第17話 プリンセス雪希&エビチャーハンの伝道師ひまり


 お昼休み。


「メシどうする?」

「オレ学食ー」


 午前の授業を終えて教室が一気に一気に騒がしくなる中、


「アキトくん、雪希ちゃん。一緒にご飯食べー♪」

 にへらーと柔らかな笑みを浮かべたひまりちゃんが、声をかけてきた。


 ちなみに雪希の席はひまりちゃんの1つ前だ。

「上白石」と「神崎」なので、さもありなん。


 僕の席もひまりちゃんの隣なので、近場の3人で机をくっつけてお弁当島を作る。


「女神ひまりとプリンセス雪希と一緒に弁当とかマジかよ」

「俺も混ざりてぇ」

「羨ましい……」


 クラスメイトたち(特に男子)が驚きと羨望の入り交じった視線を向けてくるが、いちいち構ってられないのでスルーした。

 ひまりちゃんの隣にいるというのは、こういうことの連続だ。


 しかも今は雪希までいる。

 物語に出てくるお姫様のように綺麗な雪希は、入学2日目にして一部男子からプリンセスの二つ名で呼ばれていた。


 雪希本人はまだその呼び名を知らないみたいだけど、そう遠くないうちに耳に入るのは間違いない。

 恥ずかしがる姿が今から目に浮かぶよ。


 それはさておき。

 早速、弁当箱を開けると、


「お二人とも、豪勢なお弁当ですね」

 僕とひまりちゃんの中身は同じ・量だけ違うお弁当を見た雪希が、驚きの声を上げた。


「昔から父さんが朝の仕込みのついでに作ってくれるんだ。だからお弁当は普通よりも豪華な感じかな」


「お父さんのご飯、美味しいから嬉しいよね~♪ しかも今日はエビチャーハンだし♪ やった♪」


 大好物のエビチャーハンを見て、ひまりちゃんが相好を崩した。


「じゃあ食べようか。いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます」


「早速、雪希ちゃんにエビチャーハンをお裾分け~」

 ひまりちゃんがエビチャーハンをお箸ですくって、雪希のお弁当の白米の上に載せた。


「いいんですか? ひまりさんの大好物なんですよね?」


「いいのいいの。この美味しさを、1人でもたくさんの人に知ってもらいたいだけだから。わたしは言うなればエビチャーハンの伝道師ひまり」


「おおっ、なんかひまりちゃんがカッコいい」

「ふふふ、まぁねー」


「しかも大好物のエビチャーハンをプレゼントするだなんて、大人になったねひまりちゃん」

「あ、そうだった。減ったエピチャーハンは、アキトくんから回収っと」


 ひまりちゃんが僕のお弁当から、雪希にあげたエビチャーハンと同じ分量(むしろ多いかも)を、お箸でひょいっとすくいあげて自分のお弁当に移した。


「……ねぇ、ひまりちゃん? それだと僕のエビチャーハンを、雪希に渡したことになるんじゃないかな?」


「そ、そうなりますね」

 ひまりちゃんが載せてくれたエビチャーハンを、今まさにお箸で掴もうとしていた雪希の手が、直前でピタリと止まった。


「それくらい、いいじゃん? モノは一緒でしょ? ほら、雪希ちゃん。細かいことは気にせずに、食べて食べて♪」


「ええっと……」

 雪希が眉を寄せた、いかにもな困り顔で僕を見てきたので、僕は笑顔で言ってあげた。


「あはは、気にしないでいいよ。父さんのエビチャーハンを一人でも多くの人に食べてもらいたいのは、僕も同じだからさ。せっかくの機会だし、本当に美味しいから、ぜひ雪希にも食べて欲しいな」


「アキトくん、ないすぅ♪」

 ひまりちゃんがグーっと左手の親指を立てた。


「そういうことなら、ありがたく頂きますね。……ふわっ! 美味しいです! エビがプリプリで、冷えてるのに油っぽさも全然感じません!」


 一口食べた途端に、雪希がまたまた驚きの声を上げた。


「ふふん、そうでしょそうでしょ? 絶品でしょ? しかもこれ、冷えた時用のレシピだから、出来立ての熱々を出すお店じゃ食べられないんだよ?」


 大好物の父さんのエビチャーハンを褒められて、ご満悦のひまりちゃんだ。


「お弁当用のスペシャルレシピというわけですね」

「そういうこと♪ じゃ、わたしも食ーべよっと。うん、今日も美味しい♪」


 あの日、初めて食べた時とまったく変わらない様子で、本当に美味しそうにエビチャーハンを食べるひまりちゃんを見ていると、僕の心もあの頃に戻ったみたいで、高校デビューをがんばる力がモリモリと湧き上がってくるのだった。

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