異世界食べ歩き配信〜俺だけ異世界に行けるので食べ歩き配信しようと思います!

小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!

プロローグ:異世界への扉が開いた件



 週4の居酒屋アルバイトとファンが1人しかいない配信を続けている串野くしのトオルは築45年のボロアパートの101号室で過ごしていた。年季の入った布団の上、寝転がって今日も今日とて時間を無駄にしている。


「このままだとまた電気……止められるな。Love沼さんにおねだりするか」


 Love沼さんというのは、トオルの配信に唯一連日参加をしているリスナーである。彼女(おそらく)はおねだりをすると月に数万円であれば投げ銭をしてくれるのでトオルにとって頼みの綱であった。


「雑談配信するか……あでっ!?」


 突然、右腕の痛みに襲われたトオルは身を捩った拍子に押し入れの引き戸を突き破ってしまう。


「さらに痛え?!」


 手のひらに感じる強い痛み、そして感覚はなぜか冷たくて風が流れている。トオルは押し入れに違和感を感じて痛みを我慢しつつ引き戸を一気に開いた。


「あんだ? これ」


 そこには紫色のおかしな空間が広がっていた。空間、というかSF映画で出てくるようなワープ空間みたいなアレ。

 トオルは突然引いた痛みに気がつかないまま、それに手を伸ばした。ぐいっと引っ張られる感覚に襲われ彼は一気にそのワープ空間に吸い込まれてしまったのだった。


「いてぇ! 今日は痛すぎるだろ!」


 ゴトン、と頭から落ちたトオルが目を開くとそこは先ほどまで過ごしていたアパートの自室ではなく、ボロい藁のベッドだけある小さな小屋のような場所だった。


 トオルは「これが異世界転移ってやつ?」と期待しつつ立ち上がり、窓の外を眺める。


「すげぇ!」


 窓の外に広がっていたのはいわゆる「ファンタジー」な景色だった。道を行き交う生き物は人間だけではなく顔だけ猫の亜人や耳の尖った人間ぽい生き物、小人やオーガ族と言われるようなイカつくてでかい生き物。

 馬車を引いているのは馬だったり、馬みたいなモンスターみたいな生き物だったり。


「けど、前の世界に帰れなくなったり怖い思いをするのは嫌だよなぁ。けどこういう異世界に来た人間はそういう目に会うのがデフォじゃね……?」


 異世界転移という事実に驚きつつも恐怖を感じたトオルは振り返った。自分がさっき落ちてきたであろう方をだ。


「あ……」


 振り返るとそこには洋風のクローゼットがあり、その中には先ほど自宅の押し入れで見たような例のワープ空間が広がっていた。


「これ、ワンチャン帰れるんじゃね?」


 もう一度、トオルは手を伸ばす。引っ張られる変な感覚に「うひょぉ」と声を上げながらワープする。

 そして、今度は見慣れた部屋に転がったのだった。幸い、押し入れの前には布団が敷いてあったので頭こそぶつけなかったものの、前のめりに滑ったので手のひらに擦り傷ができてしまった。


「ワンチャン、帰れたわってことはよ? 俺のやることは一つっしょ!」


 バイト代をコツコツ貯めて購入した小型持ち歩きカメラとマイクを引っ張り出し、くたくたになったリュックを背負う。最後にかるーく身なりを整えてもう一度押し入れのワープ空間へと向かう。


「異世界で動画撮影じゃ!」


 これは、うだつの上がらない底辺配信者の俺が、異世界と現代を行き来して世界最強の配信者になって幸せになるまでの物語である。



***あとがき***


お読みいただきありがとうございます!


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