第7話 ジェレミーの最大の秘密

 私は素早くジェレミーの腰に差していた短刀を引き抜くと、茂みの中に放り込んでやった。


ガサッと音を立てて、茂みの中に吸い込まれる短刀。

その途端にジェレミーは青ざめた。


「あっ! け、剣が!! 剣が無い!! ヒィッ!!」


情けない声を上げ、て頭を抱えた彼はガタガタ震えはじめた。


「ど、どうしたのですか!? ジェレミー様っ!!」


ミランダが慌てて声をかけるも、ジェレミーの耳には届かない。


「こ、怖い……剣が無いと……お、俺は……俺は駄目なんだ……」


震えながら、うわ言のように繰り返しているジェレミーの目の焦点は合っていない。


「一体どうなさったのですか!? しっかりなさって下さい!」


ミランダがジェレミーの肩に手を触れた時。


「やめろっ! 俺に触るなっ!!」


ジェレミーが叫び、ミランダを激しく突き飛ばした。


「あっ!」


近衛騎士として訓練を受けてきたジェレミーに、か弱い貴族令嬢が突き飛ばされたのだ。勿論、ただで済むはずはない。

彼女の身体は宙を舞い、ドスンと大きな音を立ててミランダは地面に叩きつけられた。


「キャアッ!!」


地面に叩きつけられたミランダは悲鳴を上げ、ついでに泣き声を上げる。


「痛い……痛いわっ!! ひ、酷い! ジェレミー様っ!! 一体何をなさるのよ!!」


ミランダは足首を押さえたままうずくまって涙を流しながら訴える。

見ると、足首が腫れ上がっている。

もしかすると地面に叩きつけられたはずみで骨折したのかもしれない。


「う、うるさい!! お前がいきなり丸腰の俺に触るからじゃないかっ!! 俺は少しも悪く無いっ!! そんなことよりもヴァネッサ! 剣を返してくれよ!! 剣がないと俺がどうなるか……分かっているだろう!? 頼むから……!」


ついにジェレミーは頭を抱えたまま、うずくまってしまった。


「あらあら? いいざまね? ジェレミー。頼りの剣が無くなって、そんなに心細いかしら?」


私は腕組みすると、無様にうずくまるジェレミーと……ついでに倒れ込んでいるミランダに視線を移す。


「ヴァ、ヴァネッサ様! 一体これはどういうことですの!?」


痛みにより、涙を流して訴えるミランダの顔は化粧が取れて散々な有り様になっている。


「あら? ジェレミーと結婚を誓いあった恋人でありながら、ミランダ様は彼の秘密を何も御存知無かったのですか? 」


嫌味をたっぷり込めてミランダを見つめる。尤も、彼の秘密は両親すら知らない。私だけが知っているのだから。


「ひ、秘密って……一体何なのです!?」


「ほら、御覧下さい。ジェレミーの様子を」


私は顎でジェレミーを顎で指した。

そこには大きな体を抱えてガタガタ震えるジェレミーが訴えてきた。


「うう……暗い……怖い……ヴァネッサッ!! 俺の剣を返してくれ! 頼む!」


「剣ならさっき、そこの茂みに放り投げたわ。欲しければ自分で取りに行ったらどう?」


「何言ってるんだ!! こんな真っ暗な場所で……茂みの中に入って剣を探せるはず無いだろう!? ヴァネッサ!! た、頼むから剣を返してくれ!!」


「図々しいわね? 私に婚約解消をお願いしておきながら、まだお願いするつもりなの? でも、冗談じゃないわ。お断りよ」


「そんなこと言わないでくれよ! ヴァネッサ!」


もはや、ジェレミーは嗚咽しながら私に訴えてくる。その様子を唖然とした様子で見つめるミランダ。


「い……一体、これは……?」


「その様子では、やはりミランダ様は何もご存じなかったのですね?  ジェレミーの最大の秘密と弱点を」


「さ、最大の秘密……弱点……?」


「ええ、そうです。ジェレミーは片時でも剣を自分の手に届く範囲に置いていないと、このように我を無くしてしまうのですよ。この症状は自分の手元に剣が届くまで続きます」


「て、手元に剣が届くまでって……」


「それでは、もう夜も更けてきたので私はこれで失礼いたしますね」


一礼すると、踵を返す。

すると背後で悲痛な二人の叫び声が聞こてきた。


「待ってくれ!! ヴァネッサ!! 俺の剣を返してくれよ!! 頼むから!!」


「行かないで下さい!! ヴァネッサ様! 足が……足が痛くて歩けないのです! 誰か人を呼んできて下さい!」


全く、何て勝手な二人なのだろう。私を散々蔑ろにしておきながら、図々しくも助けを呼ぶなんて。

ため息をつき、肩を竦めると二人を振り返った。


「ここはミランダ様のお屋敷のお庭なのですよね? それだけ大声で叫び続けていれば、今に誰か駆けつけてくるのではありませんか? 私は明日も仕事なので、早く帰らなければなりません。それでは御機嫌よう」


暗闇の中でとびきりの笑顔を見せると、足取り軽くその場を後にした。


ヴァネッサとジェレミーの助けを呼ぶ声を聞きながら――




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