第18話
公衆浴場の質は、正直言ってあまりよくない。個室の敷居はトイレのような感じで、上の部分と下の部分に隙間があるような感じだ。
場所によっては木の壁に穴が開いているなどもあるしな。
中に入ると、シャワーのようなものが壁につけられている。魔石があり、そこに魔力を込めると生ぬるいお湯が出てくる。
……うーん、もうちょっと温度は高いほうがいいんだがな。
贅沢は言えないので、さっさと洗っていく。
そのうち、俺の召喚魔法が強化されたら、家丸ごととかは召喚できるのだろうか?
せめて、コンテナハウスくらいは召喚できるようになれれば、色々と便利なのは間違いない。
日本の環境に慣れていると王城での生活くらいでないと満足できないが、それでもやはり落ち着くためにもこの時間は悪くない。
今日あったこと、これからやるべきことなど、ぼんやりとしながら色々なことを考えつつ、体を洗い終えた。
アイテムボックスに入れていたタオルを取り出し、体をふいていく。
……タオルとかもどこかで洗濯したほうがいいとは思うんだがな。
現状は新しいものを召喚し、一回使ったらアイテムボックスに捨てるという形だ。
なんとも贅沢な使い方をしているのは自覚している。
……別にこれでもいいのだが、いずれはどこかで洗いたいものだが、洗濯機とかあるわけじゃないしなあ。
洗濯機もいずれ、魔力が強化されれば、太陽光パネルとか召喚して電気の確保とかできるのだろうか?
……それか、バッテリーとかを召喚してみるのもありだよな。
まあ、何をやるにしても今以上に魔力を鍛える必要があるわけで、それにはリアたちの力が必要だ。
汗を流し終えた俺は、しばらく外で待っていると、リアがやってきた。
皆それぞれ、パジャマに着替えてくれているようだ。
リアは……なんだか疲れた様子だ。アンナはそれを慰めるかのように笑顔を向けている。
「リア、大丈夫か?」
「……ナーフィ、まったく自分で洗う気ないのよ。まったくもう、疲れたわよ」
「……ああ、それで」
代わりにリアが洗ってあげたんだろう。
そのナーフィはというと首にタオルをかけるようにして、ぐびぐびとジュースを飲んでいる。
ま、まあナーフィもそのうち自分のことは自分でやるだろう。
今は気長に待てばいいんじゃないだろうか?
彼女らとともに宿を目指して歩き出す。
やはり、リアたちの美貌は言うまでもないためか、道ゆく人たちの視線を集める。
特に今は、出会った時よりも血色も良くなっているからか、余計に注目されている。
それでも、皆奴隷だということが一目見て分かるのだろう。
俺に対して、嫉妬の眼差しへと変わっていき、少し居心地が悪い。
「公衆浴場はどうだった?」
「……いいわね。やっぱり汗を流せるって全然違うわ。それに、この石鹸とかも……凄いわね」
「すごかったです……香りなどもしっかりしていますし、髪もいつもより艶があるような気がしますし……肌もツヤツヤですし。この服もとても着心地が良いですね」
リアの言葉に、アンナもこくこくと感動した様子で頷いていた。
確かに、今の彼女たちは出会った時の数倍は肌髪ともに艶がいい。
とりあえず、大きな問題はなさそうだ。
リアとともに部屋へと戻った俺は、すっかり暗くなった部屋を見る。
魔道具のランプがあるとはいえ、あまり明るくない。
この世界の夜は基本的に、寝るものらしい。
暗いので、俺はライトをアイテムボックスから取り出す。それは災害時などに使うもので、ランタンのようにもできるタイプのものだ。
それで明かりを確保すると、リアは驚いたようにこちらを見てくる。
「……とても明るいわね。それ、魔法じゃないのよね?」
「ああ。俺の世界にある道具だ」
「こっちの世界で言うところの魔道具みたいなものよね? ……なんだか、シドー様の世界ってあたしの想像の遥か上をいってるわね」
ふう、と息を吐くリア。
……まあでも、想像の上にあるのはこの世界だってそうだ。
当たり前のように皆が魔法の力を使っていたり、武器を使って魔物と戦う姿は、俺には想像の上をいくものだ。
お互い、経験していないからそういう意見が出てくるんだろう。
「夜は基本的に暇だよな」
「そうね。魔道具で明かりは確保できるけど、暗いし……基本的には眠るだけね」
リアが言うとおり、大した娯楽もないんだよな。
俺はアイテムボックスから取り出したスマホを手に取った。
……相変わらず、圏外のままだ。充電などは、電池と電池式バッテリーを召喚してあるので問題ない。
いくつか、買い切りのゲームはダウンロードしてあるが、といってもやれることはそのくらいだ。
……今はあまりやる気が起きない。こっちに来てから、スマホはほとんど弄っていなかった。
「シドー様……それはなに?」
リアは気になったことがあるとすぐに訊ねてくる。
かなり、好奇心旺盛なんだろう。
「ああ、スマホって言って……遠くの人と連絡をとったりするのに使うんだ」
今は……それ以外の用途もかなり多いが、基本的な説明としては間違っていないだろう。
リアはとても興味深そうにしていたので、触れられるようにテーブルに置いてから、スマホの画面をスワイプしてみせる。
「少し触ってみるか?」
「いいの?」
「ああ、大丈夫だ。落とさないようにな」
リアは子どもの様に目を輝かせながら、スマホに触れる。
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