第37話 噛みしめるのは厳しい現実

「くぅっ、高い! 届かない……!」


 技術レベルの低い素人同士のバスケットボールにおいて、高さという武器は恐ろしい程にモノを言った。


 オフェンス時は、バレー部に手を上げられるだけで、まともにシュートを打たせてもらえない。

 これじゃシュート練習の成果を出す出さない以前の問題だ。


 無理してなんとか打ったシュートも、体勢が崩れているせいで大きく外れてしまったり、ことごとくブロックの餌食になってしまった。


 ディフェンス時はもっと悲惨で、頭のはるか上でパスを回されるのを、天高く飛ぶトンビを見上げるかのように、指をくわえて見ているしかできなかった。


 高いパスの連続で簡単にゴール下まで運ばれ、リングのすぐ横からそっと差し出すだけのレイアップシュートを、僕たちは何をどうやっても止めることができない。


 挙句の果てには1年生で最高峰の184センチを誇るバレー部員に、豪快なダンクまで決められてしまう。


 2組チームは大盛り上がり。

 対して僕たち1組チームは、揃って肩を落とすしかなかった。


 結局、一方的に得点を決められ続け、トリプルスコアの大差を付けられてしまった。


 バスケットボールという競技の残酷さを、まざまざと見せつけられた試合だった。



 もちろん僕たちも、これは仕方なかったと気を取り直して、第2戦の3組との対戦に臨む。



 しかしスタメンから控えまで運動部がズラリと並ぶ体力モンスター軍団の3組には、文字通り運動量で圧倒されてしまい、これまた完敗してしまう。


 高さや技術的にはそこまで大きくは変わらないものの(根本的な運動神経やセンス、スピードは別として)、


「また全員戻ってる! しかもすぐに囲まれる……!」


 次々と選手を入れ替えて、オフェンスは全員攻撃による速攻を。

 ディフェンスも全員が素早く引いて、チームワークよく連携しながら、粘り強くしつこく守ってくる。


 バスケは素人でも攻守に渡って運動量勝負を徹底してくる3組に対して、既にバテ始めていた帰宅部主体の僕らは、その膨大な運動量にまったく着いていけなかった。


 僕らはいいところなく、2戦2敗の大負けスタートとなってしまう。



 それでみんな精神的にもガクッときたのか、僕たち1組男子チームは一番勝てる可能性がありそうだった、同じく文化部主体の4組にもリードを許す展開を作ってしまう。

 それでもなんとか巻き返して、点差はわずか1点。


「頼む──! 入ってくれ──!」


 この1点差で負けている状況での、最後のオフェンス。

 その終了間際に、空きスペースに動いた僕へとボールが回ってくる。


 ディフェンスがへばってて付いてきていない!

 フリーで打てる!

 だけど時間もない!


 ボールを受けた僕は、間髪入れずにシュートモーションに入った。


 試合終了を告げるブザーが鳴ると同時に、逆転を狙って放った僕のシュートは、柔らかな弧を描きながらゴールに向かい――、


 ガコン!


 しかし鈍い音とともに、無情にもリングを叩いて跳ね返ってしまった。


「あ――……」


 ブザービーターならず。

 ひまりちゃんとの特訓で何度も目の当たりにした失敗の光景が、ここでも繰り返されてしまう。


 1点差で逃げ切った4組の生徒たちが、コートで飛び跳ねて喜びを露わにしていた。


 ……現実ってのは本当に厳しい。

 ここで決めたらヒーローだったけど、そんな物語の主人公みたいには上手くはいかない。


 僕が外して負けた。

 そのやり場のない悔しさに、僕は唇を噛みしめた。


 こうして僕たち1組男子チームは、3戦全敗で5組との最終戦を迎えることになった。

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