第21話 鼓動


「できた!」

「これで、完成だね!」

「やった~!」

 実行委員のメンバーが、口々に声を上げる。

 曲にあわせて、応募された詞をまとめて、やっと、琉生たちのクラスのオリジナル曲が完成した。


「いいねいいね」

「なんかすっごいワクワクする」

「ね。もう1回通して、歌ってみようよ」

「うん。そうしよう」

 

 琉生がキーボードに向かう。

 琉生がつけた前奏が流れ始め、実行委員のメンバーは、目を輝かせる。


 歌詞には、応募した全員の言葉が上手く盛り込まれ、それがちゃんと一つの歌としての流れ、というかテーマにそったものになっている。

 恋も夢も、苦い思いも、熱い想いも、みんなの思いが詰め込まれた、その歌詞は、はっきりと応援ソングらしい言葉は入っていないのに、口ずさむと元気が湧いてくるような、そっと背中を押してもらったような、そんな気持ちになるものだった。


「よし。これで、みんなに聴いてもらえるね」

 歌い終わって委員長の佐藤が言って、琉生たちメンバーはうなずいた。

「1時間目始まる前に、聴いてもらう時間あるかな?」

「朝のホームルームの時間に、ちょっとだけ時間くださいってお願いしよう」

 吉田と菊田が言った。

「よし。じゃあ、急いで教室に戻ろう」

 実行委員は、校内の空き教室や特別教室を、曲作りのときに使わせてもらっていた。毎朝とお昼休み、連日、そこにこもっていた日々も、ようやくこれで終わりだ。琉生たちは、教室にキーボードを運び込む。


「すげ~!!」

「すっごく、いい~!」

「めっちゃ、素敵~」

「最高~!!」

 歌い終わってしばらくの間、拍手と歓声が鳴り止まないくらい、クラス中が興奮していた。担任はずっと夢中で拍手をしている。

 

 何事か、と隣のクラスの担任が覗きに来たくらいだ。

「すぐに覚えて歌いたい」

「歌詞のプリントがほしい」

 そんな声がでて、担任の先生が、できあがった歌詞を、すぐに印刷してくれることになった。


 実行委員のメンバーは、嬉しさを隠しきれない。いつも穏やかな佐藤も、吉田、菊田の2人も頬がピンク色に染まって、目がキラキラしている。

 みんな喜んでくれるだろう。そうは思っていたけれど、みんなの反応は想像以上だった。嬉しい。

 琉生も、嬉しくてたまらない。


 正直、その日一日、琉生の頭の中には、オリジナル曲が鳴り響き、歌詞がずっとぐるぐる駆け巡っていて、何の授業を受けたのか、あまり記憶にない。


 その曲は、『明日あしたへ』というタイトルに決まった。これは、琉生が提案した。


 嬉しいことも悲しいことも、悔しいことも不安なことも、誰だっていろいろある日々。

 むしろ受験生として、心配や不安や焦りも多い毎日。

 情けない自分に落ち込む日だってある。誰かを傷つけて後悔する日だってある。

 でも、簡単に変わることなんてできない自分。堂々巡りの日々。

 けれど、そんな自分をダメだと思いこまなくていい。

 変わりたいと思う自分がいれば。変わろうとする自分がいれば。

 それはきっと明日へつながっていく。

 

 歌詞の内容はそんな感じだ。

 友情とか、仲間、という言葉は歌詞には出てこないけれど、そばにいる誰かを大切にしたくなる、そんな思いのこもった歌になった。


 

 その晩、琉生は、ボイストレーニングの先生のところで、先生と想太に、その歌を歌ってみせた。

「めっちゃ。ええなあ……」

 想太はため息をつきながら、さっそく、サビのフレーズを口ずさんでいる。

「自分たちで作ったなんて信じられない。中学生恐るべし、だね」

 先生は驚きながらも、

「とっても響く歌だね。この歌、僕が歌いたいくらいだ」

 そう言い、想太も、横でぶんぶん首を縦に振っている。


「よかった……。僕もすごく気に入ってるけど、聴いた人が心に響くって言ってくれるのをきくと、すごく嬉しい」

「クラスの子らも、めっちゃ喜んだやろ? ほんまにええ歌できたね。合唱コンクール、オレ、観に行きたいくらいやわ」

「校内行事でなければ、観に来て、っていいたいけど、保護者だけが参観OKってなってる」

「やっぱ、そうか~。あとで、録画したやつとか、みられるかな?」

「それはできると思うよ」

「じゃあ、絶対な」

 想太は笑って、

「あ。そうや、楽譜、コピーさせて。 家で演奏するんならかまへんよね?」

 そう言った。よほど気に入ったみたいだ。



 

 これから、合唱練習の日々が始まるけれど、今日の様子を見る限りでは、みんな盛り上がって楽しくやれそうな気がする。演奏や演出のプランも考えないといけないから、まだまだ終わりじゃない。これからだ。

 

 でも、ほんとに音楽ってすごい。

『みんなで協力して』とか『心一つに』なんてわざわざ言わなくても、そこに、想いを共有できる歌があれば、自然に歌声だって大きくなるし、その声もそろう。

 きっと、僕らは素敵な演奏ができる。そう思える。

 

 琉生は、ライブの熱い空気を思い出しながら、胸の鼓動を感じていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る