第6話 勇者達のグール討伐
「もうそろそろ、
「了解」
村を出る前にしっかりとグールの居場所を確認している時点で「僕たちが討伐します」って言っているようなものなのだがあくまでも通りすがりに勝手に倒すだけである。
ソウは剣の柄に手を掛けていつでも戦えるように身構えつつ進む。
「うーん、魔物らしき影はなさそうだけど……」
「待って! 何か声が聞こえない?」
「声?」
耳を澄ますと、楽しげな話し声が聞こえてくる。恐る恐るそちらへ向かうと、小さな子供達――五歳から十歳前後だろうか――が数人で木の実を採っているところだった。
「にいちゃん! とれた!?」
「もうちょっと……うわっ!」
木の上に登っていた少年が足を滑らせて落下する。
「危ないっ!」
咄嗟にカナンが風魔法である「
「にいちゃん!」
「あ……あれ? 一体何が?」
「おい、大丈夫か?」
周りの子供達もなんだなんだと少年の周りに集まる。ソウはそんな彼らの元へ歩み寄り優しく声をかけた。
「君たち、こんなところで危ないぞ」
少年たちは奇怪なものを見るような目で四人の余所者を見た。
……。
…………。
……………………。
「君たちはいつもあんな風に木に登っているのかい?」
「うん。だけど今日はたまたま失敗しちゃったけどね」
「お姉ちゃんが助けてくれたんだよね、ありがとう!」
「どういたしまして」
少年達を連れ立って彼らの集落へ案内してもらう。この付近に凶暴な魔物であるグールがあるのであれば、彼らもその家族も危険だからだ。
ほどなくして集落と呼ぶにも小規模な、小屋が四軒並んでいるだけの広場に到着した。
「父ちゃん! 母ちゃん! ただいま!」
「おう、おかえり……アンタ達は?」
「この人たちはいい人だよ。にいちゃんが木から落ちたところを助けてくれたんだ」
「ほう……?」
小屋から出てきた子供達の親の男は、ソウ達四人を見て目を細める。
「えっと、僕達は旅の冒険者です。この辺りに凶悪な魔物がいると聞いて来たんです」
「凶悪な魔物、ですか」
「はい。
「……なんと! あの
「どこかで見たりしましたか?」
「いやぁ、私たちも最近ここに流れてきたばかりでしてねぇ。しかし危険な魔物がいるというのなら、ここを離れた方が良いかも知れませんな」
「そうですね、小さなお子さんも居るので出来ればどこかの街に避難した方がいいかも知れません」
ソウの言葉に男は首を振った。
「私達はあちらこちらを転々として過ごしているんで、税金を払って街に住んだりは出来ないんですわ。まあ危険な魔物がいると言うのであれば、ここに長居する理由も無い。荷物をまとめて明日にでもまた移動することにします」
「そうですね。それが良いかと」
「ちなみに皆さんはどちらから来たのですか?」
「僕達はここから東に半日ほど進んだ村から来ました。その村の人達がこのあたりでグールを見たって教えてくれたんですよ」
「そうですか。村の方々にも感謝しないといけませんね」
男は村の方向を見る。
「僕たちでグールを討伐しようと思ったんですけど、それらしき魔物が見つからないので、どこかに隠れているのか、もしくは既にどこかに移動したのか……。いずれにせよ慎重に行動した方がいいとは思います」
「ええ、ええ。そうでしょうね。それではちょっと他の家の者達に注意を呼びかけてきます」
……。
…………。
………………。
「ふぅ、これであの人たちは大丈夫かな」
「そうね。あんな森の奥に少人数で住んでいて、魔物に襲われたらひとたまりもないものね」
集落を離れて引き続き周囲を警戒しながら進む一行。もしかしたらグールは夜行性なのかと思い、日が沈んでからも探索を続ける。
しかしながら魔獣は何度か襲ってきたけれど、結局グールと思しき魔物に出会うことは無かった。
「うーん、人を喰べるって言う意味では魔獣も大差ないんだけど、結局グールには出会わなかったな」
「何回か襲ってきた魔獣のなかにグールが居たってことは無いかな?」
「私達が倒したのは全部獣の姿をしていたから、それは無いと思うんだけど……」
「もう居なくなっているのか、または村の人が見間違えたか。少なくともこの付近はかなりしっかり探したけど居なかったって結論づけるしか無いな」
「まあ、恐ろしい魔物がいないならそれに越したことは無いか……」
ソウ、アキラ、カナンが話し合う様子を見て、エリカは一つの可能性が頭をよぎっていた。しかしそれを口にはしない。
だって、
◇ ◇ ◇
「父ちゃん、あの人たちは食べちゃだめだったんだよね?」
「ああ。あの人たちはいい人だったんだろう?」
「うん! やさしかったよ」
「じゃあ食べちゃダメだ。よく我慢できたな」
「えへへ」
深夜、集落の中でひとつの家に集まった
「あれは見逃して良かったのか?」
「子供を助けてくれたらしいからな。恩人まで襲ったら我々はそこらの魔獣と変わらん」
「
「そもそも彼らは喰人種が亜人族だと知らなかったのだろう」
「そんな馬鹿なことがありえるか?」
「だが話した限りではそうとしか思えなかった」
「では
「事実、そうなのだから仕方ない。それにあれは頭の足りなさからは考えられないほどのかなりの実力者だった。全員、ただならぬ魔力を持っているのを感じただろう?」
「ああ、だからこそ旨そうではあったが……」
「一人か二人ならまだしも、四人もいたら誰かしら犠牲になる。それよりも彼らに教えてもらった村に行った方が良いだろう」
「なるほど、自分達で討伐せずに流しの冒険者に頼るような村なら、リスクも少ないか……」
――異世界から来た勇者たちは「自動翻訳」のスキルで現地の人々と話をしている。だからこの世界に来てすぐに問題無く意思疎通ができた。
しかしこのスキルはある程度の意訳が入ってしまう欠点がある事を勇者達は知らなかった。
例えば現地の人が「人を喰らう恐ろしいヒトならざるモノ」と言った言葉が「人を喰べる恐ろしい
こうして、みすみす人喰いの亜人族を見逃してしまった勇者一行であるが、彼らにとってこれはこれで幸運であったかもしれない。
なぜならエリカがその可能性に気付きながらも口を開かなかったように、少人数で慎ましく暮らしいてる人たちを殺すなど、日本人としての倫理観を残す彼らにとっては耐え難い精神的な苦痛であるからだ。
逆に、このあと喰人種たちが村を襲い住民を喰らったとしても、情報伝達に乏しいこの世界で彼らがそれを知ることは無いだろう。
つまり、彼らの行いは「みすみすグールを見逃したばかりか、あの村に見つかっているぞと教える事でグールの襲撃を助長した」事になるものの、それを知らない勇者達は自分達に出来るだけのことはしたとすこぶる良い気分で王都への帰路についただけの話である。
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