第92話 先輩からのお手伝い
戻ってきたオティーリエは、僕に帰還の挨拶をするや否や、お昼休みに話を聞いてほしいと頼んできた。
昼休みはみんなと一緒にお昼をとってるから、みんなに聞かれてもいいのかと確認したらかまわないという返事をもらった。
本人がそれでいいと言うなら、僕に否はない。
それでお昼にオティーリエの話を聞くことにしたんだけど……。
「アルベルト様のお話をお受けしようと思います」
一瞬、何の話か分からなかったけど、たぶんソーニョを釣る餌になってくれると言う話だろう。
そしてオティーリエの発言を聞いていたイヴが、凄い目で睨んできた。
それはまるで、『われぇ、オティーリエ様にもコナかけてたんか。あぁん?!』と言わんばかりの視線だ。
やめてー!! 僕、女性に不誠実なことしてなーい!! あっちこっち節操なしに口説いたりしてないよぉ!!
オティーリエも誤解されちゃうような言い方しないでー!!
「ソーニョの件ね? ヴァッハと一緒に釣りに協力してくれるってことでいい?」
「はい。わたくしでよければお手伝いいたします。どうぞ何なりと仰ってください」
そう言ってオティーリエは頭を下げる。
どういった心境の変化? ってわけでもないか……。
一皮むけたなぁ……。
なんだかんだ言いながらも、オティーリエはやっぱり最後の最後まで、前世の価値観を捨てることができないと思ってた。
悪いことじゃないんだよ。
不殺を掲げて上手くやり抜く人だっているからね。前世の常識を捨てきれないのは、ある意味オティーリエの持ち味の一つだし。
だけど、オティーリエは気づいちゃったんだろうなぁ。
この世界はやっぱり前世とは違って、権力があるものによって物事が左右されてしまう世界なんだっていうことに。
前世だってそういうことは確かにあったよ? でもね、司法の力も強かった。お家騒動が起きて人が亡くなったら、身内のごたごたでは片付かなくって、白日の下にさらされて、法で罰せられる。
この世界もそういうところはあるけれど、それも家長が求めなければ、有耶無耶にされるところもあるのだ。
家門の問題。外様が口を挟むな。ってことだね。
貴族社会はとくにその傾向が強い。
これがさ、家門と家門の諍いであったなら、そんなわけにはいかないけどね。例外は家門の長同士で話が付いている場合のみだ。
オティーリエは前世の価値観が強くあったから、自分が鉈をふるう立場にいながら、それをすることに躊躇っていた。何度も何度も躊躇って、やんわりと方をつける方向にもっていこうとしていた。
今のオティーリエは、どうだろう?
「あぁ、そうでした。アルベルト様、もう一つ確認しておきたいことがあります」
「なにかな?」
「欲しければ金魚をお譲りしますが、どうしますか?」
一皮むけるどころか、化けちゃったかぁ。
「いらないよ」
「アルベルト様はご不要だと思っていますけれど、アルベルト様の執事と侍女はご入用ではありません?」
給仕をしてるシルトとランツェは涼しい顔で全く反応しない。些末なことに気を取られるよりも僕の世話をする方が重要って感じだな、こりゃぁ。
「うん、大丈夫。いらない」
「わかりました」
オティーリエはあっさりと引き下がる。
僕らの会話を聞いてテオは、うわ~と顔を歪ませ、クルトはそんなテオを見て苦笑いをする。
ネーベルとヒルトとヘッダは安定の平常心。ヘレーネ嬢は驚いたような顔でオティーリエを見ていた。
意味が分からないのはリュディガーとブルーメ嬢とイヴだけか。
ネーベル、後でリュディガーに教えてあげて。イジーの側近がこの手のことに鈍感なのは問題だ。ちゃんと理解しておいてもらわないとね。
もうそろそろ学園祭の準備にはいる。
今年僕ら三学年の領地経営科は、どこの領地がどんな特産品を取り扱っているかというレポート発表と、展示室の中央には粘土や石膏を使ってラーヴェ王国の模型……、いわゆるジオラマを作って展示することにした。
ヒルトたちの淑女科は各個人で決められたサイズのレースを編み上げ、それを一枚に繋げるそうだ。時間がある人は、個人でドイリーを作ったりするらしい。
ネーベルたち文官科は、なんと今回、屋台をやるそうだ。外の模擬店スペースで、腸詰焼きと飲料の販売をするそうだ。そういえばネーベル。ギュヴィッヒ領のシュヴェル主神殿で行われていた聖霊祭典の屋台の店主に声をかけてた。
あれって文官科は今年模擬店やるからだったんだぁ。
テオの騎士科は、お化け屋敷ではなく、ビックリハウスをやるそうだ。
いくら作り物とはいえ、お化け屋敷ではその手のことが苦手な人は来てくれない。そんなのは面白くない! とテオが言い出し、なら錯覚を使った不思議な部屋を作ろうと言うことにしたらしい。
テオは発想力が凄いよね。
学園祭が始まるひと月前になり、授業がなくなり学園祭の準備期間に入る。
そこに五年生の領地経営科の先輩たちが、僕らの手伝いにやってきた。
「こんにちは、アルベルト君」
「ルイーザ先輩? なんで?」
「あら、担任の先生から聞いてないのかしら? 五年生はね、後輩のお手伝いをするのよ」
詳しい話を聞いたところによると、最終学年の五年生は、基本的に学園祭の模擬店や出し物は免除という形になっているそうだ。
やりたいという生徒がいたら、個人または有志で参加することになっている。大抵の生徒は最後の学園祭を友人や恋人、または婚約者とのびのびと見て回りたいので、模擬店や出し物の参加はない。
その代わり準備期間中、個人参加をしない五年生は、三年生と四年生の後輩の手伝いを行うことになっている。
ルイーザ先輩たち五年生の領地経営科も、二・三人を抜かして、ほとんどが学園祭の出し物の参加はせず、準備期間は後輩の手伝いをするそうだ。
そのため、クラスの半分は三年生、もう半分は四年生の手伝いに別れた。ルイーザ先輩は三年生の手伝いに来てくれたのだ。
「最後ですもの。後輩との交流もやっておきたいじゃない?」
ルイーザ先輩は晴れやかな笑顔でそう言ってくれた。
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