第101話 おじい様とおばあ様にご報告
国王陛下に対して、苦々しい思いをさせられているおじい様とおばあ様を宥めながら、どう説明しようか悩んでしまう。
「国王陛下は関係ないですから、心配なさらないでください。そうじゃないんですよ。そうじゃなくってですね……」
これはちゃんと説明しないと誤解されてしまう。
「僕の婚約と結婚は、今の段階では決められないですし、発表もできないですよね?」
「……そうだな。アルベルトはまだ王族だ」
一応とか、まだとか、そんな言葉が付いてくるけれどね。
だから、今、婚約者を決めてしまうと、相手は王家との婚約と捉えられてしまう。それを避けるために、僕は成人するまで、婚約者を持つことも、結婚することもしない。
他家との衝突となりえるリスクは、なるべく減らすに限る。
「その先を見越して、おじい様が家門の一族に話をつけているのか。もしくはお付き合いがあって、お断りできないところから申し出が来ているか、それの確認をしておきたかったんです」
「本当に陛下から何か言われているわけではないのね?」
おばあ様、本当に国王陛下のこと信用してないなぁ。
「ないです」
僕の返事を聞いても、おばあ様は緑の瞳を僕に向ける。
「陛下は……、いえ王家は、これ以上フルフトバールであるマルコシアス家に、何かを強要することなどできないと、それはわかっているのよ。でも、現状わたくしたちにとって、アルベルトは王家に人質として取られているようなものなの。貴方がフルフトバールに戻ってくるまで、わたくしたちは気が気ではないのよ」
探るような視線にひやひやしたけど、何とか納得してくれたようだ。
おばあ様にそう思わせてしまうなんて、国王陛下は罪深いことをやらかしてるよなぁ。
「いや、本当に国王陛下は関係ないんですよ。ただ僕、もう十五歳じゃないですか。僕が王太子にならないって言うのは公表はされてないけれど、知ってる人は知ってる話でしょう? 特にマルコシアス家の家門や、フルフトバール侯爵家の寄子の貴族なんかには。そこから、僕が王籍を抜けたらって打診があるんじゃないかと思ったんです」
僕の説明に、おじい様は厳しい顔のままで、おばあ様はちょっと困ったような笑顔を見せる。
「全くないとは言わないわね」
「分家は家柄などで血をつなぐ一族ではないことを知っている。婚姻に関しての余計な口出しはしてこないが……」
この口調では何か言ってきてる寄子家がいるって感じかな?
「あの……、もし何か言ってきたら全部断ってください。理由は、今まで王家にいいように使われてきたから、婚姻相手ぐらいは本人に選ばせたいとか。やんわりとでいいです」
僕がそう言うと、おじい様とおばあ様が何かに気づいたのか、おや?って感じで、お互いの顔を見合わせて、再び僕を見る。
「それでいいのか? やんわりだと、しつこいやつは諦めんぞ?」
「そのようなことを仰るかたは、総じてはっきり言わなければ断られていないと、自分たちの都合のいいように解釈するのですよ? アルベルトの意見を聞いてほしいなどと仰って、まるでわたくしたちがアルベルトの意思を無視してるような物言いをしてくるのです」
それはわかる。隙あらばねじ込めるって考えなんだろう。
「いいですよ。そんなことを言ってくる人がいたら、話を通してください。言いだしてきた親と、もし見合い相手が乗り気だった場合は、まとめて僕がお断りをします」
僕が直で出てきたら、最終手段だと思わせるようにしてやろう。
それにしてもおじい様はシルトとランツェから、何も聞いていないのかな?
面と向かって言ってないけど、僕がイヴのこと好きなのは、あの二人は知ってるはずだ。てっきりとっくに報告してるもんだと思ってたのになぁ。
「あの……」
「なんだ?」
「どうしたの?」
「シルトとランツェから、報告受けてませんか?」
「アレらはお前のアッテンテータだ。アルベルトの命令しか聞かん」
え? そうなの? う~ん、何も言ってくれないからわからないんだけど、シルトとランツェがおじい様に僕のことを報告していないのはわかった。
ちょっと気恥ずかしいけど、僕が婚約者のことを言いだした理由、おじい様たちにはちゃんと話しておいた方が良いだろう。
イヴに好きだって告白した時とは違う種類の緊張をしながら、僕はおじいさまたちに告げる。
「あの……、えっと、その、好きな人ができました」
「あら」
声を漏らしたのはおばあ様で、おじい様は固まってしまった。
「相手は、一応、貴族のご令嬢です。生まれが複雑ではあるのですが、血を遡ると、貴族の血をひいています。あと、今は貴族籍にいて貴族教育も受けていますが、育ちは平民です」
「まぁ、そうなの。こちらからお話を通した方が良いのかしら?」
「それは、まだ」
「いいの?」
「はい、えーっと、今、一生懸命口説いてる真っ最中ですので」
「あらあら、そうなのね?」
おばあ様はなんだか楽しそうな声で訊き返してくる。
「受け入れて貰ったら、話を通してください」
「ずいぶんと暢気ねぇ? とられてしまうかもしれないけれど、そうしたらどうするの?」
言われると思ったー。基本的に貴族って、惚れた腫れたで結婚決めるわけじゃない。マルコシアス家は特殊だから、相手に関しては自由だけど、この人って決めたら早目に申し入れするからね。そこが貴族なんだよなぁ。
「その時は、その時です。相手が僕じゃない人を選ぶなら、それはもう、そういう巡り合わせだったと諦めます。でも、まだお断りされていないし、一度断られたとしても、僕自身が納得できてなければ諦める気はないです」
おばあ様はうんうんと頷きながら、僕の話に耳を傾けてくれるのだけど、おじい様は固まったままである。
そういえば、おじい様とはこの手の好きなタイプの話とか、そういったことはしたことなかったっけ?
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