くで見るとマジ可愛いって。友だちからアイドルみたいって言われるっしょ?」


 注文を取りにいったひまりちゃんが、チャラそうなイケメン2人組につかまっているのが見えた。

 他の人にはた迷惑なでかい声で、露骨にナンパをされている。


 おいこら、ここはおいしくご飯を食べるところであって、大人向けのいわゆる出会い喫茶じゃないんだぞ。


「すみません、うちは定食屋なのでそういうサービスはやってないんです。注文のほうどうぞ」


 ひまりちゃんはお決まりのフレーズでさくっと断るが、チャラ男2人組はまったく聞く耳を持とうとしない。


「バイトしてるってことは、お金欲しいんでしょ? 俺んち金持ちだから、欲しいもの何でも買ってあげるぜ? バッグでも、服でも、アクセでも」


「そうそう、タカヤの親ってCMとかバンバン流れてる有名な会社の、取締役やってんだよ。だからマジ金持ちだぜ? 今日も俺ら、フェラーリで来てるし」


 しかしひまりちゃんも手慣れたもので、笑顔はそのままにガンスルーで応戦する。


「欲しいものとか特にないですから。では、ご注文をお願いします」


 けど今日の相手は少ししつこかった。

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