冒険者より盗賊の方が儲かるみたいなので冒険者学園を退学して盗賊になりました~ユニークスキル〈記憶改竄〉で好き勝手していたら、やがて勇者になる弟が宿敵に

イヌガミトウマ

第1話 プロローグ

「早く寝ない悪い子のところには盗賊がくるのよ」


 この国の母親たちは、こういって子供を寝かしつける。

 実際、盗賊は脅威であり、度々非道な蛮行を繰り返していた。

 この国に居着くグラフトと名乗る盗賊団は年々その数を増やし、領主は頭を抱えていた。


 

 『求む! 強き冒険者。グラフト盗賊団の討伐依頼』


 冒険者ギルドは賑わっている。その報酬額に。

 報酬総額三〇〇〇万ゴルド。一つの家族が一〇〇年間暮らせる額だ。

 討伐に臨む冒険者は一〇〇人を超える。


 これから、この国でちょっとした戦争が始まろうとしている。


 ***

 

 俺は九年制の国営フォレス学園を、八年生の時に退学した。


「ライアス、退学したって? ――そうか。金がかからなくなって父さん、嬉しいよ」

 

 俺の父親は鍛冶屋であるが、とにかく、働かない。腕は良いのか、そんな事は知らない。冒険者が沢山いるこの国で、剣も作らずに包丁やナイフ程度しか作らない。


 だから、我が家は昔から生活をするのがやっとの貧乏で、いじめられた思い出も少なくなかった。

 俺達に母はいない。母親の記憶はおんぶされている時の匂いだけ。酒浸りの父親と三つ年下の弟バロン、僕の三人暮らしだ。


 弟のバロンには才能がある。冒険者として大成するだろう。だから、俺は退学してバロンの学費の為に働く。

 冒険者として……。

 

 否、冒険者の皮を被った盗賊として。


 ***


 国営フォレス学園。「国営」なので学費は不要だ。このフォレス領の誰もが通う。七歳になる歳に入学し、冒険者になるための徹底した教育をする。卒業すると一六歳の立派な冒険者の一丁上がりだ。


 学費がかからないとはいえ、課題や教科書には少しの金がかかる。俺の親父はそのすこしの金すら稼げない人だった。


 俺が八年生だったある日、課外授業で精鋭冒険者パーティーに同行し、クエストを見学することがあった。一〇組の精鋭冒険者パーティーに学生が一人ずつ組み込まれる。二週間ほどかけて、一学年八〇人ほどの学生が全員経験する人気の課外授業だ。


 冒険者の仕事、冒険者の格好の良さを間近で見て、モチベーションを上げるためのものだろう。商団の護衛、小さな野盗団の討伐などに同行する。俺は、当時小さい規模だったグラフト盗賊団の討伐に同行することとなった。

 

 このパーティーのリーダー、ロベルさん。短い黒髪の剣士は、世界で最も高価なミスリルを鍛えた片刃の剣を携えていた。一般的な家族が一年は暮らせるほど高価な剣。冒険者はそれほど儲かるのか、と脳内で算盤を弾いていた。


 熱火球を操る魔法使い。岩のような体躯のタンク。美人の弓使い。そして、学生の俺。パーティーとしては申し分のないバランスと、数々の実績を兼ね備えた、まさにA級冒険者の精鋭だ。一行は小さな盗賊団のアジトへと向かい、盗賊たちと対峙する。


 情報通り、盗賊の数は十一人。

 リーダーのロベルさんが自信満々に言う。

 

「学生君、大丈夫。このくらいの小さな盗賊団くらいあっという間さ。君は後ろに下がっていなさい」


 まず、美人の弓使いさんが、盗賊の弓に射抜かれた。

 岩のような体躯のタンクさんが、盗賊の罠により岩に潰された。

 熱火球を操る魔法使いさんは、盗賊の熱火球で火だるまとなって転がっている。


 自慢のミスリルの剣は、切断されたロベルさんの腕から離れ、僕の眼前の地面に突き刺さった。


 盗賊の首領らしき男が言う。


「後ろのガキ、学園の学生だろ。なんか、悪いな。お前らが憧れる冒険者様をこんなにしちまって……。」


 右腕の切断面を圧迫止血しながらロベルさんが言う。


「君、逃げなさい!」


 僕はその言葉を無視し、盗賊の首領に話しかける。

 

「盗賊って、儲かりますか?」

「なんだ? お前。そりゃ、この冒険者たちの装備を売りゃ、そこそこの金になるし、交易商団を襲えばかなりの儲けになるが……。そんなことより、子供を殺す趣味なんてねぇからお前は逃げていいぞ」


「そうですか。」


 俺は、眼の前の刺さるミスリルの剣を地面から引き抜くと、ロベルさんの背中を貫いた。程なくして多量の血が地面を濡らし、ロベルさんは絶命した。


「僕も盗賊の仲間にいれてくれませんか?」

「おいおい、とんでもねぇガキだな。うーん。お前、気に入ったぞ。名前は?」


「名前ですか。いま偽名を考えるので待って下さい」


 ――俺が盗賊になったのは、こういう経緯があってのことだ。

 

 ***

 

 あれから時が経ち、俺は盗賊と冒険者の二重生活を送っている。

 この春、弟のバロンは九年生になった。一五歳になる学年だ。

 この国では一五歳になると神からギフトを授かる。


 【神の恩寵カリスマ】。バロンが授かったギフトは、勇者の才の塊だ。

 バロンは俺を尊敬している。俺のような冒険者となり、ゆくゆくは勇者を目指すのだそうだ。


 勇者とは小貴族の騎士とは違い、大貴族として扱われる。平民が唯一成り上がるための道のりだ。学校を辞めてまで自分を学校に通わせてくれた俺に、楽な暮らしをさせるんだと意気込んでいる。


 俺のギフトは【隠遁ハーミット】。誰にも気付かれず、人に近づく事ができる。このギフトで、難易度の高いクエストを攻略していき、そこそこ名うての冒険者となっている。


 嘘だ。本当の俺のギフトは【記憶改竄フォルサファイド】記憶の改竄だ。


 ***

 

 三〇〇〇万ゴルドの報奨金を目当てに、冒険者ギルドへ集まる冒険者に紛れて俺もいる。ギルドマスターが姿を現した。どうやらグラフト盗賊団討伐依頼の説明が始まるらしい。


 

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