のほほんしてたい、ダンジョン攻略。星と蝶
俺の頭だとそろそろ限界が来るんだが……早く終わってくれないだろうか。
「連発と合成魔法。この二つは技術力の向上でスピードも威力も格段に跳ね上がるけど、要領良く物事を推し進める事の出来る人だけ」
鼻から打ち返してくるようにも感じるが、
続けて「連発は渾身の一撃の魔力量を分散した決定打に欠ける二流か、自身の限界点をラインに魔法専門と同等の力を得るかの二択」
「難易度はどれくらい変わるんだ?」
「天と地の差」
「でーすよね〜」
「そして、合成魔法。水5にワインも同じ5」
「合わないな」
「それはご愛嬌で、次の手順が大事。攪拌」
混ぜるのか。ん、どうやって?
「内臓部分から体外放出までの狭間。此処で絶妙な調節を加え、狙った場所に発射する」
なんか初めての感覚なのにワクワクしねぇ。勉強っつーか、英才教育が薄ら蘇ってきて、時折その背がどうしようもなく怖くなる。
「じゃあ、低級の使い手は負ける運命なんだな」
「そうでもないよ」
「え?」
「必ずしも上位層の連中が勝つ訳ではなく、知恵と経験が上回れば、下剋上は十二分に」
「新人はどっちも持ち合わせてないんだよ」
「その基盤を磨くのが、学校だよ」
「従順に調教して個性削ぎ落とすだけだろ」
「場所によるかな」
「そりゃ是非、巡り会いたいもんだ」
「――僕ね、いつか教師になりたいんだ」
「いいんじゃないか……向いてると思うよ」
これを言ってしまえば自分が苦しむだけなのに、身体ってのは正直で心情を吐露した。
「何の分野だ」
「攻防魔学」
予想が見事に大当たり。
「自分の生徒にはどんな風になって欲しい」
「迅速且つ正確に最小限の被害で制圧する。この一点に踏まえた全てを教えるつもり」
何方にも捉えられる最適な言葉のニュアンスに絶妙な入学寸前の俺の顔が変形するも後頭部に目が付いてないお陰で無傷に済んだ。
「初の生徒に立候補、したいんですけどどうですかね」
「僕は別に構わないけど、片手で剣振りながら頭ともう一方の手使って魔術扱える? 相手は分身を紛れさせてフラッシュやら幻影も扱ってくるし、調整ミスると爆発しちゃうよ」
「『やっぱ俺には剣しかねぇ』わ」
「そんなに使いたいの?」
「あぁ、だってカッコいいだろ。便利だし」
「どんなのが良い?」
「日常生活でも役に立つ汎用性の高ぇやつ」
「うーん、あんまり戦闘以外に用いるのは、お勧めできないんだけどなぁ、難しいし」
「でも、俺の持ってるよりマシだよ」
「どんなのが使えるの?」
共に立ち止まり、俺は徐に両の掌を重ね、音が狭間に収縮していくと同時に開かれる。
一羽の蝶。が、天へ羽ばたいて。
また、散っていく。
無数の煌びやかな鱗粉が舞い降りる姿に、まるで目が覚めたような顔のヒロであった。
「どうした?」
「……行こう」
謎の駆け足気味の切り替えに喰らい付き、目を離した途端に群がり始めた魔物の群れ。
それらにごく一瞬意識を割けば、静かに我が家の地の理を得た所作で身を隠していく。
「襲ってこないな」
「ダンジョン内は肉体の魔力総量を明確に探知出来るから力量の差に打ちのめされたんだよ、きっと」
「へー」
「ダンジョンから採取した鉱石を採掘して、魔力総量検出装置に改造したりしてるんだ」
華麗な話題逸らしには大人しく乗じるが、突発的な
それでもこれ以上、不用意な詮索で窮地に立たされるのは勘弁願いたいので暫く乗っておこう。
「あー俺はほぼゼロに近くて馬鹿にされたっけな」
「ふーん」
片足掛けの半端な乗車を見逃す筈もなく、陰と陽の激しい応酬戦を繰り広げる中で――興味本位で延々と覗き見する頭上の魔物に。
「……」
足先で蹴り上げた礫を爪弾き、ちょっと八つ当たり。素晴らしい直撃を賜っただろう。
「趣味悪いよ」
「斥候の可能性も捨てきれないだろ」
「それが?」
一瞥の先、球体状の真っ黒なシルエットで光り輝く金色の眼と何処にあるか判らん口。
「何だ、こいつ」
「ダンジョンを経路にする回遊生物だと思う」
「なんでわざわざこんな危険な場所に」
「魔力を食事にしてるなら高品質な栄養価。上位の魔物に寄生なら共生関係で目的地へ」
「何方にせよ、巧い生き方歩んでんな」
「ちゃんと後世にも受け継げるようにしてるみたいだしね」
「あ?」
「よく見て」
衝突で狼狽えと威嚇が半々な野郎の周り、何度も何度も視線を泳がせれば背に子供が。
「悪い奴、じゃないんだな」
「何言ってるの」
「……?」
「この世に人類以外に悪を統べる生命は他に居ないよ。みーんな普通に生きているだけ」
今まで一度足りとも考えたことなかった。
魔物に対しての生命権。
此奴らからしたら余所者が我が物顔で身勝手振り撒き、理不尽に棲家も命も奪ってくんだもんな。そりゃもう移民と変わらねぇよ。
父親としての使命を背負う姿に「失せろ」初めて魔物の背中が消えるまでを見届けた。
そんでもんで、やっとこさ一休み。
「ずっと勇者やってたら、わかんなかっただろうな」
「今も続けていれば、他者なんてくだらないことで頭悩ませることもなかったのにね」
「そんな悲しいこと言うなよ」
「現実はとことん人を追い詰めるよ」
「非情だねぇ」
チクチクと背中に突き刺してきた蓄積した棘の山が凭れ掛かる俺の背を強引に起こし、
「もう行くの?」
「このままじゃ立てなくなるからな」
「そうだね」
だが、現実を直視する神童との意思の同調は叶わず、相棒と共に息のあった連携で様式美の襲撃モーションの魔物を次々と薙ぎ倒し、
「お前も少しは仕事しろよ」
たった一度の戦い如きで疲弊した使い魔に命令するも耳すら立てぬ無視を決め込んで、阿吽の呼吸はおろか何も掴めはしなかった。
何故なのか。
きっと個人的な悩みでもあるんだろう。さっさと解決して仕事人な一面が見たいところだ。
俺本人は壁跳びで迫った敵を前に、振り上げた拳を振るのさえ躊躇っていた。
が、寸止めを得意としない生き様が野郎の全てを挽肉にしちまった。チッ、汚ねぇなぁ。
続く第二陣、軽めの足蹴で一定の距離を保ち、掌の制止込みで対話を試みようと挑戦。
「まぁ、待てや。落ち着いて話、しようぜ?」
こっちが最大限譲歩してやってんのに垂涎もののご褒美に兄弟揃って乾杯しやがった。
昔、魔物を手懐けると言った奴も呆気なく死んだっけな。
別にこんな荒々しいのじゃなくたって、またいつかもっと心優しいのに手を差し伸べれば良い。
「じゃあな」
白騎士の息吹きが身を粉々に打ち砕いた。
「俺は悪くないんだけどなぁ」
「上から目線の物言いが気に食わなかったんだと思うけど」
「いや、ダンジョンで求めんのが間違ってたんだ」
「本当に」
「あぁ、絶対にな」
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