第三章 九節
奇怪な鎧を身に着けた兵士達が、グランデルニア軍の前線に出て来る。
それを指揮するのは、道化の鎧を着た男だった。
「正直に助けを求める辺り、セロ将軍は立派な方だ」
大鎌を片手に、道化は笑う。
その横で跪いて、指示を待つ部下に指令を与える。
「今出て来た軍の女の方に当たる。若兵が湧く所には狂戦士部隊を当てろ」
「ハッ」
部下は短く返事をして、精神に異常をきたした狂戦士を連れだした。
それと同時、道化の将が奇怪な兵士を連れキュネが指揮する軍とぶつかる。
「ん!?アイツは」
「どうかしましたか、キュネ様」
此方に向かってくる敵の騎馬隊を見てキュネは驚きを隠せないでいた。
一年前、ロレインが葬った敵が生き返って目の前にいるのだ。
『どうしてかはこの際どうでもいい』と、キュネは無駄に考えるのをやめた。
生き返ったのならば、もう一度殺すまでの事。
「先頭にいる奴が、敵の将だ!!殺せ!!」
狂戦士ならば、老人であろうと子供であろうと関係なく殺すだろう。
その考えは間違ってはいない、それ以上に狂っている者がいなければ。
「ああ、楽しいな!!これが痛ぶるって事なんだな!!」
まだ子供の身、軽装な鎧の隙間から多くの傷跡を見せるその少女は只ならぬ気配を纏っていた。
『お腹の下がゾクゾクする』股下が湿る感触に浸りながら、自分に襲い掛かる敵を切り刻む。
敵の肉を切る度に興奮する。自身の顔が火照っているのが分かる。
この身は、あの苦難の日々でおかしくなってしまったのだろう。
「……!!」
「どうした!?先程までの勢いが見るからに落ちているぞ」
狂戦士が、少女を前に立ち止まる。
「リーゼ!!先行し過ぎだ、分断されるぞ」
少女が所属する軍の将軍ルートが、敵を蹴散らして来る。
それを見て、退屈そうにするリーゼ。
ルート将軍には、命を救われた事に加え騎士見習いとして推薦してくれた恩もある。
「はーい」
(良い所だったのになー)
だから余り逆らえないのだ。
「何だ、その何か言いたげな顔は?」
「何でもー」
「お前達若歩兵は、後ろに下がっていろ。もう充分だ」
「えー、まだ余り手柄挙げてませんよ。私」
「充分だと言ったはずだ。
本来ならお前の様な子供は、戦場には居てはいけないんだ」
ルートは、目を鋭く尖らせている。
どうやら何かに、ご立腹のようだ。
「りょーかいでーす」
リーゼは口を尖らせながら退がっていく。
(キュネ将軍の方が膠着状態だな……さて、どうするか)
戦場を見渡し、ルートがどう動くか迷っていた矢先。
本陣から別動隊が送られて来た。
「ゴホゴホ、ルート将軍……これを将軍にと」
別動隊を率いる将は、酷い悪臭を漂わせながら近づいて来た。
その臭いの元は別動隊が持ってきた、旗から来るものだ。
「何だ!?……それは……」
「は、はい……これは、その……」
説明に困る将。
問いかけたルートは、「見ればわかる」それを問いたださずにはいられなかったのだ。
人の顔の皮で出来たデスマスクの旗。
腸と眼球を縫い合わせて飾られた物が、ハエを集らせて掲げられている。
「!!」
それを見て、狂戦士達は戦うのをやめて後退していく。
狂っていても本能だろうか、狂戦士達は危険をいち早く察知して一人また一人と逃走した。
「死体処理班、仕事を終えた様です」
「御苦労、次に親衛隊を千連れて動く用意させろ」
別動隊を送り終え、アルフレッドは次の指示を部下に命じる。
「ハッ、将軍自らですか。一体何処へ?」
「キュネの方に出る。ロレインのやり残しだ」
そんな中、連合軍であるもう一つの白竜軍は何もしないまま、戦場より少し距離をとった場所で休んでいた。
「フォーグ様、本当に我々は加勢に行かなくてよろしいんですか?」
この状況に部下が、異を唱える。
白竜騎士団副団長の余り席を、消去法で座った実力不足の騎士だ。
名をテュールという。
「軍議で言っていたろ?聞いてなかったのか?」
ハンモックに背中を預けて、瞳を閉じているフォーグ。
完璧に寝ている。
「聞いていましたが、やはり無謀では?」
「……」
軍議で決まったことは、簡単に説明するとこうだ。
侵略に抵抗するグランデルニア軍を白冥軍だけで打ち破り、無傷の白竜軍がその後に進行。
軍を破られ弱ったグランデルニアを、白竜軍が素早く叩く算段だ。
しかし、グランデルニア軍は白冥軍の二倍以上の兵を持つ。
白竜軍を合わせてもその数には届かない。
誰もが無茶な作戦だと思う。白竜軍の兵士達も、納得いかない者が多数だ。
それでも、一番上の方がこの調子。
上の命令が絶対のこの社会、下の者は何であろうと現実を頷くしかないのだ。
奇怪な鎧兜がずらりと並んで襲い掛かって来る。全く同じ格好をした道化達、それは不気味で兵士達の恐怖を駆り立てる。
「ちっ……」
図形やら何やらが、描かれた鎧を見ていると、その多さから目がチカチカとおかしくなる。
キュネは舌打ちをしながら、目を強く押さえた。
「キュネ様、カナレルが討死!!キャフィーの所も危ういです!!」
部下が長槍で敵との距離を保ちながら、現状の報告をする。
キュネが目を開けて前にいる敵を睨みつける。道化の恰好をした大鎌使い、他と違って鎧が紺色に染まっているのが特徴だ。
「ボウガン放てぇ!!」
隊列を組んだ兵士達が、慣れた手つきでボウガンを打ち、下がって交代する。
しかし、間の開けぬ矢の雨にひるまず道化達は進んで来る。
「えっ!?」
乱戦状態だったキュネ達の戦場に、長槍を持った味方の兵が助けに来た。
六メートルという長大な槍をしならせ、敵を突き刺し、叩き、強引に前に出て来る。
「キュネ無事か?」
前に出て来たのは、あろうことか自軍の総大将のアルフレッドだった。
「アンタ、馬鹿じゃないの!?」
いつもの通りの反応を口にしてから、キュネは焦って口を両手で覆った。
現在はアルフレッドの方が上官、キュネも時と場合を考えるのだった。
(いつも強気のキュネ様が、可愛い)
隣でやる気になる兵士。
「大丈夫そうだな」
キュネが元気なのを確認して、アルフレッドは敵に視線を替える。
そこには道化の大鎌使い。
アルフレッドは続ける。
「久しいな、オーウェン。仮装の趣味があったなんて知らなかったぞ」
「「!?」」
アルフレッドの言葉に、近くにいたキュネと副官のフェリックスが反応する。
(オーウェンって、一年前私が切り殺した……)
(オーウェン様は、我が国を裏切り一年前……)
「ああ、アルフレッド。貴方にはまいってしまいますね。
本当はこのまま誰にも気づかれず、貴方達を殺そうと思っていたのに」
そう言って道化の大鎌使いは、被っていた兜を取って顔を見せた。
顔に酷い火傷を負っていたが、それはまさしくアルフレッドと幼い頃から共に育ったオーウェンだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本日もう一話、連続投稿します。(10時頃予定)
良かったらよろしくお願いします。
ブックマーク登録、イイネ、感想お待ちしております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます