第60話
「え、えっと…。アクティス様?そ、それは何かのご冗談ですよね…?」
アクティスから第一王子としての最初の仕事を告げられたカサルは、非常に動揺した様子でそう言葉を発した。
「冗談?」
「だっておかしいじゃないですか…!私は貴族の方々の期待を背負い、アクティス様の期待を背負い、第二王子としての座に就くことを決めたのです!それなのに最初にやるべきことがノーティス様のしりぬぐいだなんて、おかしいではありませんか!」
「お前が自分からやるといったんじゃないか。そもそもノーティスの暴走を止めなかったのはお前の方だろう?お前の娘であるエリッサはノーティスの事を止めようとしていたそうだが、お前はその時何をしていたんだ?何もしていなかったんじゃないのか?」
「そ、それは…」
「いや、何もしていないどころか、全ての罪をエリッサに擦り付けて自分だけ王宮の中で成り上がろうなどと考えていたのではないか?」
「ア、アクティス様、それでエリッサの事を…」
カサルはアクティスの後ろに控えるエリッサの事を一目見た後、そのまま続けてアクティスにこう言葉を発した。
「あぁ、なるほどわかりましたよアクティス様!これは我々へのサプライズですね?この場にエリッサを呼び出し、姿なきノーティス様の罪を代わりに償えと宣告して、私を驚かせて楽しもうとされていたのでしょう??そういうことなのでしょう??エリッサの事を婚約者にするとおっしゃられたことも、王宮破壊の全責任を私に当てられるとおっしゃられたのも、全ては私を驚かせるためにアクティス様がお考えになられた作り話だったのでしょう??」
そう言葉を発するカサルの表情は、どこか笑みを浮かべているようにも見て取れた。
それほどにアクティスの言った言葉が現実のものだと理解したくなかったのだろう。
しかしその一方で、アクティスは全く冗談気のない非常にまじめな表情を浮かべていた。
「なにか分かっていないようだな…。俺がわざわざこんなところでお前に冗談を言うと思うのか?」
「…え?」
「すべては事実だ。俺はここにいるエリッサを我が妃として迎え入れることを決めた。そのうえでお前にはノーティスの犯した罪を第二王子として償ってもらう。そこに間違いなどない」
「…!?」
アクティスがはっきりとした口調でそう告げた瞬間、それまでカサルの横でじっと大人しくしていたユリアが突然に口を開き、泣きつくような口調でこう言葉を発した。
「アクティス様!!カサル第二王子がすべての責任を取られるというのなら、私は関係ありませんよね??ノーティス様の暴走に異議を唱えなかったことも、エリッサを一方的に冷遇したことも、すべてはこの人が勝手にやったことなわけですから、私はなんの罪を追うこともないのですよね??」
「ユ、ユリア…な、何を言って…」
「あなたは黙ってて!そうですよねアクティス様??」
夫であるカサルがアクティスから切り捨てられたことが分かった途端、手のひらを返したように態度を一変させるユリア。
そんな彼女の様子がカサルは信じられないようで、彼はただただ自身の体を硬直させ、アクティスからの反応を待つほかなかった。
しかしアクティスはユリアの抱いた期待感とは裏腹に、一方的な口調でこう言葉を告げた。
「お前は今日カサルと一緒に挨拶に来ると言ったじゃないか。第二王子夫人となった事を心から嬉しく思います、とも。これから何があろうとも、ずっとずっとカサルの隣にいます、とも言っていたな」
「そ、それは違うのです!私は一方的に裏切られた身で…!」
「そもそも、お前だって一緒になってエリッサの事を虐げていたではないか。そこに罪がなかったとはとても思えないが?」
「…!?」
淡々と言葉を発していくアクティス。
その言葉を聞いたユリアは、どうしてその事を…とでも言いたげな表情を浮かべており、アクティスの言葉の内容を否定することができないでいる様子だった。
ゆえにカサルとユリアはそろって絶望的ともいえる表情を浮かべていたものの、それを見たアクティスは楽観的な口調で二人に対してこう言葉を放った。
「なんだ?なにをそんな暗い顔を浮かべる必要がある?カサル、お前は念願だった第二王子の座を手にすることができたんだろう?それはお前に能力があるからこそなんだろう?ならばその能力をここでいかんなく発揮し、第二王宮再興のために手を尽くせばいいじゃないか。ユリア、お前も念願だった王子夫人になることができたんだろう?ならこれまで以上にカサルの事をサポートし、ともに頑張ればいいじゃないか」
どこかわざとらしい口調でそう言葉を発するアクティス。
そう、当然彼とて今の二人の状況が非常に苦しいものであることは理解しており、これまでエリッサを冷遇し続けてきた二人の事をあえて突き落とすような態度をとっているのだった。
「カサル、さっきも言ったがまずは王宮を元に戻すことからだ。聖獣レグルスは力を貸してくれなさそうだから、お前が自分の力でやるしかないな。まぁ期待している、がんばれ」
「そ、そんな……」
「ユリア、お前もカサルのためにがんばれ。エリッサがいらない存在だと言ったのはお前の方なのだろう?なら当然エリッサなしでもやり遂げられるよな?」
「……」
「話はこれで以上だ。さっさと王宮に戻って仕事についてくれ」
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