第17話 プリンセス雪希&エビチャーハンの伝道師ひまり
◇
お昼休み。
「メシどうする?」
「オレ学食ー」
午前の授業を終えて教室が一気に一気に騒がしくなる中、
「アキトくん、雪希ちゃん。一緒にご飯食べー♪」
にへらーと柔らかな笑みを浮かべたひまりちゃんが、声をかけてきた。
ちなみに雪希の席はひまりちゃんの1つ前だ。
「上白石」と「神崎」なので、さもありなん。
僕の席もひまりちゃんの隣なので、近場の3人で机をくっつけてお弁当島を作る。
「女神ひまりとプリンセス雪希と一緒に弁当とかマジかよ」
「俺も混ざりてぇ」
「羨ましい……」
クラスメイトたち(特に男子)が驚きと羨望の入り交じった視線を向けてくるが、いちいち構ってられないのでスルーした。
ひまりちゃんの隣にいるというのは、こういうことの連続だ。
しかも今は雪希までいる。
物語に出てくるお姫様のように綺麗な雪希は、入学2日目にして一部男子からプリンセスの二つ名で呼ばれていた。
雪希本人はまだその呼び名を知らないみたいだけど、そう遠くないうちに耳に入るのは間違いない。
恥ずかしがる姿が今から目に浮かぶよ。
それはさておき。
早速、弁当箱を開けると、
「お二人とも、豪勢なお弁当ですね」
僕とひまりちゃんの中身は同じ・量だけ違うお弁当を見た雪希が、驚きの声を上げた。
「昔から父さんが朝の仕込みのついでに作ってくれるんだ。だからお弁当は普通よりも豪華な感じかな」
「お父さんのご飯、美味しいから嬉しいよね~♪ しかも今日はエビチャーハンだし♪ やった♪」
大好物のエビチャーハンを見て、ひまりちゃんが相好を崩した。
「じゃあ食べようか。いただきます」
「いただきまーす」
「いただきます」
「早速、雪希ちゃんにエビチャーハンをお裾分け~」
ひまりちゃんがエビチャーハンをお箸ですくって、雪希のお弁当の白米の上に載せた。
「いいんですか? ひまりさんの大好物なんですよね?」
「いいのいいの。この美味しさを、1人でもたくさんの人に知ってもらいたいだけだから。わたしは言うなればエビチャーハンの伝道師ひまり」
「おおっ、なんかひまりちゃんがカッコいい」
「ふふふ、まぁねー」
「しかも大好物のエビチャーハンをプレゼントするだなんて、大人になったねひまりちゃん」
「あ、そうだった。減ったエピチャーハンは、アキトくんから回収っと」
ひまりちゃんが僕のお弁当から、雪希にあげたエビチャーハンと同じ分量(むしろ多いかも)を、お箸でひょいっとすくいあげて自分のお弁当に移した。
「……ねぇ、ひまりちゃん? それだと僕のエビチャーハンを、雪希に渡したことになるんじゃないかな?」
「そ、そうなりますね」
ひまりちゃんが載せてくれたエビチャーハンを、今まさにお箸で掴もうとしていた雪希の手が、直前でピタリと止まった。
「それくらい、いいじゃん? モノは一緒でしょ? ほら、雪希ちゃん。細かいことは気にせずに、食べて食べて♪」
「ええっと……」
雪希が眉を寄せた、いかにもな困り顔で僕を見てきたので、僕は笑顔で言ってあげた。
「あはは、気にしないでいいよ。父さんのエビチャーハンを一人でも多くの人に食べてもらいたいのは、僕も同じだからさ。せっかくの機会だし、本当に美味しいから、ぜひ雪希にも食べて欲しいな」
「アキトくん、ないすぅ♪」
ひまりちゃんがグーっと左手の親指を立てた。
「そういうことなら、ありがたく頂きますね。……ふわっ! 美味しいです! エビがプリプリで、冷えてるのに油っぽさも全然感じません!」
一口食べた途端に、雪希がまたまた驚きの声を上げた。
「ふふん、そうでしょそうでしょ? 絶品でしょ? しかもこれ、冷えた時用のレシピだから、出来立ての熱々を出すお店じゃ食べられないんだよ?」
大好物の父さんのエビチャーハンを褒められて、ご満悦のひまりちゃんだ。
「お弁当用のスペシャルレシピというわけですね」
「そういうこと♪ じゃ、わたしも食ーべよっと。うん、今日も美味しい♪」
あの日、初めて食べた時とまったく変わらない様子で、本当に美味しそうにエビチャーハンを食べるひまりちゃんを見ていると、僕の心もあの頃に戻ったみたいで、高校デビューをがんばる力がモリモリと湧き上がってくるのだった。
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