サボテンな少女

伏田茉由

第1話 サボテンちゃん

「ねえ、ミサキちゃん」

「うん?」 

「なんか、イヨちゃんってじゃない?」

 昼休み中、席が斜め前の友達であるサキちゃんに言われたその一言のハッとした。確かに、という人間は(本人は自覚があるかは知らないけど)トゲトゲとした歯に衣着せぬ発言が特徴的で、芯のある人間性をしている。

「確かにね。今まで思ってたけどなんでそんなにみんなイヨちゃんのこと避けてるの?」

「あれ、話さなかった?この前、イヨちゃんがあたしに『だいぶ個性的な絵描くんだね。将来風変わりなデザイナーとかやってそう』って言ってきたの。これって遠回しに変な絵だな、って言ってない?」

 確かにサキちゃんのイラストは個性的ではあるが、わざわざ本人の前でそんな言い方をする必要があるのだろうか。クラスで彼女を苦手に思う人が多いのは、そののせいだ。

 

 つまり、褒めてるのか貶してるのかが曖昧な発言で心を傷つけられた人たちが、四月の下旬から彼女のことを避けるようになっていったってわけか。確かに七月初めになった今となっては、彼女は完全に孤立しているのが現状だ。昼休み中の今は一人で本読んでるし。私はそもそも直接会話したことすらないから、キツく言われたことはないけど、近寄りがたい雰囲気ではある。


「なんかさ、悪気がないにしても傷つかない?こっちとしてはわかるんだけど」

「そうだね。私はコミュ障だから席も遠いし話したことないけど、苦手なタイプかもしれない」

「あー、多分話さないほうが身のためっていうか……言い方悪いな。話す時は言葉を選んだほうがいいかな、って思うよ」

「そうかもね」

 うんうん、と言いながらサキちゃんは頷いた。

「あ、五時間目って?」

「一学期の学年レクの役割決め……だと思うよ」

「あー思い出した。と一緒にならないといいな」

サキちゃんがイヨちゃんの方を向きながらつぶやいた。今学期の学年レクは私たち四組がクラスで分担して行うことになっている。基本二人から五人で固まって作業することになるから仲の良い人と上手いこと組めるかどうかが鍵になってくると思う。

「ねえ、ミサキちゃん。一緒に司会・進行やらない?」

「えっ……そんな大役私にできるかな?」

「大丈夫。一緒ならなんでもできるよ」

そういうとサキちゃんは親指を立てて言った。

「それならいいや……」

「よかった。じゃあ、もうお昼休みも終わりだし座ろっか」

彼女がそう言った途端、チャイムが鳴った。ゾロゾロと廊下で話していた男子たちが教室に戻ってきた。


「じゃあ、早いけど始めるよー。号令ー」

「起立」

全員が立ち上がる。サキちゃんが私の方をチラリと見た。もちろん司会・進行にするよね?というかのような視線だ。

「お願いします」

お願いします、とみんなが声を揃える。着席の号令と同時にみんなが席についた。

「よし、始めようか。この時間で来週の学年レクの役決めをします。大体候補は決めてあるよね?第二希望まで一応と思って朝声かけたけど……」

うんうん、とみんなが頷いた。

「よし、だいたい決まってるね。じゃあ黒板の枠に自分の出席番号書きに来て。廊下側の列から……」

廊下側の二列の十人ほどが立ち上がり、黒板の前に列を作った。次々とみんなが苗字を黒板に書いていく。今の所、どの役も被りはなさそうだ。

「それじゃあ、真ん中の二列そろそろ行こうか」

一斉にみんな立ち上がった。サキちゃんに手を引っ張られる。列の先頭になった私とサキちゃんは真っ先に『司会・進行』のマスに宮田と書き、チョークを私にはい、と渡してくれた。被るともれなくじゃんけんで負ける気しかしないので、司会・進行の候補者がいないことを祈りながら黒板に坂田と小さく書いた。残りの八人も書き終えはしたが、今の所被りがなさそうだ。

「よし、最後の二列。書いていってー」

先生の号令で最後の十人が立ち上がり、黒板前に列を成した。やはりその中にもがいる。彼女が山原と書いたのは……よかった、『総合準備』だ。ほぼ雑用みたいなもんだから、基本は司会との関わりはないはず。ちょっとホッとした。

「よし、ありがとう。みんな、まさか空気読んだ?偶然みんな被ってないから……もうこの時間はこれで終わりにするね。今から解散。ペアとかチームの子となんかあったら質問とか話し合いの時間にするから。ただ、無駄話はダメね」

複数の子が立ち上がり、ペアなりチームの仲間なりの子の方へ向かった。案の定、サキちゃんは私のところに寄ってきて言った。

「よかったよ。二人で」

「うん、てかイヨちゃんの相方って誰?」

「えっと、最近あんま学校来れてない古川さん。総合準備自体が雑用みたいなもんだから、誰も移動させなかったんじゃないかな?」

「そっか。なら良いんだけど」

「てか、台本のテンプレートもらってくるね。資料取りに来いって黒板に書いてあるし」

あまり見ていなかったので気づかなかったが、よく見たらそんなことが書いてあった。

「そっか」

私は教卓に向かうサキちゃんの姿をぼーっと眺めていた。

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