第14話
「…こ、これって招待状…?」
レグルスが作ってくれたお屋敷には、彼のこだわりなのか可愛らしいポストも一緒に作られていた。
もちろん私なんかに何かを送ってくるような人がいるはずがないから、中を見たって何も入っているはずなんてないのだけれど、そのかわいいポストを見に行きたい私は、毎朝のようにポストの中をチェックしに行くのが日課になっていた。
…そんな私に突然に届けられた、一通の手紙。
きらびやかなデザインに上品な雰囲気、なによりそれが王から発せられた証である印もある。
私はその手紙に、見覚えがあった。
それは、私のもとに届けられるたびにお姉様に嫌な顔をされたもの。
こいつもいっしょに連れて行かなければならないのかと、何度も何度も言われたもの。
ノーティス様の機嫌を損ねたくないからと、お父様からもその存在を煙たがられていたもの。
それが今、再び私のもとに届けられた。
「(…ノーティス様が私に、いったい何の用だろう…?)」
手紙を見ていぶかしげな表情を浮かべる私の事を心配してくれたのか、レグルスがそそくさと私の横まで来てくれる。
彼はそのまま手紙から放たれる雰囲気を感じ取ると、途端にその表情を敵対的なものを見る目で染めた。
「だ、大丈夫だよレグルス!た、たぶん私への嫌がらせの手紙で、大したことは書いてないと思うから…」
第二王子ともなれば、私がここにいることを調べ上げることくらい造作もないことだろう。
さらに彼がいまだ私の事を忌み嫌っているのなら、こういう手紙を送りつけてくることにも納得がいく。
「(…で、でも読まないわけにもいかないよね…)」
何が書いてあるかなんてうすうす察することはできるけれど、一応は第二王子様から私に向けて差し出された手紙…。
私はおそるおそるその封を開封すると、中に入っていた一通の紙の内容に視線を移した。
――――
『突然の連絡になってしまって本当に申し訳ない。君は元気にやっているだろうか?…恥ずかしい話、私はといえば、どこか心の中に穴が開いてしまったような思いを感じている。というのも、君を失ってはじめて分かった。私にとって君の存在は、なくてはならないものだったのだ。君も本心では、同じことを思っているだろう?この私の前から消えるという選択は、君にとって非常につらい選択だったはずだ。だからこそ、どうだろう?本当は心を惹かれあうもの同士、今こそ互いに自分の思いに正直になってみては?私はもう君の思いを受け入れる準備ができている。後は君が正直に行動するだけだ。実は君のために、いろいろなものを集めて食事会を開こうかと思っている。君にはぜひ参加してもらい、心行くまで楽しんでもらいたい。この手紙を招待状の代わりとし、来てくれることを楽しみにしている。あぁそれと、最近君には愛らしい友人ができたそうじゃないか。ぜひその子も一緒に来てもらいたい。…君が来なければ、子どもたちは悲しむだろうな。あんな愛らしい子らを泣かせるものではないぞ?ではまた。』
――――
ノーティス様から届けられた手紙に目を通した私は、率直にこう思った。
「(……なにこれ?)」
一度読んでも意味が分からず、何度かその内容を読み返してみる。
…けれど、何度読み返してみても全く言われていることが理解できない…。
「(お、お互いに正直に…?わ、私の心が実はノーティス様に惹かれている…?お、お互いに素直に思いを受け入れあう…??)」
妄想に取りつかれた怖い人のような言葉が羅列され、私は惹かれるどころかむしろ怖ささえ感じた。
…レグルスがこの手紙を見てその身を震わせていたのは、そういう事だったのだろうか…?
「(…で、でもどうしよう…。絶対なにか裏がありそうだけど、子どもたちの事を思うと断るわけにも…)」
手紙の最後に書かれている子どもたちの事だけが、私には気がかりだった。
…もし私がこの誘いに応じず、ノーティス様の機嫌を損ねたりしたら、それこそ子どもたちが今以上にひどい扱いを受けるのではないか、と…。
「(…行きたくはないけど、仕方ないかぁ…)」
私はそのまま部屋の中に戻り、返信用の手紙を書き始めたのだった。
――――
「…よし!!!計画通り食いついてきた!!」
エリッサからの返事を受け取り、ノーティスは高ぶる思いを隠せずにいた。
「向こうは何と言ってきたのですか?」
「見てみろシュルツ!」
ノーティスはそばに控えるシュルツに対し、エリッサからもたらされた返信を手渡した。
「やはりエリッサはその内心では、私の事を好いていたのだよ!これまでそんなそぶりを見せずに隠しておきながら、やはりあいつもただの女だったというわけだな♪」
「当然ですよ。ノーティス様を前にして、心惹かれぬ女性などいるはずがありませんから」
真顔でそう言い放つシュルツの声を聞き、ノーティスは一段と上機嫌になり、その声を上ずらせる。
ノーティスはその後も得意げに言葉を続けたが、シュルツにがそれを集中して聞いている様子はなかった。
「(…幻の聖獣と、聖獣を操る少女ですか…。これは面白そうですね…♪)」
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