第4話 貧乏神から女神へ
◇
それからひまりちゃんは、毎日のように学校帰りにうちに来るようになった。
「おー、ひまりちゃん、今日も来たな! いっぱい食ってけよ!」
「ありがとうございます、アキトくんのお父さん」
毎日お腹いっぱいに食べられるようになり、ガリガリに痩せていたひまりちゃんは、みるみるうちに肉付きがよくなっていった。
そして身体つきがどんどんと女の子らしくふっくらしていくとともに、ものすごく美人になった。
髪なんてツヤツヤのサラサラで、太陽に当たるとキラキラと輝いている。
綺麗な長い髪を、体育の時に後ろに縛っていたのがすごく可愛かったから、
「ポニーテール、似合ってるね」
って何気なく言ったんだけど、その日からひまりちゃんは毎日ポニーテールをするようになった。
どうやらひまりちゃん自身も気に入っていたみたいだ。
誰かに言葉で後押ししてもらいたかったんだな、なんてことをおマセな僕は思ったものだ。
「ねぇねぇアキトくん、今日のはどう? 雑誌でね、アイドルの女の子がしてて、すっごく可愛かったんだ~」
ポニーテールの位置を横にしてみたり、少し下げてみたり、髪をまとめるヘアゴムの色を変えてみたりと、ちょこちょこアレンジをしては僕に感想を聞いてくるひまりちゃん。
女の子らしくて可愛いなと思った。
5年生くらいになると、ひまりちゃんは「ただでご飯をいただいているので、これくらいさせてください」と言って、うちの食堂でお手伝いを始めた。
美人で可愛くて一生懸命で要領も愛想もいいひまりちゃんは、瞬く間に看板娘になった。
地元テレビ局が取材に来て地域ニュースで放送されたりもして、お客さんは年々増加の一途をたどり、
「これが嬉しい悲鳴ってやつか!」
おかげで父さんは毎日大忙しだ。
いつしか、ひまりちゃんがいる放課後の時間は「ひまりタイム」と呼ばれるようになり、連日満員御礼で時には店外に待機列ができるほどだった。
僕もお手伝いに駆り出されたが、ひまりちゃんと違って自主的ではなかったので実のところモチベはあまり高くなかった。
「ごめんねアキトくん、一緒に手伝わせちゃって」
「ひまりちゃんのおかげでお小遣いも増えたし、全然気にしないでいいよ!」
それでもバイト代という名のおこづかいも貰えたので、それなりにちゃんとは働いた。
手抜き仕事をするようなダサい姿をひまりちゃんに見せたくない、って見栄張りもあった。
そんなひまりちゃんは、うちの食堂の常連さんたちからもものすごく可愛がられていた。
「これね、前にうちの子が着ていた服なの。もうサイズが合わなくて着られないんだけど、捨てるのももったいなくて置いてあったのよ。だから、ひまりちゃんにどうかと思って。いらなかったら捨ててくれていいから」
予約していた晩ご飯のテイクアウトを取りに来たおばちゃんから、とても可愛らしいワンピースをプレゼントされたり。
「このバッグ、会社の忘年会のビンゴ大会の景品で貰ったんだけど、どう見ても若者向けでしょ? だからひまりちゃんにあげるわ。ったく、こんなもん景品にするとか私への当て付けかっての!」
独身のままアラサーの壁をあっさりと越えてしまい、メンタルがささくれだっているOLのお姉さま――すごく美人なのにどうして結婚できないんだろう? 不思議だ――から、ちょっといい感じのバッグを貰ったり。
そんな感じで、服や小物もそれなりのものを身に付けるようになったひまりちゃんは、本当に綺麗になっていき。
中学に上がる頃にはもう誰も、ひまりちゃんを貧乏神とは呼ばなかった。
女神ひまり。
「神谷」という名字をもじって、女神とあがめ立てられるようになっていた。
貧乏神から女神様。
すごい進化だ。
しかもひまりちゃんは美人なだけじゃなく、運動も勉強も得意ときた。
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