第16話 お前がここに居たのは…!


 

 

 俺が「一緒に帰ろう」とローレンスに言った瞬間、彼女の表情は曇った。まるで全てを諦めてるのかのように答えた。


「…すまぬ、それは無理なのだ」


するとローレンスは俺の魔法、空間移動ディメンションゲートを模倣して発動させてみせた。流石は12種類の魔法を操る魔女だ


ローレンスが通ろうとすると、魔法は何かに弾かれたように、霧となって消えていく。


「我も考えたのだ。さっきお主に見せてもらった魔法を早速試してみたが…駄目だったらしい」


(…なるほど、なんでローレンスが今までここから出ることが出来なかったのは「これ」が原因か…)


俺も少し疑問に思っていた。さっきの空間移動ディメンションゲートぐらい、ローレンスなら創るのは造作のないはずだ。


だが、ゲートに通ろうとするたびに魔法が何かに干渉してその結果、霧となってしまうんだ。


そしてその魔素はどこに行ったかというと…


「おっ今回は玉座が出現したのだ。これでアクセルとお揃いなのだ」


…このように、何かに具現化するらしい。

ということはだ。今まで見てきた化け物、騎士、森、城……これは今までローレンスが試行錯誤してここから出ようとした軌跡ということだ。


……ローレンス、お前はどこまで………



「なぁアクセル」


ローレンスが力なく俺に声を掛ける。その表情は笑ってるが、目に光がない。もう逃がさない、奪われてたまるか……そんな思いが伝わってくる。


「ここなら何もかも思い通りにできるぞ?たとえ出れなくてもよいではないか?……アクセルと出逢うまでは……正直何もかもが嫌になったのだ」


それは今まで過ごしたローレンスのの苦労や苦痛といった「痛み」だ。


俺はそれを理解することは出来ない。

もしここでそれを言ってしまえば、俺はローレンスのことを否定してしまう気がするからだ。


俺はそのまま黙ってローレンスの話を聞く。


「辛かったのだ……どうして我がこんな目に合わなければならない?我はただ民のために頑張りたかっただけなのだ。それを魔女だの呪いだの……好き勝手に言われ、その挙げ句にこのような所で閉じ込められる……なぁ?我って生きてて良かったのか?どうして人のために頑張ってきた我がそやつらに責められるんだ?……奪ったのは、あいつらなのに……あいつらなのに……!!」


「……」


「……そんなことをここで考えてたのだ。それをずっと…独りでずっとだ。独りとは寂しいものだぞ?お陰で何度死にたいと思ったか、でもここだとそれすら出来ない。

ここでは我が死んでも生き返るらしいしな。

……我は、何もしてないのに、地獄の方がマシだと思わされてる所に何百年、何千年過ごしてきた……でも」


すると俺の方に向いて少しだけ、表情が明るくなる。ただいかんせん、目に光が見えないがな。そして再び話始める。


「でも…やっと許してくれたのかと思ったのだ……お主と出逢ったからだ、アクセル」


「お主は混沌の魔女の我を恐れずにしてくれた。最初は少し距離が空いてるような話し方だったが、我のお願いを聞いてくれて対等に話してくれた……我のことを『混沌の魔女』としてではなく、『ローレンス』として見てくれたのはお主が初めてだったのだ」


「そんなお主とずっと一緒にいれば、案外ここで暮らしても悪くないとも思えたのだ……だから、だから!」


再びローレンスが俺に力強く抱きしめてくる。


「か、帰るなどと……そんなこと言わないでくれぇ……ぉ、お主がいないと我は!!我はもぅ…何もかも壊れてしまいそうなのだ…ふ、不満な所があれば治すから!ここらにいる奴らも全部滅ぼすから!わ、我と一緒に暮らそ?……もう……もぅ我から何もかも奪わないでくれ………」


「…ローレンス」


ビクッと肩が震えるのが見える。子供みたいに怖がっているのが伝わってくる。また奪われるのか、と


何もかもを奪われた少女はまた何かを失うのか?また誰かに裏切られるのか?……………


………そんなこと絶対にさせない。そのために俺はここに来たんだから。





「俺はここから出るつもりだ。どんなに言われてもな」


「………あ、あは。や、やっぱりか、そうやってお主も我をうらg「話は最後まで聞け」……え?」


俺は今にも暴走してしまうかもしれないローレンスの言葉を遮る。


当たり前だ。俺が伝えたいのはこんなことじゃないからだ


俺は再び口を動かす。


「確かにここから出る。だが、俺一人じゃない。


「で、でも…先ほど見せたが我はここから出ることは「出させる」……あ、アクセル?」


またもや俺は彼女の言葉を遮る。


何度も言うが、最後まで聞いて欲しい。


それに分かった。お前がなんでここにいるのか———



「…お前は臆病者だ」


「わ、我が?何言って…」


ローレンスが何かを言ってるようだが、俺は止まらずそのまま話し続ける。


「本当は薄々気づいてるんじゃないか?お前が本気を出せばここから出ることなど難しくないことに」


「そ、そんなこと…」


「自覚してないだけだろ」


「ッ!」


「だったらなんでお前は禁句の魔導書の中を破壊したりしない?お前ほどの実力ならここを破壊するのは難しくない、こんな地獄のような場所を。ただそれは何故か?……結局怖いだけだろ?」


「お前が外に出ることを、人々にまた恐れられることを……また裏切られるかもしれないまた奪われるかもしれない……そんな思いがあるからここから何もしない『臆病者』なんだよ」


「ッ!お、お主に何が分かる!!!」


すると、ローレンスが言葉を荒げる。隠された本音を曝け出すように彼女は俺にぶつける。


「お主は何も失ってないから、奪われてないからそんなこと言えるのだ!ここにいれば確かに辛いかもしれん!でももう何も失わなくて済む!…臆病者で何が悪い!?我はもう失いたくないのだ、奪われたくないのだ!!

ここから出ればまた……また独りになってしまう……そんなの嫌なのだ」


彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃになりながら、俺に声を荒げた。


その目には、苦悩と怒りが交錯し、声には悲痛な抗議が籠もっていた


ただ少し間違ってるところがあるので、俺は即座に訂正する。


「独りじゃない、俺がいる」


「ッ!…そ、そんなの信じれるわけなかろう?お主も裏切るに決まってる!平気で!我のことなどどうでもいい癖に!!」


「……俺だって全部奪われたさ」


「……え?」


「最初は幸せだったさ、ずっとこんな日常が続くんだろうなって思った。でもある事がきっかけでまるで崩れていくように、俺の大切なものが消えていった……その時思ったんだ。なんで俺が奪われなきゃいけないんだってな。」


正直今話してる事は俺のことなのか、それともアクセルのことなのかは分からない。


でも伝えないといけないと思った。何故かは分からないがな。


「だから、お前の裏切られたって気持ちだけは痛いほど分かるさ。……それを含めて言ってやる。俺はお前を裏切らないし、独りになんかにさせない。」



「信じなくたっていい、そう思われても構わない……でもどんなにお前に信じてもらえなくたって俺は何度でも手を差し伸ばす、お前が手を握ってくれるまでな」



「……ど、どうしてそこまで我のことを?わ、我は混沌の魔女なんだぞ?世界が恐れる『関係ないな』…存在、な、のに……」



どんな存在だって関係ない。


ただ俺が救いたいと思ったから俺は救う。


例えどんなに敵が多くても、たとえどんなに欠陥品な奴でも、たとえ……それが混沌の魔女と呼ばれた少女であっても俺は——————




「たとえ世界を敵に回しても、俺はお前を守り続ける」


「!!……あ…アクセルゥ…」


俺は今にも泣きそうな少女に手を差し伸べる


「お前は…待ってたんじゃないのか?自分の事をほんとに信じてくれる人を、だからここを破壊しないでずっと……ずっと」


この少女はずっと待っていたのだ


もしかしたら自分を信じてくれる馬鹿がいるかもしれない。


そんな淡い期待を持っていたから彼女は壊れなかった。信じて待ち続けたのだ。


それでもローレンスは躊躇する。

まだ怖いという感情があるのだろう。

ただ俺はお前を救うと決めたんだ……

だから。


「ローレンス!!」


「!は、はい…」

彼女らしくない弱々しい声が聞こえてくる


「お前は本当はどうしたいんだ!このままずっとここに居たいのか?このままずっと何もせずに諦めるのか?……違うだろ!!」


「わ、我は……我は」


長い沈黙がこの空間を支配する。

ただ彼女は一生懸命考えてるのだ。

ここで俺が諦めたらもう彼女のことを救えないかもしれない。

だから待ち続けるどんなに時間が経っても………







…………そして


「…………わ、我は……我はアクセルと一緒にここを出たい!!!」

ついに彼女の本音が聞けた。


そんな彼女は止まらない、止めることが出来なくなる。


「我、ほんとは凄く怖い…でも…ここでずっと独りになるのはもっと怖い!!もっと世界を見てまわりたい。美味しいものを食べたい!あの世界で暮らしたい!どんなに辛くて険しい道でも我は……アクセルと一緒にいたい!!!」


…やっと本音が言えたな、素直にそう思った。そんな彼女の思いを無駄にしないためにも俺はもう一度ローレンスに声をかける。


「なら握れ、お前がそれを望むなら今はそれだけでいい」


俺がそう言うと彼女は涙を流しながら、満面の笑みで俺の手を握ろうとして——————







「あ、あ゛ぁ゛…」


直前彼女が何か苦しさに悶えてるように身体を抱きしめ倒れ込んだ。


「お、おいローレンス?どうした?」

彼女に反応がない。俺は嫌な予感を察知し、

もう一度ローレンスに声をかける。


「おい!ローレンス!しっかりしろ!!」


そう声をかけた直後————————



















「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


彼女からおぞましい叫び声と黒い何かが彼女を覆った。


「…おいおい、嘘だろ…」


そう吐いてしまうのも無理はない。


俺の目の前には主人公アレス達と戦った

ローレンスの姿があったのだから。




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