二.月のウサギ
ピーチら家族三人が玉手箱の煙に巻きこまれた時より、大きく時代はさかのぼり、日本がまだ〝戦国乱世〟の世の中だったころのこと、ここに一人の若者がいた。
若者はその名を川上大海といい、戦国の世に広く名をとどろかせた川上妖海を祖父に持つ、川上ピーチや桃太郎らの遠い祖先に当たる人物である。
その大海がウサギたちを乗せた船が空から落ちてくるのを目撃した翌日、ちょっとした出来事があった。
時は夜。――
月の光射す明るさのもと、大海は海岸近辺を歩き回っていた。ひょっとしたら、昨日のウサギのうちの何匹かが、まだうろついているかもしれない、と考えてのことだった。
果たして予想は的中した。海岸では昨日の船がふたたび海上に現れるのを待ち望むかのように、何匹かのウサギたちが辺りをうろうろしていたのである。
そして、そのうちの一匹のウサギは仲間のウサギを逃がすかのように、あえて大海に捕まったのだ。
月明かりに差し出してそのウサギをよく見れば、普通のウサギとは似て非なるものであることがわかった。
まず耳が異常に長く直立している。ついでに言えば、ウサギ自身、直立不動で立つことができる。そして前足は物が持てるほどに指先が発達し、瞳を見れば、その奥には知性の光が宿っていた。
「これは普通のウサギじゃないぞ」
ウサギは心なしか震えているようだ。怖がっているのかもしれない。
「おまえの仲間はどこに行ってしまったんだ」
その問いにもウサギは震えるのみである。どうやら言葉を話すことはできないらしい。
そこで大海はひとまずそのウサギを家に持ち帰り保護することにした。驚いたのは祖父・妖海であった。
「それが月のウサギか。なるほど、ただのウサギとはひと味もふた味も違った姿をしているなあ」
「かわいそうなことに、ほかのウサギたちからはぐれてしまったらしいんだ」
本当は大海が捕まえさえしなければ、このウサギは仲間のもとへ戻れたはず……しかし大海はウサギに対する興味から、そのように語ったのだった。飼ってみたかったのかもしれない。意外に動物好きな大海である。
「はぐれたか。すると迷子だな。どうだ、大海よ。うちで養ってやってはどうだ」
「ああ、もちろんそのつもりさ」
大海がこれに喜んだのは言うまでもない。ウサギを交えての暮らし……祖父と二人きりだった生活に一匹の仲間が加わることになり、ここに川上家のご先祖たちは月のウサギとともに多少なりともにぎやかに暮らしはじめたのだった。
当初、妖海と大海は月のウサギに人参を与えてみたが、意外なことに、ウサギは人参以外のもの……例えば、大根や菜っ葉はもとより、魚なども喜んで食べることがわかり、いよいよ月のウサギは並とは違うことがわかったのだった。
現代の言葉で言うのなら雑食性というところだろうか、特に、何やら餅団子をとても好んで食べることがわかったときには、大海も妖海も、
「やっぱりこいつは月のウサギだ」
と合点したものであった。
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