第42話「いぇい!」

「アキトくん、やったねー♪ 超カッコよかったしー♪ 特に最後の2段シュート!」


「うん。最後の最後で、特訓の成果が出せたかな」

「だねっ♪ ナイシュー、いぇい!」


 ひまりちゃんが満面の笑みで両手を上げながら、ハイタッチをしたそうなポーズを取ったので、僕も両手を上げてパンと軽くハイタッチで手を合わせる。


 動きに合わせてひまりちゃんのポニーテールが小さく揺れた。


 ちょうどそのタイミングで雪希もやって来たので、流れで雪希ともハイタッチをする。


「いぇい!」

「あ、えっと」


「いぇい!」

「あの、その……い、いぇい」


 男子と手を合わせるのが恥ずかしかったのか。それとも人前でハイタッチするのが恥ずかしかったのか。

 はたまたその両方か。


 雪希は頬を赤くしてはにかみながら、キュッと手を握ると、後ろ手に隠すように引っ込めながら、視線をフッと下へと逸らしてしまった。


「最後にひまりちゃんの大きな声が聞こえてさ。あれがすっごく背中を押してくれたんだ。ありがとね、ひまりちゃん」


「えー、あれ聞こえてたの? 試合中だったのに? ほんとー?」


「僕がひまりちゃんの声を聞き逃すはずがないだろ?」


「ふわわっ!?」


「かなり疲れてて身体も重かったんだけど、あれで身体の奥から最後の力が湧き上がってきたんだ。本当にありがとう、ひまりちゃん。ひまりちゃんの最後の一押しのおかげだよ」


「うん……、えへ、えへへ……。なんか、今日のアキトくんはいつもより積極的かも?」


 ひまりちゃんがビックリしたように目を見開いてから、今日イチってくらいに締まりのない笑顔でにへらーと笑った。


「だよな。ちょっと浮わついてる気はしてる」


 ひまりちゃんの言う通りで、今の僕はなんだかおしゃべりがすぎるみたいだ。

 まるで小さい頃に、自分が選ばれし人間だと勘違いしてイキってた頃に戻ったみたいだった。


 自分でもそうとは分かっているんだけど、今日の僕はどうしても浮ついた心が抑えきれないでいた。

 それくらいにさっきのシュートは僕にとって、僕の中で、大きな大きな一投だったのだ。


「えへへー、でもそうだよねー♪ アキトくんがわたしの声を聞き逃すはず、ないよねー♪」


 ひまりちゃんはそう言うと、僕の腕を絡めとって、そのままギュッと身体を寄せて甘えてくる。

 ひまりちゃんの胸が、スポブラ越しにむぎゅりと押し付けられた。


「ひまりちゃん。みんな見てるから」

「えー、兄妹が腕を組むくらい普通だしー」


 周囲を窺うと、「チッ、今日だけはしゃーねーな。だが今日だけだぞ」みたいな男子のやれやれ視線と、「えー、なんかラッブ~い! 義理の兄妹って結婚できるんでしょー?」みたいな女子たちのニマニマとした視線が僕たちに注がれる。


(あくまで僕がそう感じただけなんだけど)


 しばらく盛り上がっていると、閉会を告げる学年主任の先生のお話が始まったので、僕たちは一旦静かになる。


 その後は教室に戻っても興奮冷めやらぬまま。

 担任の鈴木先生も僕らの頑張りをすごく喜んでくれて、全員にジュースを奢ってくれたのだった。


 こうして新1年生の親睦バスケットボール大会は、滑り込みで3位タイ。

 終わり良ければすべて良しで、見事に特訓の成果を出すこともできて、僕としては100点満点で幕を閉じた。


 今日は少しだけ、ひまりちゃんとの距離を詰められた気がした。


―――――――


いつも応援ありがとうございます!


アキトくんが大活躍のバスケットボール大会でした!


気に入っていただけましたら、フォロー&評価(☆☆☆)をぜひぜひお願いいたします!(*'ω'*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る